「デザインが担うもの」
川崎 皆さん、こんばんは。きょうはデザインの話をさせていただこうと思います。皆さんは編集、編集といってもわれわれも一緒にやらせていただきますけれども、幅が広い。きょうもデザインの話をどこまでしたほうがいいかなと思っています。一応てんこ盛りにしてあるので、いま皆さんにお配りしているのはいわゆる画面のキャプチャーではないので、「いま、これです」と言うので見ていただければと思います。メモ等は余白に書いていただければと思います。
きょうは「デザインが担うもの」という話をします。私は、デザインを学ぶ人よりも、デザインにはあまり関係のない方にデザインの話をすることが多いです。
皆さんは、デザインを発注することが多いかと思います。上がってきたものをどれがいいのだろうとか、これでいいのかな、何となくよく分からないみたいな、何となくからの脱却。判断に迷わない。皆さんが判断をするときに、どのようにデザインを判断すればいいかという話をしたいと思います。
僕はいつもこの画像を出します。これは全部おすし屋さんです。スシローから久兵衛までそろっています。皆さんはどうですか。美登利寿司に並ぶ派ですか。穴子一本握りとか。何を言いたいかと言うと、これは一般の方に言うのですが、きょう、どのおすしを食べるか。どこに入るか、これを見てみんな分かるのですね。こういうところできょうはバチッと決めたいなとか、築地の場内に行きたいとか、きょうは子連れだからスシローでいいやというふうに。いまは食べログがあるからファザードにだまされることもないのですが、店構えのデザインからその価格帯が何となく分かって、そこに自分が入るかどうか、自分のステータスと比べながら入ることを無意識のうちに皆さんやっています。
どういうことかというと、デザインがどういう機能をしているかを、言語化はしていないけれども何となく分かっている。だから、「デザインが分からないんだよね」ということはない。みんな雰囲気とか気分でちゃんとやっている。そこがいざとなったとき、自分じゃなかったらどうなるか分からない。そこが問題です。自分ならそういうところがちゃんと分かるのなら、そうではないときにこのような……。でも、皆さんはいつもデザインをチョイスしているので、「私はデザインが分からない」ではなくて、デザインをちゃんと冷静に判断しましょうという話です。
さっきご紹介がありましたけれども、川崎といいます。DNPならぬ、もともと凸版の人間です。そのあと、アスキーで『MacPeople(マックピープル)』という雑誌のデザインをしていました。凸版ではエンジニアだったのですが、アスキーでデザイナーになって、あとはパッケージのデザイン。最近の子は「スターウォーズ エピソード1」のときに生まれていないと聞くと、ちょっと気が遠くなります。
僕は余談が多いのですが、ファミコンは20年前ではなく40年前だと、いま話題になっています。みんな気が狂いそうになる。世界大戦からファミコン、ファミコンから今がほぼ一緒の時間だそうです。怖いですよね。これは『グッドデザイン年鑑』で、僕は分厚めのエディトリアル・デザインをやることが多かったです。いまは「SUUMO」になっていますが、「住宅情報」と言っていたころのアートディレクターをやっていました。
僕が持ってきたのではなく用意していただきましたが、こういう本も書いています。『実例で学ぶ「伝わる」デザイン』。もしかしたら、こちら(『なるほどデザイン』)は皆さんご存じですよね。「持っている」という方、残念ですが、著者ではありません。これはうちの社員の女の子が書きまして、編集協力をしています。このように主にエディトリアル・デザインをやっていますが、著書も持っているような人間、川崎です。
うちの会社は全社員、こういうポートレートを撮るんです。「なんだこいつは」と思ったでしょう。うちの会社は全員プロのカメラマンが撮るのですが、最近こういうのをやるのですよ(笑)。すごいですよね。
デザインの話をするときに、僕は必ずデザインの領域の話をします。デザインというのはとにかく広いのです。いまご高齢の70歳ぐらいの方に「デザイン」というと、ファッションデザインを思い浮かべる方が多いです。日本はデザインと言えば、高田賢三さんや森英恵さんなどファッションデザインが頭角を現したので、デザインとは、まずファッションというところもあります。
でも、そうではないです。まずデザインと日本語で言うと意匠。昔は大学のデザイン科を意匠科と言っていました。設計もデザインですよね。このへんが怪しくなってくるのですが、最近は社会構想も社会デザインとか、何でもデザインになってきている。こちらにアートがあります。デザインというと、このへんは全部デザインなので話がごっちゃになって、空中戦が起きる。みんなの考えているデザインが違うのです。「もっといいデザインをしてほしいです」と言ったときに、ビビッと響くアート感のある絵なのか、しっかり設計されたものを予想しているのか、どちらもいいデザインですよね。これがいけない。
さらに言えば、これはアート作品ですが、もう今は無いのですが、御茶ノ水の明治大学の裏にあったものです。これは超危ないです。ぶつかったら、けが。アート作品にこんな冒涜はないですよね。
これは虎ノ門にある銅像のアートですが、ぶつかったら危ない。すごいですよね。これは何かというと、アートだから何でもいいわけではない。街なかにアートを置くときにデザインしないと、けがをする。アートの中にデザインが足りないのです。だから、こんなみすぼらしいことをされてしまう。自業自得といえば自業自得ですが、そこに設計とか、いわゆるデザインする感覚がないとこういうことが起きる。
デザインと言うといまはこのように広い。さらに言うと、デザインの中にもブランディングとか、サービスデザインとか、これは余談ですが、隣に黒いムサビ(武蔵野美術大学)がありますけれど、あのへんはサービスデザインをやっています。ソニーミュージックはいまムサビになっています。来るときに通りましたよね。「あれ? ここはソニーミュージックじゃなかったっけ」と思った人もいると思いますが、いまはムサビになっています。
あとはビジネス構想とか、このようなデザインがあります。このへんはいわゆるグラフィック・デザインとか、私のメインの、皆さんで言うところのエディトリアルです。あとは最近Webとか、アプリで言うとユーザーエクスペリエンスやユーザーインターネット、このへんの話をされると頭が痛いですよね。いまはデザインと言うと、本当に空中戦になります。
きょうは結構広めのデザインの話をしますが、皆さんもデザインと言うときに、どこの話をしているのかしっかりお互い、こういう絵を描いてもいいと思いますが、コンセンサスを取りながらデザインの話をしたほうがいいと思います。ユーザーエクスペリエンスは最近UXとか言われますが、あとはサービスデザイン。これは、サービスもデザインしてしまえみたいな、頭だけでこんなことを言っていいのかと思ったりしますが、こういうのがいまはやっています。
だから、皆さんやクライアントさんとかがデザインへの期待、さっきも言ったけれど、「いいデザインにしてください」と言ったときの期待と、デザイナーのデザインの意識、認識がずれている。ずれるのです。これは意識したほうがいいです。さっきのところでもう1回見てみましょうか。
デザイン、いいのをください。このへんを狙って、「新しい、キラッとする何かをください」と言って、「分かりました。いいデザインね。このフォーマットが何にでも応用できるようなきっちりした設計のものをつくりました」と。話が合わないです。こういうことが結構、日常で起きているはずです。このへんでみんなの求めているものとデザイナーの言う、よくあるのはこっちですよね。「もっとしっかりやってよ。フォーマットが利いていて流用できるようにしてねと言ったじゃん」。かっこいいのをボーン、「使えない」みたいなことはよくあるでしょう。こういうことが起きているのです。デザインの領域の話が広過ぎる。そのためにこうした齟齬が生まれるということが起きています。デザインへの期待とデザイナーのデザインの認識のずれを、編集という立場においてそこはしっかり整理をしないといけない。
