「自分の感動を伝える」
池田 皆さん、初めまして、池田るり子と申します。きょうはこんなにたくさん集まっていただいて、すごく緊張しているのですけれども、何か少しでも皆さんのお役に立つお話ができればと思って、一生懸命しゃべります。途中で「それ何ですか」と聞いていただいてもまったく構いませんし、最後に質疑応答もやっていただくということなので、そのときに聞いていただいても大丈夫です。少しでも何か見つけて帰っていただけたらすごくうれしいなと思います。きょうはどうぞよろしくお願いいたします。(拍手)
では、早速お話しさせていただきたいと思います。先ほどご紹介いただいたので特にプロフィールについては追加することは無いのですが、いま編集者になってだいたい8年ぐらいになります。講演会事業部にいたときにも、そこの講演会をしてくださる著者さんの本を作ることがあったので、兼務していたのも含めて8年ぐらいです。専業というか編集だけやるようになって、いま6年ぐらいになります。
先に皆さんにお聞きしたいのが、自分で企画を通すことがある方と、企画をもらってそこから本を作る方、どういう方にお話しするのかなと思っていて、自分で企画を通すことがある方、考えて通すことがある方はどのくらいいらっしゃいますか。あ、結構いらっしゃる、半分ぐらい。ほかの方、自分ではない、どなたかの企画を預かって本にすることが多いという方は。分かりました、ありがとうございます。では、そんな感じで考えてお話しさせていただきます。
いまお話しいただいたように、タイトルを「自分の感動と、売れるをつなぐ新人著者の見つけ方」とさせていただきました。どうしてこのタイトルにしたかというと、本を作るときに、「自分がすごくいいと思う」とか、「これは私が聞きたかった」、と思えることを起点にするほうが、私は個人的には仕事をやりやすいし、結果も出やすいと思っています。それはなぜかというと、私は最初のころはよく「ペルソナ」みたいなものを作って、「こういう何十歳の読者がいて、その人はこういう、例えば英語を勉強していて、きっとこういうふうに悩んでいるはずで、この人はこういう鞄を持っているから、きっとこういう小さい判型の英語本でこういう内容だったらいいんじゃないか」というようなことを考えて企画を立てるようにしていたのですね。ただ、それが全然売れなくて。いまから考えて、なぜかと思うと、判断基準がそのときそのときによって、すごくぶれたせいかなと思っているのです。
編集の仕事、出版の仕事をしていると、毎日毎日決定することはすごくたくさん出てくると思うのですね。レイアウトをどうするかとか、この1文字をどうするか、ここを漢字にするのか、タイトルをどうするか。いろいろなことを考える中で、最初のときはその「30歳なんとかさん」のようなペルソナに向けて考えているのですけれど、最後のほう、校了とかで切羽詰まってくると、そのペルソナではない「自分」が判断基準になってしまって、本のベクトルがずれてしまうということがあると思うのです。私の考え方としては、一冊を通してずっと、自分がどう思うか、自分が面白いか、自分がつまらないか、自分がどっちがいいかというので、同じベクトルで本を作ったほうがいいのではないかと、いまは思っています。
ですので、その仕事のモチベーションを保つために、とにかく感動して、自分がいいと思って、自分が好きだと思うものを本にする。だけどそれで売れないと、もちろん仕事としては続いていかないし、つらくなってくるので、だったらそれと売り上げだったり、世間の反応というのを、どうやってつないでいったらいいのかということをよく考えるようになったので、そこのことをお話ししたいと思っています。
タイトルに「新人著者」と入れているのですけれども、新人だけではなくて、すべての企画において、たぶんその気持ちと売れるをどうつなぐか…よく「読者と橋を架ける」というふうに私の上司とかは言うのですけれども、その橋のつなげ方によってどこの読者に届くかというのが全然変わってくるので、その橋のつなげ方を少しお話しできればと思っています。
まず、主な担当書籍をご紹介します。AJECさまにタイトルに「新人著者」と付けていただいただけあって、売れてきたものが本を初めて出す人というのが、偶然にもすごく多いのですね。それを少しご紹介すると、2015年から毎年2018年までシリーズ3作出したこの『コーヒーが冷めないうちに』というシリーズ、これは小説ですが、川口俊和さんという方が初めて書いた小説を本にさせていただきました。昨年映画化されて、いまシリーズ130万部ぐらいになっています。サンマーク出版という会社は文芸を全然やっていない会社で、それももう情熱でというか「この話素晴らしいから、絶対に本にしたいです」という形で作りました。
その隣にあるのが、『こうして、思考は現実になる』。これは、ビジネス書というかスピリチュアルと半々ぐらいになった本で、翻訳書です。この方も、翻訳で出るのは1冊目、アメリカでは何冊か本を出していらっしゃったのですけれども、日本では1冊目の本になる方で、ここでかなり、どうしたら売れるのかを考えるという経験ができました。翻訳書というのは、すでに原稿があるので、そこから大きく外れることもできないし、もちろん「ここを少し書き足してください」ということもできないので、できあがったもの、決められたものを、どうやって売っていくかということをかなり考えた本でした。これはまたあとでご説明します。
これはどんどん新しいほうからいっているのですけれど、その前、2013年ぐらいが、『あなたは半年前に食べたものでできている』というので、これも1冊目の村山彩さんという著者の方に書いていただいた本です。食欲をいかにコントロールするかという内容で、これも完全に自分の悩みからできた本でした。女性の皆さんなら読んだことがあると思うのですけれど、よく雑誌とかでモデルの人が、「美の秘訣は?」とか聞かれて、「何もしていません」というようなことを言うじゃないですか。「好きなものを好きな時に食べています」のような。そんなわけはないだろうと思って、「何で私だけ、好きなものを好きな時に食べたら太っちゃうのに、この人たちはそうじゃないの?」とずっと思っていて、それを本にしてもらおうと思ったのがきっかけでできたのがこの本です。
これも少し成り立ちは不思議で、実は私、この方とはもともと知り合いだったのです。友人だったのですが、全然この方の本を作ろうとか、作りたいとか思っていなくて。それが結果としてすごく売れてくれたので、単に私の見る目がないという話ですけれど。ただ、サンマーク出版には面白い制度がありまして、全員が出す企画会議というのがあるのですね。編集部でなくても、営業部とか、事務とか、経理とか、アルバイトさんとか、みんなが企画を出す企画会議というのがあります。そこで村山さんという方に本を書いてほしいと、そのときは営業の事務方の作業、管理部門をやってくれている人が出してくれた企画でした。それで、知り合いなので私が一緒に本を作りますということで始まって、最初はレシピ本をやろうと言っていたのですが、どんどん自分の悩みをいろいろ話していくうちに、この本ができたという経緯です。
あとは2009年、実はこれが私が編集者になって初めて出した本ですけれども、『一歩を越える勇気』という本で、この方は登山家の方です。実はこの間ちょうど亡くなってしまって、すごく悲しかったです。本当に初めて本を作った方で、著者の方に紹介していただいたのですけれども、講演を聞いたらすごく面白くて、これは本にしたいと思って、とにかく何度も何度も講演に通い詰めて、熱意で押し倒して作らせていただいたような本でした。
