1967年、福岡県北九州市生まれ。上智大学卒業。東進ハイスクール・東進ビジネスクール講師。実用英語教育の普及、特に、スピーキングテストを普及させる活動に取り組んでいる。それが認められ、2014年2月~9月、文科省の「英語教育の在り方に関する有識者会議」のメンバーとして英語教育改革に携わった。TOEICスコアは1390点満点(Listening, Reading + Speaking, Writeing)。ビジネス書や参考書を多数執筆する他、Ted Eguchiの名で、多読が可能になる英文ノベルも出版している。 |
グローバル化の必要性が叫ばれて久しい。「実際に使えない」英語教育の改革が必要であることも、ずっと言われ続けてきたものの、現実に改革には結びついてこなかった。しかし、本格的なグローバル社会の到来に備え、国も英語教育改革に本腰を入れ始めた。
これまで「外国語活動」とされてきた小学校での英語が教科化され、中学校・高校では、授業を英語で行うことも検討されている。英語教育に大きな変革が起ころうとする今、2014年2月から9月まで開かれた、文部科学省の「英語教育の在り方に関する有識者会議」のメンバーであり、東進ハイスクールの英語講師である安河内哲也氏に、今後の英語教育の在り方と必要とされる英語教材について尋ねた。
英語教育の改革を推進していらっしゃいますが、現在の英語教育をめぐる改革の意図や動きについて教えて下さい。
まず、これから人口が減少し、内需が縮小していく我が国において、今の生活を国民全体で維持するには、海外の皆さんと一緒に繁栄する国を目指していかなければならない現実があります。
そして、さまざまな調査で日本は、英語以外の科目は非常に高い水準であることを示していますが、残念ながら、英語に関する調査では、いつも世界で最低ランクのひとつになっており、教育の問題の中でもまずは英語を何とかしなければならないということになっています。そこで、私もメンバーであった「英語教育の在り方に関する有識者会議」(以下「有識者会議」)が招集されたわけです。
予備校講師というお立場で「有識者会議」に出席されたのですね。
民間教育の世界から選ばれたのははじめてらしいですよ。「有識者会議」では、グローバルな社会に対応できる人材を育てるため、さまざまな年代における英語教育全体の話がなされましたが、私は予備校で長年教えてきた大学入試の専門家ですから、大学入試の改革を中心に発言させていただきました。大学入試を変えない限り英語教育は良くならないと考えていますが、これは私だけではなく、政治家、官僚、実業界の方、多くの方々のコンセンサスとなっています。
大学入試の英語の問題点とは、どのようなものでしょうか。
個々の設問の良い、悪いとか、どの大学の出題が良いとか、そういうことではありません。問題は出題バランスです。
現在、世界で信頼性が高いと評価されている英語の試験は、4技能均等試験です。4技能とは、Speaking(スピーキング)、Writing(ライティング)、Listening(リスニング)、Reading(リーディング)。たとえば、アメリカに留学するときに使われる「TOEFL iBT」、世界で最も受験者が多い「IELTS(アイエルツ)」、こういった試験では4技能がバランス良く均等に評価され、出題で使う言語は英語のみです 。このような試験が世界の常識と化している中で、日本の入試では、8割以上が読解の問題。それも、日本語を使用する翻訳の問題や、あまり使われない文法ルールを聞く問題などが含まれて8割です。リスニングにいたっては2%以下、さらにスピーキングはゼロという状況です。
高校、特に進学校といわれるところでは、2・3年生には受験に向けて勉強をするため、この入試問題の出題バランスが、進学校での英語教育に大きな影響を与えています。小学校から4技能をしっかりと勉強してきた子も、受験の前の2年間は出ないスピーキングを省いてしまうというような現象が起こっています。
実は、学習指導要領では、小学校からずっと、4技能をバランス良く教える、もしくは4技能を統合して教えることとなっています。現在は、学習指導要領とその評価である入試が合致していないところに悲劇があるわけですね。仮にこの大学入試が日本の高校生のレベルに合った4技能均等テストに生まれ変わるならば、学習指導要領と入試が整合性を持ち、現場の英語教育に良い影響をもたらすのは間違いないでしょう。
そこで、大学入試の英語で、グローバルに通用する英語のみの4技能均等試験を活用することが、私たち「有識者会議」の結論として決まりました。
大学入試で4技能を測ることで、高校、中学、さらには小学校での英語教育が変わってくるのですね。しかし、「テスト」を中心に教育改革を行うことに反対意見はありませんか。
「テストで煽り立てることが教育ではないだろう」という意見はもちろんあります。それに関しては、私もその通りだと思います。しかし現実問題として、テストはとても大きな影響を与えます。高校2・3年生は、もしかしたら人生でいちばん勉強する時期ですが、この時期の教育を、受験を無視して考えることはできません。
さらに、日本という国は、EFL(English as Foreign Language)環境、英語を外国語として学ぶ環境にあります。この環境では、日常生活で英語を使う必要性がほとんどないわけですから、テストのような目標を設定してそれに向けて頑張るということが学習のモチベーションを生み出す大きな力となっていくのです。
「有識者会議」では、「グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言」が発表されました。英語の入試に関わることでは、どのような決定がされたのでしょうか。
際立っているのは、「改革3」という項目です。「入学者選抜における英語力の測定は、4技能のコミュニケーション能力が適切に評価されることが必要」、「入学者選抜に、4技能を測定する資格・検定試験の更なる活用を促進」という文言が入り、これは今のところ中央教育審議会でも追認されています。
今回の「有識者会議」以前は、入試に英検やTOEFLやTOEICを活用するというような文言が政策文書の随所に見られましたが、これはテストの専門家からするとめちゃくちゃなことなんです。英検と言っても4技能からリーディングとリスニングのみの2技能までいろんな級があります。TOEIC試験は一般的には2技能試験、TOEFLにも2技能のものと4技能のものがあります。
つまり、以前は、2技能と4技能の区別をしていなかったんですね。しかしながら今回、「4技能を測定する」と、政策文書に盛り込まれたことによって、2技能や3技能の試験は使用しませんと、政策として宣言したわけです。
今後、入試の英語に、4技能の資格試験が活用されていく可能性が高いのですね。4技能の資格試験というと、どのようなものがありますか。
現在は、「TOEFL iBT」、「IELTS(アイエルツ)」、「TEAP(ティープ)」、「GTEC(ジーテック) CBT」、この4つが4技能均等型試験として完成しています。それに続くものとしては、たとえば英検があります。英検は、今後、4技能均等型、つまりスコア型に生まれ変わる予定です。その他、さまざまな試験が、今後4技能均等スコア型に生まれ変わって、複数のレベルを埋めていきます。
あまり多くの試験があっては混乱するのではありませんか?
今よりははるかに良くなりますよ。今は、約700の大学が学部別にそれぞれ問題を作成、技能バランスも問題内容もバラバラです。これが5~10種類くらいの、技能バランスは1:1:1:1に揃えられ、内容もよく似た、レベルが異なる試験に統合されていくわけですから、受験生は勉強がしやすくなるはずです。
これらの試験の間でも競争原理が働き、受験料の引き下げや、試験の妥当性、運営の利便性を高めることに努力したところが、生徒や大学に支持されて勝ち残るようになるでしょう。