皆さんはいろいろなやり方があると思いますが、ちゃんとエンドクライアントというか、企業のクライアントさんがいたとして、皆さんの編集でデザインをかませるときに、こんなことがあるとすごく痛いですよね。皆さんがちゃんとやらないと事故るパターンです。これぐらいのことはしっかり意識しておいてもいいと思います。
ここで編集とかのデザインのおさらいをしておきます。なぜ「おさらい」と言ったかというと、「分かっている」という話なので、皆さんエディトリアル・デザインという認識があるかどうかですが、ここにちゃんと「グラフィック・デザインと異なり」と書いたのです。本当はグラフィック・デザインの中にエディトリアル・デザインがあると思うのですが、グラフィック・デザインと異なり、編集上の目的意識を持っているということです。エディトリアル・デザイナーは、見た目は結構しょんぼりしているでしょう。こんなことを言っていいか分かりませんが、奇抜な人はあまりいない。普通の格好で丁寧に仕事をする感じです。
なぜかというと、編集上の目的意識をしっかり持って計画を立ててモノを設計しようとしているのです。それがエディトリアル・デザインです。そこが「グラフィック・デザインと異なり」と言われるところでもあります。統一的、総合的な情報伝達なので、計画をバリバリしないとエディトリアル・デザインは不可能だと書いています。
ここもおさらいです。みんな知っている話です。上に「そして、編集デザイン」と書いてありますが、これはあとで出てきます。皆さんは編集として、新人の方にこの絵を使うといいのではないですかね。編集といっても、雑誌の編集っぽいかな。編纂系の人には当てはまらないかもしれません。社会風潮やトレンドなど、次はこういうことを……。書籍もそうです、このネタいけるのでは? と編集さんは考えている。何が当たるか分からないですから。
こういう原稿で著者やライターに発注します。素材をデザイナーに渡して、デザイナーはデザイナーでいまのトレンドと、「それ、おもしろいね」というところはシンパシーを持ってお互い共感を取りつつ、「いいね!」みたいなイメージとして取り組む。皆さんは企画として取り組む。こんな関係性の中で発信をしていくことが起きています。質の高い編集とデザインが近いと、意見を出し合って協業できるのです。
雑誌の編集長はAD(アートディレクター)を抱え込んだり、雑誌の編集長が替わるとADが替わったりしますよね。ここは一蓮托生みたいな感じがあって、俺の感性が分かるツーカーなやつと一緒に仕事をする。雑誌華やかかりしころの構造かと思います。
実はもうこんなことになっているのではないか。これは「編集デザイン」と言っています。変な用語を使ってしまったのですが、「いや、当たり前だろう」という感じですけれど、1人でやる。自分でやってしまうみたいな。要は、イメージも企画も丸ごと全部自分、もしくは自分たちでやってしまう。
たとえばWebコンテンツを発信するような編集の中においては、デザイナーとか編集者とかに関係なく一蓮托生というか、誰がデザインとかではなく一緒にやる。社会トレンドとかコンテキストというイメージを一緒に取り込んでしまうことが起きるだろうなと思っています。たぶん情報発信の現場においては、コンテキストをつくる人たちが小さくなってきているので、大きいプロダクション化して何かをつくる時代にも……。Webサイトとかの設計においては巨大な組織を持つようになってきていますが、コンテキストを発信するのは小回りの利く団体でパカパカ動くということが起きているところにおいて、編集もデザインも一緒にやってしまえ、みたいなことが起きている。
きょうはデザインを担うことにおいては、皆さんがデザイン発注をどうするかということもありますが、皆さんはデザインのこともしっかり考えてやってみる。自分でデザインするわけではないですよ。してもしなくてもいいのですが、デザインのことを私も考える。デザインを考えるのはデザイナーというのではなく、私も、デザインもやっていかなければいけないということになっています。もしかしたら皆さん、そんなことはなくしっかり分業できて仕事になっている人もいるとは思うのですけれども。
昔は東京のデザイナーは結構分業ができていて、編集、デザイン、印刷が全部しっかり分業されていて、デザイナーはデザインだけやればいいと。でも、関西のほうに行くと、「このコピーはわしが書いたんや」みたいな感じで、何でもかんでも一緒にやってしまう。取材もしてしまう。取材にデザイナーも一緒に付いていく。「何だったら、わしがコピーを書くで」みたいな感じで、小さくなるとそういうことが起きます。もしかしたらデザイナーが編集のほうに足を掛けに来るかもしれない。そういう意味で一緒にやることが起きている。こういうゲリラ的なというか、小さく回れるような編集デザインの世界にいるかもしれません。きょうはいろいろな方がいらっしゃると聞いたので、いるかもしれないということです。いままでどおりきっちりやっている人たちもいるとは思いますが、もしかしたら、もうこんなところにいるなと言う人もいるかもしれない。
また本が出てきました。私は、デザインは伝わらないと駄目だといつも思っています。伝わることを非常に気にしています。
編集者であり、作家である川崎昌平がいまなぜか当社にいるのです。彼は同人誌をつくろうとかという本を最近いっぱい出していますが、彼と今期東京工業大学で授業をやっています。そこで「伝わらないデザイン」という講義をやっています。学生と一緒にいろいろテーマを出し合うのですが、東京工業大学なのでデザイナーではないです。彼らに分かりやすいようにトホホなUI、たとえば駅の矢印方向が変だとかいうのをいっぱい探してこいという。伝わらないデザインを知ると、「伝わるとは何なんだろう」ということになる。みんながいっぱい写真を撮ったり、ネットから調べてこれは伝わらないねというのをみんなで集めて笑い転げていたのですが、その中で伝わらないって何だろうというところに傾向が出てきました。編集とはちょっと違い、少しプロダクト寄りの話になっています。
下の小さい文字のほうはプロダクトっぽい話ですけれど、上の表題を見てもらうと分かると思います。提供と要求がずれている。これはよくありますよね。事故の元です。何か持っていったら「違う」と言われるやつです。皆さんも大いに経験していると思います。何か違うと。提供と要求がずれている。提供過多で、欲しいものと違うこともよくあります。あとは身体性とずれている。こういうのはプロダクト系で非常に多いです。なぜ手で動かすのに、こういう配置なの? みたいなのが結構あります。
あとは前提条件がずれている。習慣とか言葉の理解がずれているとまったく使えなくなります。新国立競技場の英語訳がおかしいとか、いまはやっていますよね。こういうのがあると、みんなネットで「イエーイ」と言って取り上げて笑い転げています。
あと迷路化。これは普通にありますよね。整理されていない。さっきも僕は凸版印刷だと言っていましたが、昔の大日本さんに出張校正とかで来たのですよ、まだ迷路化しているころに。もう迷路化していないそうです。昔はこう曲がってこう行って、そこを曲がって次のあそこの会議室で出張校正とかをやっていましたが、いまはそうではないそうです。
あと、もう1個こういうものが出てきました。「伝えようとしていない。知りたくない」。これが結構大きい。これがいま結構大きいと思っています。発信側としてもともと言う気がない。知りたくない。