さっきも少しお話ししたのですけれども、私はとにかくいいと思った著者と仕事をするということを心掛けています。サンマーク出版の、特に私のいる第一編集部では、その熱意があるかということをよく問われるのです。そんなにやりたくないと思っているのなら別にやらなくていいし、すごくいいと思っているのならやってみたらいいと思う、ただ、ここが足りてないからもっと考えて、というような言い方をよくします。まず、いいと思うかどうか、そこが起点にあって、そこから売れるにどうつなげていくの? という形の考え方をすることが多いです。
きょうお話しすること、大きく六つ考えてきました。「企画の作り方」、「著者を見つけるときに大事にしていること」、これは一応新人著者と書いていますけれど、新人ではない方もそうです。あと、「新人企画を会社に通すコツ」、「依頼の仕方」、「売り方を考える」、それから「赤字を入れるときのポイント」ということで六つお話しさせていただきたいと思っています。
先ほども言いましたが、結局新人著者に限らず大事なことではあると思っていて。新人著者で企画が通れば、それが大物著者だったら絶対通るので、新人著者の企画を通せるようにまずなっておくというのは、考え方としては一ついいのかなと思っています。ただ、会社の中では「新人の本というのは絶対やれないよ」のような場合ももちろんあると思います。そのときは著者を既に売れている人にスッと変えればできることになると思うので、そういう感じで聞いていただければと思います。
新人著者と本を作ることには、メリットとデメリットがいくつかあるように思います。メリットとしては内容に気を使わなくていい。これはたくさん本を書かれている先生だと「この内容はこっちに書いてありましたね」とか、「ここの話はもう次の本でやると決まっているのでそこは無しで」のようなことが結構起きたりするのです。ただ、1冊目の人だと、その人のいままでの人生分全部から一番いいところを吸い取れるので、それですごく、いいとこ取りができるというか、面白くなれるというのは確実にあるように思っています。3冊目、4冊目ぐらいになってくると、この次このネタで1冊いって、このネタで1冊いってのようなことを、皆さんもちろん考えるようになるので、そうなる前にとにかくいいところを、一番いいものを作るというふうにするといいと思っています。
あとはファンがいるような方、Twitterだったりインスタだったり、いろいろなところにファンがいる人というのがいるのですけれども。その方にPRしやすいというのは大きくあって、私は著者の方が全部にPRするべきとはあまり考えていないのですけれども、とにかく「待ってました」という人は多いほうがいいし、それに越したことはないので、それでPRしやすいということでメリットがあると思っています。
あとはもう一つ、気合いを入れてもらえるというのがあると思っています。1冊目の本だと皆さん無我夢中で、よく分からないままやられるので、編集としては大変なことはもちろん多くあるとは思いますが、私は、その方の親御さんだったり、もし社長さんだったら社員さんだったりとか、そういう人に「すごいね、よかった」と言ってもらえる本にしたほうがいいと思っています。ですので、そういうものを作るように、一緒に頑張りましょうねという言い方をして、一緒に頑張っていただくということをよくやります。
ただやはり、デメリットというのもたくさんあって。赤字にしたのですけれど、とにかく企画を通しにくいですよね。これは会社によるところではあると思うのですけれど、だいたい新人著者なんてもう絶対通らなくて、「PubLineでこの前の本がどれくらい売れたかとか、類書があるかみたいなことが一番見られるのです」という方はすごく多いと思います。たださっきも言ったように、新人著者で通せるぐらいのものを作って、それをスッとスライドするというやり方もあるので、とにかく新しい人でも通せるような考え方というのを、自分で身に付けていくということをやろうと私は数年前から考えています。
あと、デメリットとしては数字が見えにくいということ、何冊ぐらい売れる感じか全然上司に見当がつかないことがよくありますよね。「初版なのか、5万なのか、10万なのか、30万なのか、マックスで売れていったいどのぐらいなわけ?」という感覚がつかめないと、上司は企画を通しづらいものだと思っています。なので、だいたいあのぐらいいくのねとか、だいたいあの感じの本なのね、のようなことを感覚として分かってもらうのはすごく大事なことだと思っています。
もう一つ、1冊目ゆえに、著者の方が気合を入れすぎちゃうというパターンもあります。例えばすごくやる気があるがゆえに、校了前日に「私のラッキーカラーは黄色なんです」「カバーは絶対黄色にしたいんです」みたいなことを言ってくることもあって。そこは少し労力がかかるというパターンもあるとは思うのですが、それも良い本にしたいという熱意の表れだと思って、一緒にお付き合いしてやっていく感じにしたいとは思っています。
とにかく企画を作るというのが、まずはすべてのことなので、企画を作るときに気を配っている四つのことをまとめてみました。先ほども言ったように、著者の前に企画をまず上司に納得させるということがすごく大事です。「著者が新人だけれど、大丈夫かな」と思われるのではなくて「この企画だったらいいよね」と思われることのほうが、おそらく大事なことなので、とにかく著者がどうこうという前にこの企画はいいよねと納得させることだと思っています。
そのために何が大事か、何が企画書にそろっていれば「なんとなくいいような気がする」と思ってもらえるかというと、私はこの四つかなと思っています。一つ目は「勝てるジャンルであること」、二つ目は「新しいことを言っていること」、三つ目が「私の悩みを解決してくれること」、四つ目が「やってみたいと思えること」。
一つずつ詳しくお話ししていきますね。まず、「勝てるジャンルを探すということ」。とにかく勝つというか、本が少しでも売れるためには、売れているジャンルで新しい内容をいうか、ジャンルとしてもまったく無い内容かの、どちらかを選ぶしかないと思っています。
どういうことかというと、よく「売れそう」「売れそうじゃない」と言うじゃないですか。売れそうって何なのと思うことがすごく多かったんです。私が企画会議に出たときに、「これ売れそうだね」と言われるのと、「何かちょっとよく分からないな」と言われるものの差って何なのだろう、売れそうって何なの、とよく考えていました。その「売れそう」を分解して、「売れたジャンル」と「売れないジャンル」というマトリックスのような線があるとして、「新しくない」と「新しい」というのがあるとします。それで言うと、いままで売れたことがあるジャンルで新しいことを言う、ここの中ですよね、ここの右上の所に入っていると上司は売れそうと言うということが、観察と協議の結果分かってきました。
あと、すごいぶっ飛んで売れるという所に、この「誰も見たことがない」というのがあるのですね。ただそれは「上司に、売れそうだねと思ってもらいたい」と思う場合あまり向いていないと思います。
ただ、100万部とかいく可能性があるのは、あの「誰も見たことがない」という所です。
例えば弊社でいうと、2年ぐらい前に『ベターッと開脚する方法(どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法)』という本が100万部いったのです。あれとかは「誰も見たことがない」というジャンルで、新人著者の先生で初めての本だったのですけれど。開脚したいと私は人生で1回も思ったことがなかったし、企画会議に出てきたときも、みんな何か「えっ?」という感じだったのです。「開脚?」「開脚を1冊、本に?」というような感じでみんなすごいハテナで。でも担当編集である上司がいままでミリオンセラーを3本ぐらい出しているすごい人で、その人がすごく目をきらきらさせて「いやあ開脚してみたいんだよね」みたいなことを言っていたので、「へー」「そうなんですかあ」という感じで思っていました。
