入試で活用される場合には、どのような使われ方が想定されていますか。
まず、2019年で現在のセンター試験を終えることが検討されていて、2020年には、名称は今後変更されるかもしれませんが、「到達度テスト」を開始することが計画されています。現在は1年に1度、約50万人が一斉にテストを受けていますが、年に複数回受験して学習の到達度を測るように、英語に限らず入学試験の形が変わっていく流れがあります。
そして英語に関しては、4技能均等試験を作成するというのは専門のテスト機関でないと難しいものですから、資格検定試験を活用することになるでしょう。2020年の段階では、さまざまな4技能の資格試験を受験生が皆受けるようになることが予測できます。
各大学の二次試験でも4技能資格試験が使われると考えられます。この動きは、2020年までの6年間で段階的に進み、たとえば、上智大学ではすでに「TEAP」を一般入試の出願基準として使用しています。ある一定の点数をクリアしないと残りの2科目に進めないという基準点方式です。筑波大学は、2017年には現在実施している英語の試験を廃止し、4技能資格試験にするという計画を公表しています。
その他、一般入試だけではなく、AO入試、推薦入試の評価ポイントとして4技能資格試験のスコアを考慮する方式も広がることが予想されます。
そうすると、今後、英語教材をつくる上では、大きな変革が迫られますね。
そうです。2020年以降は、今ある大学入試の参考書が、ほとんど使えなくなってしまう可能性があります。出版社としては、昭和の受験対策書づくりから脱却して、4技能の英語力を高めるための本づくりを目指していかなければならないと思います。
もちろん、試験対策書というのも必要になってくると思うんですが、それよりもむしろ、英語の「読む・書く・聞く・話す」を、純粋に能力として高める書籍づくりが重要になると思います。すると必然的に、書籍をつくるときには、ダウンロードなりCDなりで、必ず音をつけるということをやらなければなりません。
4技能試験の大きな特徴は、文法問題がほとんど出ないことですから、今後、問題を解くための文法というのは、ひょっとしたら絶滅するかもしれません。もちろん、文法がなくなるわけではありません。解くための文法だったのが、これからは話し、書き、読み、聞くための文法、つまり使用文法がメインになっていくと考えられます。
文法とリーディング中心から、入試においても、実際に使えるスピーキングやライティングが大事な時代に入ってくるのですね。音をつけることは必須となり、さらに参考書はどのような形式になっていくべきでしょうか。
書籍とパソコンソフトとのハイブリッド形式が必要になってくると思います。
スピーキングテストには、いくつかの形式があり、人と対面して行うインタビュー形式もあれば、iBT、CBTといった、コンピュータからの指示に従って音声を吹き込んでいく形式もあるわけです。後者の形式は、書籍にパソコンソフトを添付することによって、教材として提供できると思います。
今まさに改革が動きはじめたところですが、参考書づくりは、今すぐに変わっていかなくてはならないでしょうか。
2020年まで6年ほどで段階的に進みますので、今すぐに完全に変わるというわけではありません。
ただ、確実なのは、昭和の時代につくった書籍を売り続けることは困難になるということです。出版社さんによっては、昭和中期につくった参考書の売上に依存しているようなところもあるのではないでしょうか。それは入試がこれまでほぼ同じような形をしていたから可能だったこと。特に文法問題を解説するような古い書籍は、私の本を含めて、今後は売ることは難しくなると思います。
これは決してマイナスの事象ではありません。新しく世の中の人たちが求める書籍をつくった出版社は英語を推進力にしてさらに発展するでしょう。今までのものに安住しなければ、大きなビジネスチャンスが到来するということを意味しているわけです。
現在は過渡期にあるということですね。そんな中、今現在、ご自身でつくりたいと考えている参考書はどのようなものですか。
現在、私自身がまずは、教材や講座として作成したり、皆さんに提唱していこうと思っているやり方は、「Reading and Listening Integrated Learning」。読んだものは聞いてもわかるようにする「読解・リスニング融合型学習」です。リスニングの力が身につき、リーディングの力はリスニングによってパワーアップされます。
これなら、読解に偏った現在の入試でも大きな効果を持ち、かつ入試が4技能に変わった後もまだ使い続けられるでしょう。このような読解・リスニング融合型学習を具現化する教材やテキストなどをプロデュースしていくつもりでいます。
長年、予備校で英語教育に携わってこられて、現在の改革活動は、ご自身がやってきたことの否定をしていることになりますね。どのような思いがあるのでしょうか。
25年間この業界でやってきて、この偏った受験英語のしくみがある限り、絶対に英語教育が良くならないということは、仕事としてやっている本人がよくわかっています。
リーディングのみの1技能に近い偏った大学入試への、さらにまた偏った対策を予備校で提供する。その予備校教育から生み出された本が受験英語の発信基地になり、高校の先生方までそれを参考にすることも多い。25年間、私自身、そのしくみの中で仕事をしてきたわけです。これをやり続ければ、日本の英語教育にはグローバル化も何もありません。小学校でやろうが中学校でやろうが、一部の先生がものすごく頑張って4技能を教えても、結局、大学受験というこの化け物が、英語教育の努力を全てつぶすという現状を目の前で見てきて、実際私自身もつぶしてきていたわけです。
大学入試に合わせた予備校教育は現在の入試の下では必要悪のようなものです。予備校を改善しようとしたって、大学の入試問題の8割が読解という現実の前には、永遠に改善できない。根っこからやるしかないんですよ。だから、今回、この業界から呼ばれて文科省の皆さんに信頼していただき、大学入試改革の仕事に携わったんです。
私が長い間、改革したいと思ってきたことが、皆さんとの協力によって政策に反映されました。このまま改革努力を続けていけば、英語入試は4技能試験に変わるでしょう。
そうなれば、予備校・塾の業界は英語を中心として大きく変わるでしょう。私をこれまで育ててくれた塾・予備校業界の皆さん、そして仲間の、塾・予備校の先生方に対し、私は、授業をどういう風に変えていけばいいのか、しっかり情報として発信していく責任があります。そして当然、今までお世話になってきた出版業界の皆さんに対しても、今後どういう本をつくればいいのか、情報発信することが私の大事な仕事だと考えています。
今どういう改革が示されて、どこまでそれが進んでいるのか、このような取材も通じて、今後も皆さんにちゃんとお伝えしていきたいと思います。
この6年間は、英語教育において、戦後最大とも言える大きな改革に国が着手することになります。出版業界の皆さんにとってはビジネスチャンスでもありますので、変化に合わせて、良い本をたくさんつくっていただきたいと思います。