皆さんは違うかもしれませんが、世の中の人たちはもう活字を見ないですよね。新宿駅に、ガムテープで修悦体という文字をガムテープで標識をつくっているおじさんがフィーチャーされましたが、あれはなぜかというと、印刷物ではなく手でつくっているので、何だこれ、でも読めるみたいな。知りたくないを覆すようなことをやっている。だから何となく情報が伝わる。いまはみんな知りたくないのです。そのへんにある文字情報も知りたくない。見たくない。見ていてもスルーしている。なので、これが伝わらない。でも、ここはすごく大きな問題です。
あと、伝えようとしていないというのもあります。これも一つのインテリジェントだったりはするのですけれど、分かるやつだけ分かればいいと。よく怒られるやつです。「おまえ、分かるやつだけ分かればいいと思っているだろう。そんな企画が通るか」みたいな話です。こういうものが結構出てきて、これは本質だなと。デザインにおいても、これを回避するようにしっかり考えないと伝わらないぞということになります。
では、伝わるって何だろう。伝わる基本3ステップ。ここに書いてあるのは、フリーペーパーが出だしたときの理論です。みんな文字を読まなくなった。そういうときにどうするか。受け取る時間を確保する。これぐらいならお時間ございますかという、『R25』はワンボックスのテキスト文字を250文字にすると、とりあえず読めるというところで、受け取れる量でつくっていったそうです。ちょっとした隙間で250文字ぐらいなら読めるでしょう。250文字のキャプションとかを書いていませんか、大丈夫ですか。いるのですよ、250文字のキャプションを書く人が。それは本文だろう、みたいな。いまとなっては、たぶん250文字のキャプションは誰も読めませんよ。
いま、スマホとかで雑誌を読めますよね。iPadでもいいです。パッと冷静に見てください。なんと情報量が多いなと思う。よくこんなものを毎月出していたなと。いまのWebで見る情報の軽さからすると重い。すごく重いです。なんだか暑い。ちょっと暑苦しい、そんな時代です。こうやって見るとき、あの情報量はすごく暑いですね。「暑いから、どこかに行って」みたいな感じで、受け取れる量が変わってきているかもしれない。1000ワードとかも読めないかもしれませんよ。もしかしたら250も読んでくれないかもしれない。
あとは、受け取った。これがすごく重要です。最近の人は裏切られたとすぐ思ってしまいますからね。「なんだ、このくそ文章」みたいになります。ツイッターも140文字書くと、たぶん読まないでしょう。見ないでおもしろいのがガンガンリツイートされていく。ここはコピーですよね。こんな感じです。これはすごく基本的な、受け取る時間はこれぐらいのものです。「皆さん、時間確保してね」と。受け取れる量です。皆さん、これぐらいなら読めるでしょう。これは何かというと、人によって違う。人によってというのはサラリーマン、小学生、人によって違うし、置く場所によって違う。駅に置くのか、本屋に置くのか、もしかしたら画面で出てくるのか、それによって違う。
確保させたからには、「ああ、満足した」と思わせないと、最近の人は仕返しが怖い。「損した。俺の時間を奪った」とすぐ怒るタイプなので、このへんはすごく重要です。単純だけど、当たり前じゃんという感じですけれど、自分のやっていることを考えると、この当たり前がなかなかできていなかったりする。
これは編集においてもそうですが、デザインもこれを確保してあげる。デザインでこういうことをやってあげる。パッと見、これは受け取れるなというデザインを提供する人がいる。36歳の女性に、「いま読めるわ」と思わせるデザインにしてくださいということです。かなり明確になってきたでしょう。そうしたら、デザイナーと編集の間に共通言語ができる。「受け取れる量にしてね。こういう場所に置くから、そこの滞在時間で読めるようにしてほしいの。それを私が文章入力するから、それを読めるように見せて」。読んだら、ここは皆さんの技量です。「なるほど、いいね」というところです。これが非常に基本になります。
次に、関心とアプローチ。いまはもう当社から独立したのですが、うちに荒金大典というアートディレクターがいました。もともとマガジンハウスの『Tarzan』、いまは『anan』と『クロワッサン』のアートディレクターをやっている荒金大典が考えた、「フック」「キャッチ」「フィット」の原理です。関心のアプローチは3段階あり、フィットは寄り添う。これは雑誌が得意とするところです。「もう僕の読者だよね」みたいな。その人には寄り添う、ツーカーの情報伝達をしていくという感じです。たとえば僕の世代だと、本屋さんに行くと、ファッション誌『2nd(セカンド)』があります。アウトドアだか、カジュアルだか、フォーマルだかの微妙なラインを取るのです。これはアメリカでずっと長く使われているブランドですと詳しく書いて、オッケーです。
キャッチ、潜在的な関心へのアプローチです。何となく気にしている人をキュッとつかまえる。さらに言えばフック。これは全然関心のない人をキュッとつかまえるフックという三つのアプローチがあります。
『Tarzan』でいくと、特集の扉ページの青いところがフィット、寄り添う感じ。黄色いところがキャッチ。赤はフック、引っ掛ける。『Tarzan』を買っているのだから、もう腹は凹ませるのですよ。「ちょっと腹を凹ます」と言えば、『Tarzan』の鉄板ネタです。だいぶ古い号ですが、いまだに腹を凹ませています。ここ10年ぐらい腹を凹ませる腹凹をやっています。このへんは、じゃあ詳しく読んでみようと。
次のページに行くと、だいぶ青が減る。どんどん、どんどん引きずり込んでいますよね。次に行くと、さらに引きずり込む。かなり詳しくなる。この文章量は、いまはもう読めないですよね。雑誌はすごい文字量があります。でもここに来ると、やるぜと。ページをめくっていくと、どんどん、どんどん深みにはまるような設計になっている。これが雑誌というものです。
これは『Honda Magazine』。ホンダの四輪を買っているお宅に届いているものです。これも当社でデザインしていますが、「カブ50周年」、だいぶ前です。まず、ここで無関心層を引き付ける。届くけれど、奥さんはホンダのスピリットはどうでもいい。ちびっこもホンダのバイクは好きだけど、本田宗一郎のことは知らないみたいな感じなので、まずは引っ掛ける。まだまだ引っ掛けると。さらにバンと引っ掛ける。なので、雑誌とは全然つくりが違います。パラパラパラとめくったときに引っ掛かるように、赤いフックで、引っ掛けるような構造になっています。デザインでこういうことをやっています。要は戦略とか仕組みをデザインで実行する。その意味で言うと、結構戦略的ですよね。
やっと皆さんにお配りした紙のところにあるのが来ると思います。伝わるツールモデル。これは古いものですが、いわゆる読むものの構成です。真ん中にコンテンツがあって、言いたいことをデザインがコーティングします。
付加機能というのは、ここから買い物をするとか、どこかのサイトに飛ぶみたいな。いまはたぶん付加機能がとても大きいです。ここのQRコードだけでいいみたいな。それをさっきの引き込む構成が囲んでいるような構造を取っています。
ポジショニングというのは、一つの団体から何冊とか何コンテンツかあるけれど、カニばっているときがありますよね。同じことを言っているみたいな。ちゃんと役割分担をしない。縦割りだから同じものをみんなが勝手につくっている。よくあること。ほかのポジショニングを考えようぜというところです。
ここが重要。送り手、言いたいことと受け取りたいことのバランスをしっかり取る。これができていません。言いたいだけ。欲しそうな情報だけ。これは最近Webとかでよく見ますよね。「欲しいでしょ?」みたいな、これだとどんどん虚しくなります。文化の香りがどんどん減っていくやつです。ここのバランスを取る。これは編集者の仕事です。しっかりここをやりましょう。