それはもう発売初日からPubLineもトリプルウィンも見たことないような数字が出ていて、「あれ、電車広告打ったかな」みたいな数字が出ているぐらい、もう置いたら売れるという状況だったのです。それはもう「誰も見たことがない」のジャンルで、新しすぎるし、開脚っていままで本がないからもうジャンルとかではないしというようなもの。
あとは、いますごくよく売れている他社さんの本ですけれど、『ざんねんないきもの(おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典)』とかも生き物と残念って、たぶんいままで、つなげるなんて皆さん考えたことがなかったですよね。あれとかも「誰も見たことがない」というか、ジャンルとしては動物ジャンルというのがあるのですけれど、ちょっとぶっ飛びすぎていて自分には手が出せないというか、売れるか売れないかというのがまったく予想がつかないものだと思うのですが、その「誰も見たことがない」というのを目指すのはまずいったんやめてみる。例えば年間10冊作るのだったら1冊ぐらいはそれを狙っていいと思うのですが、あとの9冊ぐらいは、あの四角の中にいかに狙っていくかということを考えるほうが、「ああそれ、売れそうだね」と言ってもらえる確率が上がるのではないかと思っています。
だから、かつて売れたことのあるジャンルで、とにかく新しいことを言わせる。大事なのはこれだと思います。売れそうというのはなにか。売れたことのあるジャンルで新しい内容を言う、かける。これは会社によるのですけれど、広告や宣伝があると、本がどんどん部数を重ねていくことが多いのではないかと思います。
では、売れたことのあるジャンルとは何なのということを、自分でどう調べるかですけれども、だいたいPubLineを見ればいままでの出版の歴史は分かるので。PubLineで例えば2015年、3、6、9、12の「なんとかジャンル」というのを全部見るのです。そうすると上位50とかを見ていれば、だいたいこれずっと売れているなというのが分かってくるのですね。30万部とか売れている本というのは、だいたい3カ月以上ずっと売れているものになってくるので、これが売れているというのをコピペしてリストにしておくと、例えばお金のジャンルだったらこれが売れたとか、このジャンルではこれが売れたというのがだいたい分かってくるのです。それがつまり売れたことのあるジャンルです。例えばダイエットとかもそうです。
横に「ちょっと?ズルしておくと」と書いてあるのですが、これはいままでミリオンセラーになったことのあるジャンル、お金とか、ダイエット、健康、あとこれは弊社で少し前に出させてもらって、そこで初めてミリオンになったというパターンなので、たぶん「誰も見たことがない」のところにあったと思うのですが、片付けとか。あとは感動ものとか、日本語とか、雑談とか、動物とか。こういうジャンルはヒットしやすいのだなということが、見ていると分かってくるのですね。PubLineも数字を見ていれば、このジャンルで1位が毎回800とかいっているのか、毎回36とかなのかで、ジャンルとして強いか強くないかがだいたい分かってくると思います。
お金とかダイエットというのは、例えば書店の棚にもお金のコーナーとかって結構上にそう書いてありますよね。特に気にしておかないといけないのは、お金の中で何が売れているかということ。お金だったら何でもいいというのはたぶん違っていて、お金の中でも、節約は100万部いくけれど、株とかだとなかなかいかない、FPだともっといかないみたいな。そういう、お金の中でもこれはあるけれど、これは無いということも分かっておかないと無駄に失敗してしまうというか。自分がやりたければどんどんチャレンジしたらいいと思うのですけれど、とにかくしっかり企画を通していこうと思った場合には、売れている手堅いジャンルにまず狙いを絞って、さらに自分が興味があるところを探していくといいと思います。
例えばダイエットとかも、ダイエット法はちまたにめちゃくちゃいっぱいあって。トレーニング、食べない、痩せる食べ方、寝るだけとかいっぱいありますよね。その中でどの方法だったら売れやすいのかというのを見ておくといいと思うのです。
例えばダイエットでも「筋トレ36みたいなやつはすごく手堅いけれども大ヒットではないよね」とか。それよりも最近だとうちは『体幹リセットダイエット(モデルが秘密にしたがる体幹リセットダイエット)』というのが100万部いって、『ゼロトレ』というのが85万ぐらいいっているのですが、そういう「新しいトレーニングメソッド」のようなもののほうがいきやすいのだなと。それに比べると食べ物でのダイエットというのは「そういえばミリオンいったものがないな」とか、そういうような、もう少し細かいジャンル分けというのが分かってくるようになると、狙いやすくなってくるのではないかと思っています。
その次、新しいことを言ってくれるかどうか。これもよく上司に「何か新しくないんだよね」のようなことを言われることがあって。「新しいって何ぞや?」と思っていたんです。これはとにかく世間を見て類書を見るしかないように思っているのですが、「少し知っているのだけれど、若干違うことを言う」というのが上司の言う新しいことのようです。めちゃくちゃ新しいことを言っても「何か分からない」とか言われるので、めちゃくちゃ新しいことではなくて、少し知っているのだけれど違うというのが、一番本としても売れやすいポイントで、上司にも通りやすいポイントだと思っています。
これは私の上司に教えてもらったことですけれど、親指を動かすと健康になるという本が弊社で出ていて、15万部ぐらいいったのかな。その企画の話を聞いたときに「何で親指なんですか」と聞きました。そうしたら、先生は認知症の専門医の方で。
「手を動かすとぼけない」ってみんな、なんとなく知っているじゃないですか。「ピアノ弾いている人はぼけないらしい」、「脳トレでグーパーグーパーやるらしい」、「針仕事をしていると、ぼけないらしい」とか、手を動かすといいというのは、どうやらみんな、なんとなく知っている。ただ「実は、秘密は親指にあったのですよ」というのが新しい。さっき言った、少し知っているのだけれど、少し違うことを言うというのはそういうことです。「手を動かすといいとは知っていたけれど、親指だったとは」という感じで、「感覚的に分かるのだけれど、ちょっと新しいことを言う」というのが読者にとっても手に取りやすい。「確かに手というのは聞いたことがある、でもこれだけやればいいのだったら楽じゃない」というような買い方をしてもらえるということですね。
例えばこの村山さんの本、『あなたは半年前に食べたものでできている』は、食欲コントロールをテーマにしたのですが、ダイエットとか食欲というのは本としては結構あるジャンルです。「まあなんとなく確かにそうだよね」と思っていたのだけれど、この本の良かったところは、このタイトル『あなたは半年前に食べたものでできている』ということ。
「食べたものでしか人は作られていない、手だろうが細胞だろうが、脳の神経だろうが、すべて食べたものでできているので、あなたが食べるものを変えればあなたは変わるのです」ということを言ったこと。食欲をコントロールするには方程式があるとこの人は言い切っていて、その方程式を出したというのが、どうやらそのときは受け入れられたと思っています。もう5年ぐらい前の本なので、いまとなってはそんなに新しいことではないのですけれど。「そんなことあるんだ、ダイエットって確かに聞いていたけれど、食欲って誰にでもあるけれど、そんなことできるんだ」みたいなことですね。
あと、もう1冊持ってきたのが、これはそんなに何万部も売れたという感じではなかったのですけれど、『ANAのVIP担当者に代々伝わる 言いにくいことを言わずに相手を動かす魔法の伝え方』。すごく長いタイトルですが、これもANAのよく言われるCAさんに本を書いてもらおうとは思っていて、「ANAのCAの本ね、分かる分かる。マナーみたいな感じでしょ」「言い方とか伝え方ってあるよね」というイメージはある。
