小売り業の場合、消費者に買ってもらうための筋道を各企業が戦略的に考えているわけですけれど、御社は切り口が独特です。それは「通販」という業態の特性にも深く関連してそうですね。
昔はよく他の業界の方とお話すると、「現物も見せないでよく通販で商品が売れますね」と言われたものです。確かにお店に行けば実際に商品を手に取れますけれど、では、その商品の価値が本当にわかるかといえば、話は別ですよね。
80年代から販売しているロングセラーに「デロンギヒーター」という商品があります。古い大学の校舎にありそうなスチーム暖房みたいな形をしていて、パネルに密封されたオイルを電気で温めて、本体の内部をぐるぐる循環して部屋を暖める暖房機です。これは最初全然売れませんでした。それもそのはずで、オイルヒーターというのはもともと、セントラルヒーティングが普及している欧米で、部屋が暖まってから使う補助的な暖房器具だったんです。だから、スイッチを入れてもエアコンのようには暖かくならない。電気ストーブや石油ストーブと違って熱源がじかに見えないから、見た目も暖かそうではない。だからお店でもあんまり見栄えがしない。
2年間売り方を試行錯誤してみて、補助暖房機ではなくメイン暖房機として売ったらどうだろうと思いつきました。それほど広くない日本の寝室ならオイルヒーターでも十分暖かいし、エアコンのように温風でのどを痛めることもない。つけっぱなしにしても換気の心配もいらない。寝室用の暖房器具としてうってつけだったのです。「寝室に置いておくと、ひと晩中ホテルに泊まっているような快適さ」というキャッチコピーをつけて掲載したら、大ヒット商品になりました。今でもよく売れています。
「寝室用の暖房機」という売り方を発見したことで、商品の中身は同じでも、全く別の商品に生まれ変わったわけです。新しい商品の価値を、メーカーでもなく消費者でもなく、小売りの私たちが新たに見出して、その切り口で売っていくのは、「通販生活」の特長かもしれません。
なるほど。商品の価値を新たに見出すというのは、著名人や愛用者に商品の使用感を語ってもらう御社ならではの手法にも通じそうです。実際、どのくらい商品を使用してもらうんですか?
誌面には、少なくとも半年間から1年は実際に商品を使用してもらった方に登場していただいています。もちろん、編集部でも商品を使い込んでから掲載しているわけですが、それでも、愛用者の方を取材すると、コピーライターでも思いつかないような表現で、その商品を評価してくださることが多いのです。
「ラ・クーノ」という肩たたきマッサージ機がよく売れているんですが、マッサージの叩き心地を荒俣宏さんが「まるでハチドリの羽ばたきのよう」とおっしゃってくださったことがありました。あまりにも商品の特長を見事に言い当てた表現だったので、原稿に使ったことはもちろん、その後商品を改良して新たに加えたマッサージコースの名前も「ハチドリコース」とさせていただきました。
「通販生活」の編集についてお伺いしたいと思いますが、具体的にどのような読者像を想定されているんでしょうか?
中心となる年齢層は、40代〜60代です。ある程度生活にゆとりがあり、リベラルで、お買い物に関しても、さまざまな体験を重ねられてきた大人のお客さま、というイメージでしょうか。新しく商品を買い揃えるというよりは、今まで使ってきた商品を買い替えるほうが多い方々だと思いますので、使う価値のある、そうそう安易なモデルチェンジをしない商品が求められていると思います。
あとは、誌面でカンパを呼びかけると、すごく支援を寄せてくださいます。現在は福島の子どもたちの甲状腺検査を無料で続けている「ひらた中央病院」と「ドイツ平和村」へのカンパ活動を誌面で呼びかけています。「ドイツ平和村」は、紛争地域で重傷を負ったり、重病になった子どもをチャーター機でドイツに連れてきて治療して、治ったらまた母国に帰す活動をしているNGO団体です。「通販生活」では2002年から読者カンパをお願いしていますが、12年間で4億5千万円もの募金をいただいています。人の痛みを自分の痛みのように感じる優しいお客さまがとても多いことに、本当に感謝しています。
そうした読者に満足していただくために、誌面づくりで心がけていることは?
カタログページの編集はお店の売り場づくりと同じことですから、外部に丸投げするわけにはいきません。基本的には社内ですべて行っています。一般の雑誌と違って、カタログは読んで「面白かった」だけではダメなんです。商品を買っていただかないと。商品の魅力とか信頼性をしつこいほど誌面でアピールするために、最もエネルギーを使います。そのためには、写真の大きさやデータの見せ方、愛用者のコメント、キャッチコピーなど、いろんな要素を過不足なくまとめながら、最終的にその商品がほしくなる誌面にしていかなくてはいけません。
デザインのきれいさは多少捨ててでも、サブカットを加えたり、愛用者のコメントを膨らましたり、専門家のコラムを入れたり。読者の購入したい気持ちを、あとひと押しする泥臭さというか、売り手の執念みたいなものが必要になってきます。そこは普通の雑誌とちょっと違うところかもしれません。
創業者の斎藤は上がってきたゲラをチェックする時に、よく「ジャーン」という効果音を口にしていました。「ジャーン」っていうのは、ひと目見た時に「これはすごいね」「これは読みたくなるね」という要素のことです。ビジュアルでもタイトルでもいいんですけれど、何か読者を惹きつける「ジャーン」と言いたくなる要素がこの誌面にはあるのか、ということです。
ただ、インパクトだけあっても読みにくかったら意味がないし、逆に読みやすいデザインでも、インパクトのあるビジュアルやタイトルがなければ、そもそもページに目をとめてもらえません。そのバランスをどう取っていくかが難しいです。たぶん、どこの編集者も同じことで悩んでいると思いますけれども。
カタログ雑誌ならではのキャッチコピーのつけ方もありそうですね。
一番大切なのは、小売りとして当たり前のことですが、「商品についてウソを書かないこと」ですね。あとは、商品を説明する上での論理展開、というと大げさですが、「なぜこの商品を選んだのか」「この商品の最大の魅力は何か」「愛用者はどう評価しているか」「専門家の意見はどうか」「安全上、とくに気をつけるべき点は何か」など、デザインと同じように、通販のコピーにも入れなくてはならない要素がたくさんあります。それぞれの内容を的確に、矛盾のないように文章を構成しながら、買いたくなるコピーに仕上げなければなりません。
あとは、「商品の欠点についてもきちんと説明すること」を心がけています。たとえば、「性能はいいけれど、作動音が少し大きいです」とか「厚手なので冬場に洗濯すると乾くのに1日かかります」とか。「デメリット表記」と社内では言っていますけれど、編集部で使ってみてわかった欠点やお客さまからご指摘を受けた不具合はメーカーにお願いして改良したり、改良が難しいものは商品の欠点として、誌面でお伝えするようにしています。
|
カタログ雑誌「通販生活」定価180円(税込み)発行:株式会社カタログハウス 1982年に創刊した株式会社カタログハウスが発行するカタログ雑誌。発行は、春号、夏号、秋冬号の年3回。100万部は定期購読者向けに発行し、10万部を書店・コンビニに流通している。商品の使用価値にとことんこだわり、1ジャンル1点主義を基本にしているため掲載商品は100点ほど。巻頭総力特集ページには商品情報と企業の社会的メッセージを融合した企画を立てているのが特徴だ。 |