こういった構造で情報が伝わるように伝達していく。なぜこの図になっているのかというと、1個1個分割して考えてもよいですよということです。構造いいの?、構成いいの?、デザインいいの?みたいな感じで、パーツパーツをいろいろ考えていくと、バランスが取れていくかなという感じです。さらに分解すると、ドン。これがたぶん皆さんと同じ。なぜいままで駆け足でしゃべってきたかというと、これを説明しようと思ったのです。
これは、いわゆる企業のクライアントさんと、その間に入っている編プロさんと私の構造で、いろいろなことをクライアントさんに提案しますよね。クライアントさんは何とも都合のいいことを言うわけです。自分で判断をしない。これは私がつくった怒りのシートですが、怒りが伝わるのではないですかね。こっちはそんなに怒りが伝わらないですが、制作用。デザインにおいて、「読みやすさ」「伝わりやすさ」って何? ということをまとめています。編集の方に、このへんをチェックしなよということをすごく細かく書いています。こんなに読めないというぐらい文字を書いています。
怒りはこっちです。チェック用。「あなたの好みで決めないでね」ということがここにいっぱい書いています。このように言いましょう。「あなたが好きだから」は駄目です。「あなたのお客さんが好きかどうかを判断するのはあなた」、キーポイントです。このように書いています。
「読みやすさ、伝わりやすさのデザイン基本要素」と書いています。伝統的に書籍・雑誌等のデザインで培われてきた「読みやすさ」「美しさ」「伝わりやすさ」が、どういった規則になっているかを分解しています。文字、写真、図解、レイアウト、版型、あと読者行動、ブランディングなどになっています。いちいち説明をしてみましょうか。文字ってすごく重要ですよね。皆さんは文字を生業にされているので、文字がどう伝わるかをデザイナーは考えていますし、考えなければいけない。文字のサイズは読みやすさの基本だけど、新聞などもそうですが、文字が大きくなった。大きくすればするほど読みにくい。いまの新聞はとても読みにくいでしょう? なぜ、「しっかり矯正された眼鏡を掛けろ」と言えないのか。
僕もだいぶ老眼が入ってきたのですが、老眼が入ってきたから彼らの気持ちが分かるようになったかなとは思うけど、やはりちゃんとした眼鏡をつくってくださいというのが、僕の……。「字が小さくて読めない」ではなくて、「あなたの眼鏡をちゃんとしましょう」と。あと、ちゃんと虫眼鏡で。確かに、読むのがおっくうになるのは分かります。僕も分かるようになってきました。でも、大きさだけが読みやすさではない。行間、行長、書体などが絡んでトータルでの読みやすさが抜け落ちています。新聞の文字サイズ拡大はここ何十年と続いている、文字が大きくなりましたというのはすごく読みにくいですよね。懐が広くて大きくて、文字と文字が引っ付いていて、文字が文字として独立して認識しにくいから文章になりにくい。すごく読みにくいということがいろいろ書いています。
キャプション、文字数には細心の注意が必要です。僕は500ワードのキャプションを見たことがあります。すごい。書いたね、500ワード。編集なら3分の1にできると思うのですが、熱い思いが伝わらなさにつながっている。そうなのです、熱い思いは伝わらなくなるのですよ。気を付けましょう。僕もいま熱く語っているので、あまり伝わっていないかもしれません。伝わるとかやると、「いや、おまえの言っていることが伝わっていない」とすぐ言われます。
ジャンプ率ってご存じですか。デザイナーが必ず言う言葉で、文字のサイズの比です。大きさの比があまりないと、フラットで清潔で冷静なデザインができます。1回これを分析したことがあります。いろいろなものを引っ張ってきて、静かでナチュラルな暮らしみたいな場合は、小さい文字から大きい文字までのジャンプ率は非常に少ない。でも、「ウオー、うまい!」とか、「肉!」みたいなのは、ジャンプ率が半端ないです。ドカーンみたいな、このジャンプ率で躍動感が出ます。そういうのが非常に重要です。デザイナーはジャンプ率を非常に気にしています。皆さんもぜひ。
ジャンプ率を見ると、皆さんがやりたいこととデザイナーがやりたいことのギャップが見えます。私はもっとフラットな落ち着いた感じにしたいのに、ゴリッ、ドーンみたいな。これは伝わっていないということになります。ジャンプ率を見ると、「うんうん、それいいっすね」と言っていたのに、こいつは何も聞いていないということになります。
ジャンプ率とか書体の選び方とかを皆さんが見て、感覚でいいのですよ、しっくり来れば、それは結構伝わっています。なんか違うと皆さんが思うとき、こういうふうに分解してみてください。「何が違うの」「なんか違うの」では駄目です。伝わらないです。「なんか違うの」を分解すると、ああ、ジャンプ率だと。このジャンプ率は、私のと違う。私のというよりは、私が求めている読者とは違うジャンプ率かもしれない。そしたら、デザイナーにちゃんと説明する必要があります。「いやいや、そういう人ではないよ。こういうジャンプ率の人にしたいんだよ」。こういうジャンプ率の人と言うのはおかしいですけれど、そのような感じです。というようなことをやる。
写真の部分、いまトリミングはロストテクノロジー化して、うまいトリミングができる人はほとんどいなくなっているのではないですかね。昔は0.5ミリで駄目出しを受けて、もうちょっとこれを隠れるようにしようとか、トリミングだけでうまい人はうまいですよね。
『クロワッサン』という雑誌があります。自画自賛みたいなものですが、トリミング大会です。トリミングばかり考えている。この箱のサイズ、縦横比が平面構成的にオッケーか、その中の人の顔の位置のバランスがしっかり取れているか、目線がちゃんと流れに沿っているかとか、そういうのをずっと考えるのです。きれいなデザインばかりやっている人は、「みんなをあっと言わせるポスターをつくれ」と言うと、つくれない。適材適所があります。トリミングが非常に上手な人は結構損をします。デザインが下手と思われるのですよね。でも、静かにものを読むとき素直にさらっと読めるように、皆さんも行間とかにこだわるでしょう? 行長はどれぐらいにしようか、この行長が私はいいのみたいな、行長、行間、トリミングなどが入っています。
このように、ここにはいろいろと細かく書いています。捨ててもらってもいいし、読み込んでもらってもいいですが、このようなことがデザインの基本になります。レイアウト、視線誘導、内容をしっかり分かるようにしているか、バランスとか。先ほど出た川崎昌平とは、僕らの中で版面がはやっていて、「やっぱり版面だよね」みたいなことを言っています。版面が本のたたずまいを決める。版面が非常に重要です。
東工大の学生に僕らが「版面、版面」と言っていたら、彼らに「ポスターをつくれ」と最終的に課題を出したのです。「伝わらないポスターをつくれ」という話をしたときに、版面というものがあるんだよという話をしたら、それをしっかり習得して、「版面は便利です」と言いやがったのです。すごいなと思った。「版面が分かったの? 君」と。確かにその子がつくったのは、版面と、はみ出方とかをしっかり習得していて、うまいなと思った。ちゃんと言えば分かるんだと。版面はすごく重要ですよね。皆さんも版面大好きですよね。
たぶんWebサイトとかアプリにも、もっと版面の感覚があってもいいような気がします。端から端まで画面で下品な、みたいな。指で触ってしまうじゃん。持つための小口があるのに、いまは小口がないじゃんみたいな感じ。小口がなくて気持ち悪くないですか。のども小口もないみたいな。版面がなくてすごく嫌だ。きれいな版面を取ればもっと格好よくなるのではないかと思うのですけれどね。