少し知っているけれど違うことを言うのが大事なので、この方に普通こう言うじゃないですか、でもあなたならどう言うのですか、という取材をめちゃくちゃしたのです。本の中でも「NGワード」というのと「魔法の言葉」というのをどちらも同じ話で入れるようにして。「ああこう言いがち、だけどこっちなのですね」というような、いままでこう思っていたけれど少し違うというようなのを、本の作りの中にも落とし込むようにしてみました。これが新しいことを言ってくれる。
新しいことを言ってくれるかどうかというのは、とにかくよく言われていることを著者候補の人にぶつけてみて、なんて返ってくるかということ以外には、なかなか探せないように思っていて。「食欲って自分で何もできないというか、既に自分に備わっているものと思っているのですけれど違うのですか、どうですか?」「本当にモデルたちは『食べたいものを食べてもやせている』のですか?」のようなことをいっぱい聞いていく。例えば「ANAのCAでVIP担当だったら何でもハイハイ聞くのですか」とか、「でもそれは駄目ですというときはどんなふうに言うのですか」のようなことですね。
この中で最初に入れたのは、泣いている赤ちゃんを抱っこしているお母さんと、その席の隣にいる疲れたサラリーマン、どちらになんて言いますかという話から。疲れたサラリーマンは「静かにしてくれよ」と言う、でも「赤ちゃんは泣きやまないのだから、なんとか泣きやませたいと思っているのだからしょうがないじゃない」と言う。どちらの気持ちも分かるときに、CAさんはなんて言うのですかというような話を聞いたりもしました。ですので、よく言われていることとか、自分が遭遇したら「それ、確かに」と思うようなことをぶつけてみて、なんて言ってくれるかをいっぱい聞いて、それが普通とは違うと思ったら本にできるかなと思っています。
次、「自分の悩みを解決してくれる」。これは自分ともう一人別の人の本音が重なれば本を作るというふうに、いま私は思っています。さっきも言ったのですけれど、ペルソナみたいな、「こういう人がいるに違いない」というようなのは、私は得意ではなくて。上手な人もいるとは思うので、上手な人はそれでいけばいいと思うのですが、私はだいたい間違うというか、「こんな人がいるはず」という人がいないという結構悲しいことが何度もあったので。必ず自分が本気で思っていたこと、この本気具合がどれぐらい細かいかというのが結構大事で、「なんとなく英語できていたほうがいいかも」ぐらいだと、たぶん英語の企画は立てないほうがよくて、それは別の本気でやりたい人がやったほうがいい。
さっき言った食欲コントロールの本の例だと、何年か前はとにかくよく終電で帰ったりしていたのですが、家に帰る途中にラーメン屋さんがあったのです。そこにいつも人がいっぱいいて、「でもこんな夜中にラーメンを食べたら絶対太るじゃん」と思って。でもモデルの人は「好きな時に好きなものを食べてますし、たまには夜にポテチとかも食べちゃいます」みたいなことをよく雑誌で言っていて、「へっ? そんなはずないじゃん」とよく思っていたのです。「何で、何が違うのだろう、なぜなのだろう」ということを本当に自分で思っていたので。企画を立てるときに「あのときの」でもいいし、「いまの」でもいいのですけれど、とにかくそのときに本気で思っていたことを解決してあげるといいと思っています。
ただ、それが自分一人だけだと、すごく独りよがりな可能性があって、そういうことを誰かもう一人言っていたら、企画にしようといまは考えています。「やせたいよね」みたいなことをなんとなく友達に言ってみて、「そうそう、だってさ、あんなことモデルの言っている、好きなものを好きなときに食べるなんてうそだよね、そんなわけないよね」とか誰かが言ったら、「あ、この企画はあるのだ」と思うという感じですね。なんとなく自分の本音ベースで振ってみて、それが全然別で、あと一人いれば、いけると思うという感じです。
その次が、「やってみたいと思えるかどうか」。これは私の上司がよく言っていて、本当にそうだなと思っているのですけれど、作るものというのは本ではないと。本ではなくて、感情をつくりなさいとよく言われます。さっきも話に出たミリオンセラーをたくさん出している上司です。
編集者をやっていると、「本にできるかどうか」という目線で企画を考えがちになってしまうことがあります。「あ、これなら一冊作れそうだな」とか、「このくらいあれば、まあ本になるかな」のように自分でも思ってしまうことがあって、そういう時期がすごく長かったのですけれども、本にできるかどうかというのは、とにかくスタートのスタートだと思うようにいまはしています。
というか「本にできないけれどこの話すごくいいから、本にしちゃえ」ぐらいのほうが、本当は読者との橋を架けやすいように思っています。とにかく本にできる、では足りなくて、うれしいとか、これだったら絶対できる、すごく泣ける、やってみたい、あしたからやりたい、あしたから私変わるかも、そういう感情をつくるというふうにいまは考えています。
私は実用書などを作ることもあるのですが、そのときは最初にイントロのようなものを入れて、最後にちゃんとビフォーアフターとかも入れて、「これだったらいけるかも」と思ってもらえるような工夫をするとか。あとはメソッド自体がつまらないというパターンもあって。実用書でこれはすごくよくあることだと思うのですけれど「確かに効くでしょう、だが、やれない」というパターンがかなり多くあるように思っています。あと、ビジネス書でもあると思うのですが、例えばイチローのような人が「毎日素振りを2時間やりました」みたいな。「それは素晴らしいでしょうし、それはうまくなるでしょうが私にはできません」というのが正しいけれどやれないパターン。
そうではなくて私たちがつくるべきなのは、みんながやってみたいと思う、その感情だと思うんです。やってみたいと思えるかどうかを、編集者が作り出すという
イメージです。
ですので、例えば著者候補、もしくは著者の先生が「こういう筋トレを毎日30分やってください」と言ったら、そのときはテンションが上がっているので「そうなのですか、どうやってやるのですか」のように聞いてしまいます。けれど、そうではなくて「本当に私はこれを30分毎日やりたいの?」ということを問いかけていくと「いや30分はやらないな」という本音が、たぶんみんなあるのですよね。だったら「なんとか3分にできませんか」とか、着替えなければいけないと言われたら「着替えないでどうにかなりませんか」とか。そういうような「ちょっとここ、どうにかなりませんかね」ということを問いかけていくというやり方で、このやってみたいをつくるようにしています。
本当にやってみたいと思えるかどうかに関しては、あともう一人ぐらい、例えば同僚とかに聞いてみることもいいかもしれないですが、とにかく正しいことを先生たちは言ってくださる。それはすごく正しいのだけれども、やりたくないというのが一番つらいパターンなので、「とにかく正しい、正しいのだからそれをやってみたい」まで、一緒に持っていきましょうという言い方をします。
少し話がずれるのですけれども、この『コーヒーが冷めないうちに』というのは、実は実用書を売るときのことをすごく考えて本を作ったのです。実用書というのは、基本的には「効能」と「やってみたい」を売っているものだと思っていて、例えば3キロ痩せます、やってみたい、かっこいいトレーニングだとか、これなら簡単そうとかいうふうに、効能とやってみたいをいかに見せるかだと思っています。