僕の怒りはチェック用です。たとえば若い編集者のものをチェックする役職の方、ぜひこのへんをこういうつもりで見てほしい。あなたが気持ちいいかどうかよりも、目的や読み手のためのデザインになっているかということです。編集者においてはちょっと違いますけれども、編集者は社会のトレンドを何となく浴びて見て、次、こういう世界が来るはずだと言っているときには、あなたが決めています。目的や読み手を。あなた自身が読み手かもしれない。それがほかに広まるから、編集者にはジャストフィットはしないです。どちらかというと企業の上司さんとかに向けて、これは誰のためのものかをしっかりと、特にステータスが上の人は絶対に考えていないと思う。これが分かっていないと、あいつは分かっていないやつだと妖精さん扱いされるので気付きましょう。私、僕のものではなくて、もしかしたら自分の娘、娘の娘かもしれない。誰の、そのへんを思った上で、分からないなら、ここの領域は僕の領域ではないからこういう判断を基に、君はどう思う? というのをちゃんと決める。こうなるといい上司、格好いい上司ですね。
目的によるデザインの違い。どうしてほしいかによってデザインが変わるということです。あとは、もちろん読み手によるデザインの違いもある。
あとは、理解を促すためのデザインになっていますか。インパクトを与えたいのか、しっかり共感してほしいのかによってデザインが変わります。いまずっとしゃべっているのは何の話をしているかというと、みんながデザイン側のデザイン力を高めてねというよりも、皆さんの思いとデザインは一致しますよという話です。
デザインが出てきたときに、自分はどうするべきだっけという指標のもとにデザインの良し悪しを眺めれば、「僕は分からない」ということにはならないです。僕も自分のここの思いの中に合致しているかどうかを判断することはできるという話です。デザインが分からないなんてことはまったくない。絶対にない。あとでも出てきますが、センスというのは逃げの言葉なので、皆さんにも絶対に分かるはずです。それを僕は細かく分解しています。分からなくなってしまったら、細かく見てこいという話です。
キャッチ、フック、フィットにもありましたが、関心の度合いに合っているか。これを結構忘れがちです。ツイッターでペロッとしゃべっただけで食いついてくるようなネタがありますよね。ああいうのを懇切丁寧に言う必要はいないけれども、どのように関心があるのかないのか、ない人をつかまえるのか、ある人に丁寧にとか。
ここだけ拾い上げても、デザイナーと皆さんで意見の食い違いを直すことはできます。関心の度合いを考えてくれている? みたいな、こう言うと角が立つけれど。関心の度合いを考えてくれるの? この編集者は嫌みたいになってしまうので、もう少し言い方はありますが、関心の度合いをデザイナーにちゃんと話をする。これは実は結構誰もいま見てくれていないから、そういう人をちょっと引っ掛けてほしい。ただ、どのへんの周辺のデザインテイストを持ってこなくてはいけないかは考えて、というような会話はできます。そういうことです。
もしかしたらデザインを自分でやらなければいけないときには、このような考えでモノをつくっていけば、皆さんの中で、実は私デザインをやっている人がいます。なんだかんだ自分でXDとか開いてやっていますとか、大丈夫ですかね。さすがにいないか。
デザインの話を「センス」で片付けない。思考停止にしない。どちらかというとデザインは設計がされていないと駄目なので、皆さんの領域にグイグイ持ち込んでいく。デザイナーを論理的な行動の中でオッケーが出るかどうかを説得していかないといけない。「何となくこういう感じなんですよ」。何となくこういう感じは重要だけど、それがあなたのいまのナウな雰囲気なのか、彼らにとってのナウな雰囲気なのかは違うでしょという話をしっかり冷静に片付けていくということです。
たとえば皆さんも、あの人のデザインテイストがいいのだと言ってデザイナーを使う場合もあると思います。その人のテイストが出てくれればそれでいいかもしれませんが、結構デザイナーはそうではなく、目的に合わせてデザインを変えてくるので、ミッションが変わればデザインは変わります。『ちゃお』もデザインすれば、『2nd』もデザインするわけです。やはり荒金大介は「難しい」と言っていました。「ananはよく分からない。俺の世界ではない」と。俺の世界じゃなくても、そこの世界の人がどういうテイストを志向しているのかをちゃんとリサーチというか、分析していけばいいわけで、そうすると冷静さが出てくるのです。ここをしっかり、これはデザイナーに言っているのではないですよ。皆さんに言っているのですよ。センスで片付けない。
センスは存在しますが、どちらかというと皆さん逃げで使うことが多いので、逃げないでという感じですね。センスで片付けない。冷静に考えていくと、センスは瓦解できます。大丈夫です。
確かに、デザイナーは毎日デザインのことばかり考えているので、センス的なものは上がっています。やはり常に見ているので。皆さんは文字に対して常に見ているから、デザイナーより文字のセンスがある。それはセンスかもしれない。日々どれぐらいそのことについて常に考え続けているかの蓄積がセンスです。
ずっと釣りのことばかり考えていたら、釣りのセンスは否応なしに上がってくるわけです。何を見ても釣りのことで考えてしまうのです。あれぐらいのリードがあったら、カジキは釣れるかなとか、そんなことを常に考えています。紐を見れば、何本のテグスかと考えている。そんな人に釣りの話は勝てないですよ。そのように、デザイナーはずっとデザインのことを日々考えています。電車の中で文字を見たら、あそこの文字と文字の間を詰めたいなと。もうちょっと詰めてこっちを広げたいなと思いながら、ずっと電車に乗っているわけです。常に文字の間をこうしたらとか、ずっとこうやっています。それはセンスが、徳が上がっていくわけです。皆さんもこのコピー大丈夫? みたいなのがあると思いますが、そういうセンスを蓄積しています。でも、そこは共有できるので、センスで片付けずに相手の領域のことをしっかり理解して、どういうことがしたいかを冷静に考えていけばいけるというような感じです。
センスの話が出たのですが、これはデザイナーに向けて言っている言葉です。編集者の方もかなり共感してくれるものです。さっき「センス、センス」と言いましたが、いままで全部並べていたのは、論理的に考えれば済む話です。とはいえ、どこかでアイデアが出なければいけないときがあるじゃないですか。そういうときはどうしているのだろう。いまで言うとイノベーションです。イノベーションはどうやって出るか。デザイン思考なんかやってもイノベーションは出ないです。ここにはもっと深い話が入っています。それをこのような構造で考えてみました。
さっきのセンスの蓄積の話と一緒ですが、いま僕がデザイン系の学生に課題をさせるとき、こういう手順でやらせています。何をさせるかというと、何か課題があるじゃないですか。皆さんがこういうテーマを扱うときにどうするかというと、まずガーッと思い付きを吐き出させる。そのあとにネットでも何でもいいけど資料に当たって、頭に取り込む。で、フラット、偏見をなくす。デザイナーのすごいところは、たとえば皆さんがデザイナーと同席してクライアントさんの話を聞きに行くとか、デザイナーに「次こういうことをやりたいです」と何か話をするじゃないですか。デザイナーは、実はもうそのときに頭の中に絵ができているのです。じゃあ、こんな感じだよねと。口にはしないし、ラフを描く人もいるけど、頭の中にはこういう絵だろうなと、もう出来上がっています。そこの速さがデザイナーのすごいところです。そこを有効活用したいのだけど、だいたい間違っています。なぜかというと、情報が足りないから。思い込みで、少ない情報でものを考えていくからです。
だって皆さん、たとえば理研に行くとしましょう。新しい何かの発明とかは難しいじゃないですか。その話を適当に聞くわけ。じゃあ、こうかなと。でも、それは知識がないからだいたい間違っています。その間違いを是正するためにもまずは吐き出して、間違いも出して、そこからインプットするとフラットになって、そうかそうかと。まずはデザイナーの思い込みを、ここが重要です。デザイナーの思い込みを1回取り去ってあげる。