『コーヒーが冷めないうちに』は実用書の売り方をいかに文芸に取り入れるかということを最初少し考えていて、帯の一番右に「4回泣けます」というコピーを入れているのです。これは小説で、どういう読後感かということを保証してあげたほうがいいように思っていて。すごく感動するのか、スカッとするのか、しみじみと感動するのか、いろいろな思いがあって、どうなれるのかが読んでみるまで分からない。でもそれだと、本をあまり読んだことがない人だと「そんな冒険はなかなかおかせないよね」というパターンが多いように思ったのです。
ですので、とにかくこれは感動します、すごく雰囲気がいいです、簡単に読めますというようなことをパッと手に取ったときに分かるようにしたいなと思って「4回泣けます」というコピーとか、パッと開いたときに、見開きであらすじ、プロローグのようなものを入れているのです。これも本当は中を読んでもらえれば分かることなので、やらなくてもいいのですが、なんとなくどうしようかなと思った時に「こういうことが書いてあって、こういう雰囲気なのね、だったら読めそうね」ということが、最初の見開きで分からないといけないと思うので、そんな工夫をしました。
いろいろ言ってきましたが、いま言ってきた四つを満たすためにはどうしたらいいかというと、装丁から考えれば一番楽だと思っています。つまり、私はいま企画を考えるときに装丁を書いてみるようにしています。この四六の紙の大きさに線を引いて、タイトル案を書いて、著者候補を書いて、こういう売りです、こんなエクササイズでこれは何分とかという場合もあれば、こういうタイトルで、こういう著者で、こういうビジネス書で、何ができるようになります、なのか。自己啓発だったら、こういう気持ちになる、なのか、小説だったらこういう内容でこういう気持ちになれます、でその著者が誰なのかというようなこととか。全部装丁に入っているのですよね。装丁にそれが書けないということは、企画にそれが足りないということなので。だいたい装丁を作るときは最後なのです、そのときに足りないと思っても、もうだいたい原稿はできているから何もできないというパターンが多いので、とにかく装丁から考えるというふうにしています。
話が変わるのですが、私は『本日、校了!』というサイトをやっていまして、「売れている編集者の人に話を聞きに行くぜ」というような、いろいろな、ダイヤモンド社と文響社とサンクチュアリ出版にいる友達4人でやっているサイトです。そこでミリオンセラー編集のような人いっぱいにインタビューをしに行っているのですけれど、そこで先ほどから何度か話に出ている私の上司に教えてもらったことプラスいくつかという感じで、いま私が装丁に必ず入れるべきことというのを考えています。
一つ目は目的というか悩みというか、何が解決できるのですかということですね。こういうあなたの悩みをこの本は解決できます。「食欲はコントロールできる」なのか、「勇気がわく」なのか。これだと全然違うのですけれど「引き寄せの法則というのを知っているけれどもできてないでしょ、あなた。できるようになりますよ」とか、「言いにくいことを言わないでも、相手が動いてくれるようになりますよ」とか、そういうどんな悩みを解決してくれるのですかというのが1番。
2番はその手段、解決方法です。「それができるたった3分のエクササイズ」とか、「これができる魔法の言い方」なのか。これだったら「それができる引き寄せの方法を体感できる九つの実験が入っています」とか、そういう感じで、それができる具体的な方法を装丁に書いています。ここが魅力的でない場合は中身を考え直すほうがいいように思います。
3番目はどの棚に置かれるべきか、ビジネス書とかで、置いてほしい棚ではない所にいってしまうことがよくあるので、「この棚においてくださいね」という書店員さんへのメッセージを中に書いておいたほうがいいと思います。例えばこういう、少しスピリチュアルみたいな本だと、ビジネスにいくかスピリチュアルの棚にいくかで、全然売れ行きが変わってくるので、どちらでいくのかというのは自分で決めないといけない。書店員さんが見て「なんとなくこっちかな」ではなくて「こっちに置いてくれ、そこのほうが絶対に初速が出るぞ」というのが分かるように。何とかのビジネス書なのか、例えば著者の肩書なのか、そういうものをきちんと出して、「この棚に置いてくれ」ということを分かってもらう。
それから4番目が権威、これはもうそれを言うに足る人かどうかということですね。そのジャンルで1位かどうかとか、例えば東大教授みたいな場合もあれば、3000万人に治療をしてきたとかいうパターンもあれば、何とかスクールで毎年1位の大人気講師とかなのか。とにかくその内容を言うに足る人なのかどうかということ。
4番目は評判。これが「やってみたい」をつくると思っているのですけれど、その実践者の声みたいなものをとにかくカバーに入れていく。これは捏造をする必要はまったくないので、本当にそうかということですけれど、こういう声が本当にあった、こういう結果が本当に出たということをまずカバーで言ってしまう。
5番目は、簡単なのか、難しいのか。これは本によってちゃんと考えておく必要があって、「すごく簡単にできますよ」というものは簡単そうな装丁にしないといけないし、簡単そうな言葉遣いにしなければいけないし、やることも簡単にしなければいけないし、減らさなければいけないし、3分にしなければいけないですよね。だけど、「これをやっている私すてき」というパターンの本の作り方も多分あって。そういう場合、これは本当に効くし、これをやったら本当に素晴らしい人生が待っているみたいな形で少しハイソな装丁にして、やらなければいけないことも10個ぐらいにして、美しい書体にして、というような。だったら実践者の声も、少しセレブっぽい人から探したほうがいいのかとか、そういうような、どういう距離か。「やりたい」というのは絶対だけれども、簡単なのか難しいのか、やっていたらすてきなのか、あしたからやれるのか、というようなことを出してあげる。
6番目はアイコン。これはパッと覚えてくれるということですね。「あ、何とかの本でしょ」と言われるような。これだったら「あの机といすのあれね」「子供がチューしてるやつでしょ」という。なんとなく「あー、あの感じね」というのを雰囲気で覚えてもらえるようにするということですね。だから私は真っ白のようなのはあまりやらないです。ほかの本と勝負するときに、すごい権威の人とかに勝てなくなってしまうので。何かこのアイコン、このイラスト、この写真のようなことを入れるほうが、覚えてもらいやすいように思っています。
これが、企画を考えるときに、装丁案に入れる内容です。
では、次に、著者を見つけるときに気を付けていること。ここも七つあって、上から見ていただければいいのですけれど、まず自分にとって魅力的か。これは本当に自分にとってというのがとても大事で、本を作るのって皆さん大変だと思うんです。半年ぐらいかかって、ずっとやりとりをして、すごく大変だから、やっぱり好きな人とやったほうがいいと思っていて。何かメールを打つのも嫌だみたいなことになっちゃうこともあると思いますけれど、できればそうじゃない、本当にいいなこの人、素晴らしいなと思う人とやるほうがいいように思います。
2つめ、気を付けておかないといけないのが、話せる人なのか、書ける人なのかということ。講演に行ったらすごく面白かったのだけれど、書いてみたら何かよく分からなくなっちゃったというパターンがあって。その場合だったらライターさんをお願いするなり、いろいろな手があるので、この人は話せる人なのかそれとも書ける人なのか、それとも両方なのかということは、最初にとにかく考えるようにしています。
3つめは普通と違う所はあるか、それは、さっき言ったやつですね、新しいことを言えるか。
4つ目、経験談はあるか。これは説得力の問題で、自分がいままでやってきた仕事なり、もしくは人生で、それを言うだけの経験談、失敗談、あと成功例があるかどうか。これは自分のことですね、自分がやってきた中でこういう紆余曲折というのがあるかどうか。
5番目はビフォーアフターが作れるかどうか。これは例えば生徒さんがいる、どなたかが実践してみる、もしくは本を読んで感想でも何でもいいのですけれど、とにかくビフォーアフターがあるというのは、すごく説得力として大事。特にこれは会社にもよるかもしれないですが、広告やPRをやっていくときに、ビフォーアフターがあるというのはすごく強いことなので、先に作っておくというのは大事です。
例えば何か実験してもらえるような、試してもらえるようなものであれば、企画が決まってからどなたかにやってもらって、率直に感想を聞いたりします。それですごく効果があってよかったという場合はそれを本に入れるようなこともありますし、できるかどうか分からないというパターンではなく、とにかくやってもらって、本当に効果がある、それがどれくらいのビフォーアフターなのかというのは見るようにしています。よく巻頭にも入れています。
6番が1位であるか。これはとにかくそのジャンルの中で1位であればよくて、例えば私はこの間『女子アナメイク(自分史上最高の愛され顔になれる女子アナメイク)』という本を作ったのですが、メイクアップアーティストっていっぱいいて、人気の人もいっぱいいて、テレビに出ている人もいろいろな方がいるのです。著者の方、宮澤さんという方だったのですけれども、テレビ朝日の女子アナになりたい人が通うスクールというのがあって。その方はそこでずっとメイクを教えていて、テレ朝の新人のアナウンサーに最初の研修でもメイクを教えるという人だったのです。女子アナメイクという本を作るのであれば、別に全員が知っていなくてもこのジャンルでは宮澤さんしかいない。この人が絶対に1位だという人が見つかればよくて、トップ大人気アーティストである必要は別にない。とにかくそのジャンルで1位かどうかということですね。
7番、メソッドは正しくそしてうれしいか。これもさっき言っていた、正しくない場合もあるのですが、まず正しいというのが大前提。正しいそしてうれしい、というかやってみたいかどうかということを、すごく大事にするようにしています。
こんなことをまず考えて構成を考えています。装丁を書いて、構成案を作って、こういうメソッドだったらどうか、こういうやり方だったらどうか、こんな内容だったら本当にうれしいのではないかなということを考えたうえで、もう1回著者に依頼をします。この依頼をする前に著者に会っている場合もあれば、インタビューとかだけ見ている場合もありますし、それはさまざまです。かなり打ち合わせを重ねてから正式に企画会議に出すという場合もあります。
著者に依頼するときに大事にしていること。それは、「なぜあなたか」ということを徹底的に伝えることです。こういう企画を書いてほしいのです、こういう内容なのです、ぜひお願いしますということはよく言うのですけれども。なぜそれがあなたなのですかということに最も時間を割くほうが、ゆくゆくのずれが少ないし、著者も「いいかも」と思ってもらいやすいのではないかと思います。
「なぜあなたか」を言うことがなぜ大事かというと、口説く時に「付き合えそうだから付き合おうぜ」と言われたら嫌じゃないですか。「誰でも良かったのだけれど、あなた書いてくれそうだから」って言うのはこれと同じことです。「あなたなら付き合えそうだから、ちょっと3カ月ぐらいお願いしますよ」って告白してはいけないのと同じように、この本とか、この内容はあなたにしか書けなくて、あなたがベストで、私はそう信じているからあなたなのです、ということをいかに言えるかどうか。
これはそれまでに、ちゃんと構成を作っていないと言えないことが多いので、このメソッドのこの部分がすごくいいと思ったとか、これはよくみんなが言っているけれど、こういうふうに言っているのはあなただけだったとか。そういう形で本にしたい肝の部分というのが、この「なぜあなたなのか」ということに関係してくるので、それを最初にきちんと話しておくと、あとで「こんなはずじゃなかったのですけれど」というふうに著者と行き違いがあるということも防げるのではないかと思っています。ですので、だいたいあなたに書いてほしいというか、あなたであるべき理由を三つぐらいは言うようにしています。
あと、こういう本を作りたいのですと最初から言うようにしていて、いままで装丁も書いたし、構成案も作ったし、正しいしうれしいというのが自分の中にある状況なので、こういうものを作りたいのですよと、最初に見せたり話をしたりするようにしています。
私はこれは自分の反省の上ですごくそう思っていて。結構「この人有名そうだし、ちょっと会ってみよう」とか、「この人すてきそう」と思って会いに行って、本を作ることは決めてきて。でも「この人で何作ろう?」みたいにやっちゃうことが結構あって、それが全然うまくいかなかったというか。その人が言えることから本を作ると、読者との懸け橋が全然架からないというか。この人が言いたいこととこっちで待っている人がマッチングしないことがすごく多かったのです。
ですので、きちんと読書との橋を架けようと思ったら、先に構成案を作って「あなたにこんなことを言ってもらえたら最高ですが、どうですか」という感じで、先に言うほうがいいように思っています。読者がいるところに橋を架けるのであって、こっちで言いたいことから読者を探すのではないということですね。それがすごく上手な人はそれをやっていいと思うのですが、最初はそうではないほうがいいのかなと思ったという感じです。
著者と一緒に「やりましょう」となった場合に、もう1回構成案を練り直す段階がきます。自分が頭の中で考えていたものと、それを著者の方にぶつけてみて、「いや実はこうだった」「こうしたほうがもっといい」「これはちょっと実現できない」とかいろいろなことが出てくるので、それを一緒にすり合わせていくというか。何だったら一緒にメソッド開発するぐらいの気持ちで話をします。
とにかく内容というのは売り方から考えるほうが失敗が少なくなるように思っています。とかいって全然売れないこともいっぱいあるので、偉そうに言うことではないのですが、その会社によって売り方のパターンが絶対あると思います。
例えば依頼された会社が、実用書ですごく営業の人が多くて、全店に少しずつ平積みされているような形で、毎年毎年コツコツ重版をかけて売れていきますというパターンの会社なのか、それとも最初に売れるかどうかを見て、売れるとなったら広告をガンガン出していく会社なのか。例えば雑誌があるから、ここで対談とかをして、そこで著者の認知を広めて売っていくというパターンなのか。その出口を最初に考えておくといいように思っています。
それは自分がいる会社の得意パターンでもいいし編プロの方だったら、依頼された会社の得意パターン、出口のパターンを絶対に見ておいて。この会社は売れていくとPRの人が入ってテレビに出すのだなとか、この会社はコツコツ売っていって、書店でのPOPとかをすごく大事に作る会社だなとか、この会社は電車広告をやるのだなとか、新聞広告なのだなとか、広告の中でもどういう広告を打っているのかということを必ず見ておくようにするといいと思います。
そうなると、例えば弊社、サンマーク出版はすごく新聞広告を作る会社です。それが分かると、新聞広告というのはだいたい、50~70代の人が読むものなのですね。だったら、そこの人たちに向けて新しいテーマで本を作っても、あまり売り伸ばしは期待できないかもしれないと思うと、手堅くやっていく企画だったら「老眼の本のほうがいいのかな」とか考えるということですね。「じゃあ、新聞広告に出すのだったら、新聞広告の白黒でその『老眼が治ったかも』と思えるようなテストが出せたらいいんじゃないかな」とか、そういうふうに出口から考える。