さっきも言ったけど、皆さんが思っているのと熱量が違った場合に、ジャンプ率が違うというのは、たぶんここがずれているのです。デザイナーの思い込みと皆さんがちゃんと知ってアプローチして、聞いてきた話とずれています。ここが足りない。ここをまずしっかりインプットと吐き出させてやる。いまはそんな時代ではないから、というような話をしてインプット。これは一緒にやってもいいですし、デザイナーはデザイナーでやるべきだし、皆さんも新しいプロジェクトに関わるときにこういうことをやったほうがいい。
ここからが、いわゆるデザイン的なイノベーション発想に近いと思います。でも、核心は分かりません。いつどこで何が出てくるかは分からないけど、こういうことをやります。もっとマルチスコープの中にいろいろな手法があるかもしれない。それこそ悩んでいるときに視点を変える、マクロ、ミクロに。デザイナーも1回でかくしてみると、「そうか。こういう解決もあるんだ」とか。小さく見たり大きく見たり、別の仕組みになぞってみる。
昔、エレベータの上下開閉ボタンをどうデザインし直すかというワークショップをこの流れでやったことがあります。あれはみんな迷うじゃないですか。急いでダーッと閉めたみたいな。漢字が一番分かりやすかったりするのですけれど、どうするかというときに、別の仕組みになぞる。開いたり閉まったりするものは何だろうと考えるのです。もしかしたら、昔みたいなガラガラガラガラというエレベータに乗ったことはありますか。さすがにないよね(笑)。ふすまみたいなものでいいんじゃない? とか、こうやってやると開くとか、こうやってやると閉まるとか。それはやり過ぎだけど、別の仕組みに考えることが必要です。
あとはこれです。1回考えたらちょっと置いておくのです。ブリュー、発酵させるということです。ワーッといっぱい考えたら1日寝かせることが重要です。
ここはデザイナーの話ですが、こっそり?影練(影で練習)をするのです。こっそりやってみる。このときに、アートディレクターは後ろに立たないでやっていただきたい。こっそりやっているのに、「ちょっとそこ違う。おまえ、何考えてるの」みたいなことをやると、こっそりやるができなくなる。こっそりやって感覚のバランスを取る。これは何かと言うと、素振りとか、投げるフォームを練習したりしているのです。このへんで新しい何かが生まれる。要はビッグバンの0.0何秒後みたいな話です。ビックバンがなぜ起きたか分からない。こういうふうにするんじゃないかな、しているよねという話です。
スパークとは何かというと、試合をやるのです。ここまでいろいろ情報をためてきて、相手のフォームもビデオでいろいろ見てきた。自分でも練習してきた。「さあ、試合をしよう」というときに、ファインプレーが出るかもしれないし、エラーをするかもしれない。エラーもちゃんと見ておかないとイノベーションは出てこない。スパークとはそういうことです。失敗もあり得る。そこをどう共有するかという話ですが、スパークさせることは非常に重要です。出てきたものをみんなで試したり、フィードバックをする。このへんからデザイン思考に近付いてくる。みんなの大好きなPDCAを回すやつです。グルグル回しても何も出ない。このようにフィッティング、フィードバック、このへんは普通に企業でもいまみんなやっていますが、スパークはやらない。試合をやるということです。
すごくデザイナー向けなので、はあ? と思うかもしれませんが、これを編集者の方にもいろいろ見てもらいました。そうしたら、「うん、そうかも」と言う方が結構います。なぜ「そうかも」と言うのだろうと思ったら、企画を出すとか、新しい書籍の企画を出すときに、このようなことをやっているよなという話なのです。「デザイナーに限らない」と編集者の方は言います。なので、こういうインプット、情報収集をしてセンスアップした中で、「ウワー、もう」となったときに、「あ、これ、あれだ」みたいなことが起きる。そういうことかもしれません。
ここからは商売の話になります。これは誰に頼むのがいいかというオーダーです。精密さの度合いはどれぐらいにする? このへんからかなり商売っぽいですね。無駄に精度が高くても、これはデザイナーがやるやつです。「そこまで細かくなくていいんだよ」と、皆さんもイライラするときがあると思います。「そこ、こだわるところじゃないから」みたいなとこがありますよね。デザイナーはすぐこだわります。そこはちゃんと指摘してあげる必要があるかもしれない。
バランスチェック。フィードバックと一緒です。フレーバーという言葉をつくったのですが、雰囲気、重要じゃないですか。バランスが取れているかな、みたいな。あとはやりたいことになっているか。これは非常にビジネス的。なので、すごくビジネス的なことと感覚的なことを織り交ぜている表です。
バリュー。これはすごく重要です。仕上がりのお金をもらうという話ではなく、仕上がりが金額を引きたてる。分かりますでしょうか。ここに、男性であれば300万円の時計がある。女性であれば250万円のジュエリーがあると。この仕上がりだから250万円かという、要は仕上がり。精緻な仕上がりとか、ここがこだわりなのだというところのストーリーが金額を立証するわけです。こうだからいくら万円ですではない。「そりゃ250万円だよ」と言わしめる仕上がりが金額を引き立てるということになります。
だから、ここにいま入れている三つとか四つのものは、全部何かを細かく細かく分解しているものばかりを入れてみました。あれ、きょうはデザインの話じゃなかったっけ? みたいな感じですが、ここはすごくデザインの核心です。もしかしたら皆さん、デザイナーにこれをやらせてみてはどうでしょうか。言っては駄目よ。こういうふうに導いていくと、ミスが少ないかもしれません。齟齬が少ないかもしれない。
特に重要なのは、一番上の「知る」のところです。デザイナーがこのことについてどう思うかを吐き出させて、「うわー、こいつ浅!」か、「すごく偏っている」か。ファッションの話をしているのに、ファッションの情報が偏っていることがありますよね。あとはそのデザイナーが、まったくお母さんのことを考えられないやつとか、そういうのが結構いるので、そのへんはエクスターナルなところで出てくる。
もちろん、育ちなどによってそのへんが出るのはしょうがないです。やはり自分が育ってきたところ、ずっと私立の学校で育ってきた子と公立でけんかばかりしてきた子は、子育てに対するアプローチがまったく変わるので、そのへんを1回吐き出させてあげる。「こういうところがあるんだ。そうじゃないんだよ。そうそう、そういうことだよ」ということを1回協議するためにもインプット、エクスターナルな思い付きをはき出すのを共同でやるといいかもしれません。そうすると、そのあとのデザイナーとのコミュニケーションがやりやすいかもしれない。手間ですけれどね。そんなことをやっている場合じゃないということもあるかもしれませんが、こういうことを実はデザイナーはやっています。編集の方も新規の企画を出せというときに、このようなことをやっています。「先行事例はあるか」と、よくやりますよね。こういうことでモノは試していけばいいのではないかと思います。
きょうそこに載せているのは、誰とか博士が開発したものではないです。権威あるハーバードの誰とかの言葉ではないです。僕がデザイナーや編集者をずっと見てきて引っ張っただけの僕の意見なので、信用に足らない話です。何とか博士の重要な話を信じるか、よく分からない川崎の話を信じるか、どっちかという話です。もしかしたら、思い当たるところがあると僕はいろいろみんなから聞いてきて、これをブラッシュアップしてきて、いまこの形になっています。なので、そう間違ってはいないと思います。
これは、たぶんどこにも載っていません。宣伝くさくて嫌ですが、これにはちょっと載っています。でも、ほとんど載っていないです。これを特殊だと捉えるか。「勝手なことをあいつは言いやがって」と捉えるかは、あなた次第という感じではあります。でも、たぶん共感するところもあるのではないかと思います。