いろいろな会社のいろいろな得意パターンがあるので、その会社が、例えばPOPで、見本本のようなものを置いていっぱい見せて、「これいいね、これいいね」というふうに売っていくなと思ったら、それに合わせた本づくりをするし、それに合わせて読者の声のようなのをいっぱい入れておいたらそういうのに使ってもらえるのかなとか、そういうことを考えて内容を詰めていく感じですね。
できあがってから売り方を考えると「ああ、でも、これ無いな」ということのほうが絶対に多くなってしまうので、そこを中に入れていくという考え方をするとよいと思います。もちろん、広告がある、広告がない、営業さんがいる、営業さんがいない、強い、弱いというのは絶対どの会社にもあるので、とにかくその会社でどう売れていくのか、自分の会社なら自分の会社でどう売れていくのか、ということをパターンとしてみておく。
私はこの本(『あなたは半年前に食べたものでできている』)が出るまで、しばらく全然作った本が売れなくて、マジで本当に辞めたいと思っていたのです。そのときは、うちの会社は新聞広告もそうですが、電車広告をよくやって、ドア横の大きい新B額面というものですけれども、そのデザインをもらって、そこに入れたときに売れそうな見出しを付けるようにしました。
あと、新聞広告のデザインとかもあるので、そこに載せたときに、こんなふうに言えたら一番いいなという見出しを付けることもやっていました。
それと、これはすごく小さいことというか、地道な作業ですが、とにかくできるだけ読んで楽しいということも重要だし、本のテンションが難しいか簡単かというのにも関わってくるのですけれど、この本(『こうして、思考は現実になる』)に関しては、私は『思考は現実化する』という厚いすごい名著があるじゃないですか。
その本を読みたいけれど「こんな厚いの読めないよね」という人をターゲットにしようと思っていて。それは私なのですが、「これだったらあっという間に読めたし、実験とかもあって楽しかった」と言ってもらいたいという読後感をまず決めていたのです。
けれども、翻訳書なので内容をいじることはできないので、「読まれ方」にこだわろうと思っていました。だから、とにかくページの最後に丸が来ないようにして、とにかく次のページをめくらせるようにしたいと思っていました。あと、この太字の面白い部分とかもできるだけページ末にいくようにして、とにかく本を閉じないように、次のページにめくらせるようなことを、工夫して、というほどの話ではないのですが、考えてやっていました。
次が、赤字を入れるときに忘れないようにしていること。これは著者の方とかライターさんから原稿がきました、どんなふうにしたらいいかしらと考えると、まず章ごとにざっと読みながら、とにかくこれが入っているかなとチェックする4項目というのが、こういう悩みですという。さっき言ったような、「好きなものを好きなだけ食べるって本当にやりたいのに」とかそういう悩み事、共感の部分ですね。
ここはすごく、うそをつきがちな部分でもあって「ちまたではこんなふうに言われていますが、皆さんこれに困っていませんか」のように書いて、ちまたで全然言っていないというパターンが結構あるのですよね。私が言いたいことを言うために、そういう悩みを勝手に作り出すようなことをやってしまうのですけれど、それは読者の人がだいたいそこで見抜くというか、「えっ」みたいになるのですよね。「●●と叫ばれていますが」、「えっ、私は叫んだことないな」のように絶対に思ってしまうので。ここで共感させると、「あ、私のことだ」とぐっと入ってくれるので、悩みごとはうそをつかないということはすごく大事にしています。
2番目が普通ならこうするよねという常識を入れる。「え、違うの。それではなかったの?」と思ってもらう。それで新しい具体策が入ってきて、それの裏付けとなる理論が入るという、基本的にはそれが必ず入っているか、どれか抜けていないかを考えるようにしています。よく、具体策があって理論を書くときに、理論の階段がすごく飛んでいる場合というのもあって、「何とかだと思うんですよ、そんなときはこうすればいいんです」という、こことここがめちゃくちゃ飛躍しているというパターンがあったりするので、そこには「もう少し階段を足してあげないといけないな」というように赤字を入れることもあります。
いまの私のこのしゃべりも、テープ起こしをしたら、たぶんそうなっていると思うのですが、Aの話をしてBの話をして、またAの話に戻って、次またBの話をして、全体的にこんな話をしたみたいになっているパターンがあって。人ってだいたいしゃべっているときはそうなるのですけれど、「文章だと何か分かるのだけれど、少し読みづらい」と思う原因が、結構ABABがごっちゃになっているパターンが多いので、そうなっていないかということもよく見ています。
あとは結構売れている本とか、名著といわれるものの構成をすごく見るようにしていて。文章というよりは役割、最初に問いかけがあって、次に自分の経験談があって、次にこの具体的な話、論理があって、こうなったというような、その役割を抜き出して書いてみて、そこにこの役割がそろっているかとか、この順番にしたほうが人は説得されるのだなというようなことを考えたりもします。
これはちょっと違うかもしれませんが、小説を作る場合は、何を読みたいかとか、どう思ったかというようなことを、とにかくいっぱい書いていって、話の流れのタイムライン、これが起きて、こうなってこうなってこうなっていますよね、そのとき読者はこういう感情になっているので、ここが足りてないと思うのですよね、というような話をします。とにかく読んだときに自分がどう思って、どう納得いかなかったか、どう納得いったか、すごくいいと思ったかどうか、というようなことを必ず見ておくということを、赤字を入れるときにはやるようにしています。自分がどう思ったかをすごくよく見るように気を付けないといけないなといつも思っています。
あとは冒頭につかみを入れるというのも、よくやるようにしています。例えばこれでいったら、さっき言ったように、見開きで「こういう話で、こういうストーリーが4つ入っていて、すごく感動的なのですよ」ということがぱっと見で分かるように入れることをしますし、この本(『こうして、思考は現実になる』)だと引き寄せの法則みたいなのが内容だったので、そういうスピリチュアルみたいなことって、少し怪しいなと思う人もいっぱいいますよね。ですので、本の中に入っていた、NASAの生物学者の博士からの推薦文というのを見開きで頭に持ってきて、「何か信頼性がもしかしてあるのかも」と思ってもらうようにしました。
先ほど話に出た『女子アナメイク』とかだと、「女子アナってなんだかずるいっていつも思っていました」のような、ポエムみたいなものを最初に入れて。「確かに女子アナってずるい気がする」というふうにグッと入っていってもらえるような、見開きの中に3行3行ぐらいの「男子からはこう思われていて女子からはこう思われている」のようなものを計8ページぐらい作ったりして、「確かに女子アナメイクってすごくいいかも」と思ってもらえるためだけのストーリーのようなものを入れたりもしていました。
あとはこの『ANAのVIP担当に代々伝わる言いにくいことを言わずに相手を動かす魔法の伝え方』の本だと、この本ができたわけというのを自分の名前を入れて書いていて、「言いにくいことがすごくあるのですよ」のような。例えば、約束がある日の帰り際に上司に声を掛けられて「きょうは急ぐのであしたでいいですか」と言えないし、でも待っている人に「ごめん、ちょっと仕事があって」と言うのも言いづらい、そういうどちらにも言いづらいときはどうしたらいいのかと思っていたら、この著者の人に出会ったのです。だから私の悩みを解決してくれる本なのですということを、これも見開きで入れたりしました。「分かる分かる、そのシチュエーション」と思ってもらえるといいなあと思ってこれはやった感じですね。ですので、冒頭につかみを入れるということも、赤字を入れるときというか、原稿を作るときにはすごく気を付けるようにしています。