「イノベーション」という言葉を使いましたが、イノベーションより「ひらめき」と言ったほうがわれわれはしっくり来ると思います。ここに電球が点くやつです。あれのほうがいいですよね。イノベーションは電球とかにしたいですよね。突然やってきます。降りてこないこともあります。うちの会社もデザイナーがいっぱいいるので、僕も似たようなタイプですが、降りるのを待つタイプがいます。なかなかつらい人種です。夜中までずっと座っている。何かこうパッと降りてくるのを待っているのです。いまの働き方改革では、降りてくるのを待つ系のやつはついに降りてこない、かわいそうに。でも、降りてくるやつのためには、そういう時間を用意してあげる必要があるのかもしれません。
それはブリューのところだったりするわけです。生まれやすい環境をつくる。あとはデザイナーの話を分かる・分からないではなく、コンセンサスを取ってくる。そうか、この子はこういうジャンプ率だと思っているのだと。話を聞いていないのではなくて、それはしょうがないのです。いままで培ってきたものが違うから齟齬があるのです。そこをどのようにバランスを取っていくかの対話が非常に重要になります。
きょう言いたいのは、センスで片付けずにちゃんと分解してものを考えて、意思をちゃんと取っていくということです。あとは、最後の表ではないですが、どこかで何かが降ってくるみたいなところは何だかんだでありますので、そういうのをちゃんと育ててあげる環境。これはもしかしたら編集長の仕事かもしれないし、編集者がデザイナーに対してそういう時間を取ってあげるとか、そういう必要があるのかもしれない。というところで、デザインの齟齬を取ってあげるのが重要ではないかと思っています。
私の話はこれで終わりにしたいと思います。すごく変な内容だったかもしれません。でも、皆さんにきょう配ったのは結構有効な情報がたっぷり入っていると思うので、何かのときに見ていただければ。特にデザインを子細に分割した文字とかの話は、デザイナーと話をするときに、そこを踏まえながら考えるとデザイナーと話ができるかもしれません。なぜここをこんな文字にしたのだろうというときに、文字のところを見てもらうと、「ああ、こういうつもりだったんだ、こいつ。違うんだよ。こういうつもりではなくて、こういうつもり」ということで話し合いができるかもしれないので、ぜひ便利に使ってもらえたらと思います。私の話は以上で終わりにします。ありがとうございました。(拍手)
司会 川崎先生、どうもありがとうございました。非常に理路整然とされて、どういう切り口でデザインのことをご説明いただけるのかと思いましたけれども、きちんと分析すると、このような方法をたどっていけばいろいろなことが分かるのだということを痛感いたしました。ありがとうございました。
まだ少しお時間がございますので、ぜひ皆さん、先生にお伺いしたいことがあれば挙手いただいて。デザインは普段あまりやっていないので分からない。それは僕だけの話ですが、先生がずっとおっしゃられていたように、日々いろいろなところで毎日見ていらっしゃると思いますが、ご質問はないですか。どなたか手を挙げていただいて。きょうは珍しくないですね。
川崎 皆さん、すごくあっけにとられた感じがしました。
司会 そんなことはないです。とても分かりやすくて、完ぺきにこういう切り口でご説明していただくと、ああ、そういうことなのだなと思って。同じことで方法論がずっとあったので、逆にこうなんですかと質問する余地が、もしかするとあまり思い付かないのかもしれません。私は普段こうしているのですけれども、こんなところはどうですかとか、そんなことはないですか。
では?右の方、お名前を言っていただいて、ご質問をお願いいたします。
タケウチ 講義ありがとうございました。Pomalo株式会社のタケウチと申します。私は普段Webページの編集をしているのですが、クライアントさんがだいたいファッションブランドさんで、オウンドメディアにアップするウェブコンテンツなどの制作をしています。そのデザインでクライアントさんと衝突することが結構あります。ブランドさんのブランディング的なデザインのトンマナというか、このデザインは格好いいけど、見る人にとって親切ではないというのを希望されることが結構多いのです。制作側としては、つくるものは読んでもらう人のためのものなので、そこを一番に優先したいのですけれど、見た目重視のクライアントさんとそこで結構衝突してしまうことが多くて、そういうのはどうやって解決したらいいのですか。
川崎 うちの会社は最初からそこをやります。ワークショップをやってしまうのですよね。実際、求めているところは何だろうというのを、上司の方にも来てもらってみんなで出すので、クライアントさん自体も実はちゃんと決まっていないんじゃないのというのが透けて見えるでしょう? そこらへんが結構難しいのですよ。「いやいや、あなたはそう言うけど、客観的に見たら違うよ」というところがあるのですよね。これは結構あります。あなたが格好よくなりたいんでしょう? というクライアントさんが結構多いです。「私がこれをやったの」と言いたいんでしょう? どうしましょうという人が本当に多いです。
そういうときにわれわれは、どうしてもクライアントさんが強いので従うしかなくやってきたのですけど、そろそろそれを変えなければいけない。実際に、じゃあターゲットは誰なの。たぶんその人だけと、もう一人隣の人は違う考え方を持っているのですよね。そこをどうにか擦り合わせるような会を持つべきですが、これを持たすのが難しいです。どこまで信用度を上げていくかというところなので、このへんがすごく難しいところですよね。でも、これが大きな課題ですね。
なので、どうにかうまいこと気持ちを引き出したりとか、こっちが完ぺきに論破したりすると、クライアントさんはすごく嫌がります。そこを論破しないで、どう懐柔しながら理解してもらうか、政治的なアプローチが必要になってきます。でも、それはすごく重要です。お客さんと「ちょっとワークショップやりませんか」と言える環境かどうかによりますが、そのようなことを別に用意して、彼らの思いをちょっと変えてあげる必要があります。きょうは編集の方がいらっしゃると思うので、クライアントさんがいない体で話しているのですが、みんなの味方で話しています。クライアントさんがずれていることが結構多いです。あとは核心がよく分かっていないクライアントさんは多いので、そこをどう理解してもらうかというアプローチを取るのは、いますごくビジネス課題です。
サービスデザインがさっきちょっと出ましたよね。それは、結構そういうためにあるのです。クライアントさんに、「あなたの本質はこうですよね」というのを逆に分かってもらうためにいろいろな手法を取っているのが裏の事情です。そういう新しいデザイン手法とか、いままでと受発注の関係をちょっとシフトさせるようなことを、できないかもしれないけれども、考えてみてもいいかなと思います。われわれも10年以上そういうのをちょびちょびやって、やっと最近そういうことができるようになってきたので、なかなか難しいですが、それはすごく重要な問題です。
司会 ありがとうございました。どうですか、そのクライアントの方とディスカッションの場が持てそうな状態ですか。そのときどきによると思いますが、いろいろなお立場があると思います。相談しにくい相手もいると思いますけれども、できるのでしたら、ちょっと先生のご助言を…?…。
川崎 ちょっと受発注関係をずらしていく必要があります。
司会 ありがとうございます。ほかにはどなたかいらっしゃいませんか。
イノウエ ありがとうございました。白揚社のイノウエと申します。私は書籍の編集をしていまして、きょうのお話は主に書籍のカバーのデザインをどうしようかなという視点から聞いていたのですけれども、ジャンプ率を見ると自分の思惑とデザイナーの思惑がずれているかどうかが分かるというのは、非常に目からうろこというか、ああ、そういう視点があるのだなと思いました。よくつくっているときに人それぞれ私のデザイナーの意見と、あるいは意見を聞いたほかの編集者の意見が結構食い違ってしまうのが、テーマとなる色で食い違ってしまうことがあります。そのときの指標としては、私としては冷静な場合は寒色で、温かい印象を出したいなら暖色ぐらいの視点しかなくて。
たとえばきょうのスライドのテーマカラーが黄色に黒という感じになっていますが、それはどういう基準を持って決められて……。
川崎 これは当社の最近のコーポレートカラーなのです。考えなくて済むといえば考えなくて済むのです。私の名刺の裏側が黄色いのです。コンセントはピカッという色の黄色にしています。そういうときは、習うときは赤は情熱だとか、緑は何だとか言いますよね。ちょっとゲームみたいになってしまうのですが、たとえば僕は緑だと。なぜ緑か文章で書くのです。「こうこうこうだから緑だ」を?書くのです。あと色。こういうことのためのこの色だ。Bさんはこうこう。デザイナーはこうこうこうだからこの色だと。で、色を隠すのです。そうしたら文章だけになりますから。で、みんな読むのです。だから、そんなに間違っていない。
今度は、せーのでパッと色のほうを出します。そうしたら、ここの文章と色が合っているかどうか、みんなで感覚が違うのです。「え、それって黄色か」みたいな話になる。だから、そこを擦り合わせていけばいいです。思いはそんなに間違っていないはずだから、思いと色のセッティングが、みんなの育ってきた環境が違うから擦れ違いは否めない。なかなか伝わらないところですね。
たとえば、四国で生まれて育った人と北海道で生まれて育った人は、色の感覚がちょっと違う。それがこのへんに如実に出てきています。お姉ちゃんがいっぱいいたから家にピンクがいっぱいあって、ピンクが嫌いな色になっているかもしれない。いじめられる色がピンクかもしれない。色とその思いはパーソナルなものなので、ずれがあります。色は、本当に難しいです。デザイナーでも「自分は色音痴だ」と公言されるデザイナーがいて、色はすごく難しい。みんながみんないい色とは限らないので、色は置いておいて、この色でどうしたいのかというところだけみんなで協議する。その色は君にとっては黄色かもしれないけど、僕にとっては緑だというような話を擦り合わせていけばいい。じゃあ、読者の子たちは、こういうみんなの思いのときは何色がいいのだろうね。もしかしたら勇気が黄色かもしれない。たとえばピカチュウの色みたいな。天真爛漫な色はドイツカラー、黒、赤、黄色かもしれない。クレヨンしんちゃんの色かもしれない。そのように色の感じは全然違うので、そのへんは色を放っておいて、言葉で1回擦り合わせたほうがいいかもしれない。それから色の話をすると、冷静になれるという感じです。本当に色だと、「なぜそこを紫?」と。紫は、みんなとりあえずは嫌うじゃないですか。
僕も飲料のデザインをやっていたときに、僕にとってビールは緑なのです。日本のビールは緑にしない。黄色ですよね。黄金の小麦色にしたいのです。でも、ドイツとかヨーロッパのビールは緑色なので、緑のほうがおいしそうに感じる。人によって全然違う。僕も緑を何回も提案しても通らなかった。いまはときどき緑が出るけど、やっぱり駄目というふうに、人によって色の感覚は全然違うので、どうしたいかだけやって、色との関係はパーソナリティが強いので、変えられないので結び付きも強いのです。そこはどうにか擦り合わせていくというところで、言葉で考えていったほうがいいかもしれない。
イノウエ ありがとうございます。
川崎 いい質問ですね。色は本当に難しいですよね。
司会 どうもありがとうございました。もうおひと方いらっしゃいますか。
川崎 たぶん女の子たちは、アナ雪が出てから好きな色が変わっています。フローズンな紫をみんなまとうようになってきて、ピンクよりもうちょっと紫になってきている。お母さんがアメリカンティックでバービーばかり買っていたおうちと、リカちゃんを買っていたおうちでは色の好みが変わるはずです。いまのサマンサタバサは、リカちゃん世代のちょっとあとの子たちがまとうような色筋合いになっているはずだから、もしかしたらアナ雪世代があの年になったら色が変わっているかもしれない。世代でも色への感覚が全然変わるので、色は難しいです。
〇〇 きょうはありがとうございます。私が担当しているのは雑誌の仕事です。デザイナーさんに表紙とかを発注してお願いするのですが、雑誌は毎月発行だったり、隔月発行だったりして、コンセプト自体は変わらないことが結構あります。コンセプトが変わらないまま、表紙のデザインで毎号変わった感を出していきたいとき、デザイナーさんにどのようにご相談していったらいいか、アドバイスをいただければと思います。
川崎 よくあります。これは最新号だっけ。前の号との違いが分からない。昔は好きな雑誌は決まっていたので、ちょっとの差異で、『マガジン』なんかは毎回水着の女の子、どれが変わっているのか分からないけど、とりあえず時期で変えるから買っているのですが、あまり変わらなくていいのだけど、やっぱり変わらないと次との。季刊なのか、月刊なのか、隔月かによると思いますが、常に買う人が買う雑誌なのか、テーマで買ってほしいのかにもよりますが、前と違わないと買いそびれるという危機感というか、そこが重要かと思います。
「前と似ているじゃん」だとデザイナー批判になるところもあって、意固地になるデザイナーもいるので、プチテーマを用意してあげたほうがいいかもしれません。内容を聞いていないので分かりませんが、特集が変われば変わっていくのか、今回は季節で変えていくのか、デザイナーが納得いくバリエ感をともに考えていく必要があると思います。出たところに「前と似ているよね」と言うと何となく角が立つので、「ここは前の号との差別化がしにくいところがあるので、ちょっとバリエーション感を出していきましょうよ。バリエーションといったら何がある?」というふうに、古今東西ではないけど投げると、デザイナーも「じゃあ、こういうのがある」となる。もしかしたら疑問を投げる。「こうしてください」ではなく、「こういうときはどうする?」「はい」みたいな。そうするとデザイナーはいっぱい出してきます。「こうかな、ああかな。そうだよね。いつも一緒っぽいよね。僕もそう思っていたんだ」みたいなことになります。指示なのか、考えさせるのか、質問を投げるのか、相談するのか。
たぶん質問を投げるか、相談をするのがデザイナーは嫌いではないので、そういうアプローチなら何かが出るかなと思います。「前と一緒だからこうしてほしい」と言うよりも、「いつもこうなっちゃって困っているのよね。どういう方法がある?」。そうしたら、たぶん引き出しがあるから、「そういうときはこうするんだよ。分かってないな」と、昔のデザイナーならすぐ言いますね。最近のデザイナーさんはそんなことは言いませんけれど。そういうふうにしてくれると思います。なので、相手の能力を使って、合気道みたいになってしまいますけど、相手の能力を引き出すようなやり方がいいかなと思います。
〇〇 ありがとうございます。
司会 ありがとうございました。それでは8時を回って時間も過ぎましたので、本日はこれで終わりにさせていただきたいと思います。先生、長い時間ありがとうございました。(拍手)
川崎 ありがとうございました。
司会 本日は川崎紀弘先生でした。僕は、『Tarzan』を何冊買わされたかなと思って。なるほど、赤いキャッチのところでずっと買っていたわけですね。青いところは全然読んでいない。読んでいたらもっと痩せていると思います。
川崎 そうですね。フィットしていくと変わっていきます。
司会 お疲れさまでした。先生にもう一度拍手を。(拍手)
(2020年1月23日(木)AJEC編集講座での講演より)