この中に、そこに興味がある人は一人もいらっしゃらないかもしれないのですけれども、私は最近小説をよく作っていて、「小説を書きたいのです」とか「小説を作ってみたいのです」という方にお会いすると「でも何からやっていいかよく分からないのです」とよく言われるので。ちなみに小説はどういうふうに作っているかというと、これは私だけの話ですよ、ほかの人はどうやっているか知らないのですけれど、最初に場所を決めます。場所というのは病院だとか、これだったらコーヒーショップだとか、警察官のところ、学校、家庭内。その本の中でメインとなる舞台、場所というのを最初に決めるようにしています。
これはジャンルと同じで、例えば警察小説、ナースもの、ドタバタナースのようなもの、医者のミステリー、料理屋のおいしいもの小説とか、そういうふうに小説はジャンルが場所分けされていることがすごく多いと思っています。例えば私だったらレストランで起こるミステリーというのが大好きで、そういうものを結構買ってしまうのです。「私、警察小説が大好きで、警察小説なら買う」という人もいれば、「時代小説が好きで、時代小説なら手に取っちゃう」という人もいるので、ジャンルを決めるというのと同じように、まず場所を決めます。そこから考える。
そこに登場人物はどのような人が出てくるの? 「新人ナースなの。それともベテラン課長なの。それともほかの所からやってきた破天荒な転入生なの」ということ。部活だったら「初めてやる人なの。それとも先生の奮闘記なの。それとも生徒なの」ということですね。
そういう登場人物を決めて、その次に決めるのが読後感。さっき言ったように、感動なのか、ヒヤヒヤハラハラなのか、スカッとするのか、どんでん返しなのか、そういう読後感というのを最初に決めます。場所と登場人物と読後感が決まると、この場所でこの読後感を味わってもらうためには、どういう事件が起きたらいいかというふうに筋道を考えていくのです。
例えばすごく有名な池井戸さんの、銀行で起きて頭取のような偉い人とそれに歯向かう中堅のサラリーマンがいて、最後スカッとすると決まっていれば、「最初にどういう事件が起こっていくの」となったら、「最初にすごく虐げられていたけれども、最後にひっくり返してやるぜ」というようなことが分かってくるわけですね。そういうふうにストーリーを決めていくようにします。
そのあと、登場人物の履歴書というのを全員分書いてもらうようにしています。これは『荒木飛呂彦の漫画術』という超名著があるのですが、荒木飛呂彦さんは『ジョジョ(ジョジョの奇妙な冒険)』などを書いている人です。あれはすごく勉強になるので、ぜひ皆さんお読みになったらいいと思うのですが、必ずメインとなる登場人物の好きなもの、右利き左利き、視力、昔好きだった子とか、全部履歴書に書いてあるのです。それに沿ってストーリーを書いていくと、「こいつこんな性格だったのにこっちでぶれてきた」ということがなくなるのだそうです。
荒木先生ほどでもそれをしておかないとぶれがちということは、そんなに慣れていない人は絶対にぶれてしまうので、この人はこういう性格で、こういう初恋で、こういうラブレターをもらってみたいなことを、最初に履歴書を書いて決めておくようにします。途中で変わったりもしますけれど、とにかく最初に決めて、そこから執筆に入るというようなやり方をするようにしています。
という感じで、ちょうどいい時間なのかな。私が新人著者だったり、いろいろな著者の方と本を作るときに気を付けていることをお話しさせていただきました。どうもありがとうございました。(拍手)
山本 池田先生どうもありがとうございました。それでは少しお時間がございますので、ご質問がある方は挙手いただいて。何か先生にご質問されたい方はいらっしゃいますか?
どうぞ、出てください。あれ、きょうは……。
池田 いないですかね…
山本 いらっしゃいます。
池田 ありがとうございます。うれしい。
山本 いま、おふた方の手が上がりました。では手前の方から。
オカモト ありがとうございました。ポプラ社のオカモトと申します。
池田 ありがとうございます。
オカモト 新人の先生を探すときに、簡単なことですけれども、どうやって探されているのかを教えてください。
池田 まず一番いいのは、著者の紹介が一番いいと思っています。すごい方が知って面白いと思う方がすごいということが結構あるので。「最近こんなジャンルで面白い方いませんか」と聞いてみたり、一緒に講演されている方の講演を聞いてみたりというような形で、まず紹介というのが一番多いパターンかなと思っています。
あとはネットで探すのももちろんあるのですけれど、一番気を付けないといけないのが、自分のタイムラインにめちゃくちゃ出てくる人が、世間でとても人気だと思ってしまうパターンがすごくあるように思っていて。例えば選挙前とかに、自分のTwitterだけ見ていたら、「この党、圧勝だな」と思うときとか「みんなこのテレビを見ているな」と思うときがあったりするのですけれど、それが選挙が終わったり、視聴率を見てみたら、全然そんなことないということがすごく多くあって。
つまり、自分がフォローしている人というのは自分が好きなタイプの人なので、そこですごくバズっているように見えても、本当は全然バズっていないという可能性がかなりあるので、ネットに関しては自分がすごく面白いと思っている人がいっぱい「いいね」しているなとか、少し引いた感じで探すのがいいと思っています。
あともう一つ、これだと新人にならないパターンもあるのですが、実用書の場合は、新書の、例えば講談社のブルーバックス新書とかそういうところで、一般向けではない、すごくきちんとした本を書いていらっしゃる方を探してみるというのはよくやります。そこで例えば、若返りみたいなことを真剣に研究されている東大の先生とかに、もっと一般的に若くいる方法のようなものを書いてもらえないかなとか、そういう形で、本は出しているのだけれど、一般的にはまだ書いていないパターンの人を探す。だからブルーバックス新書の棚の前によく行きます。あとは名医とかで検索するとかですかね。腰痛、名医とか、たぶん皆さんやってらっしゃると思うのですけれど。そういう感じの3パターンかなと思います。大丈夫ですか。
オカモト ありがとうございます。
山本 どうもありがとうございます。それではもうひと方。
ヤマモト 学陽書房のヤマモトと申します。きょうは本当にありがとうございます。先ほど、装丁から考えて企画は立てているというお話しだったのですけれど、その場合実際の装丁の依頼のときは、どういうふうにされているのかなと気になって伺えたらと思いました。
池田 そのときは、装丁の依頼に行くときにそのラフを見せるということはしていなくて。でも「この文字はすごく大きく見せたい」というようなものは装丁のラフを書くと決まってくるので、「ここは大きく」とか「ここは大」と書いたり、装丁の依頼をする紙にすごく大きく印刷したりとかして「こういう雰囲気にしたいです」というようなことは伝えます。ただラフを見せるということはしないですかね。
デザイナーさんの所に、文言とか、タイトルと帯ネームと、こういう内容を入れたいということは全部決めてから、装丁家さんに会いに行って、雰囲気を伝えるようにしています。さっき言った、堅いのか柔らかいのかとか、この棚の中で一番新しい感じにしたいですとか、結構ふわっとしたことをいっぱい言うようにしていて。写真を入れたいです、希望な感じにしたいです、令和になるので、いま自分の生き方を考えている人にこれだと思ってほしいですとか。すごく困る感じのことをいっぱい言って数パターン出していただくという形のやり方をとっています。大丈夫ですか。
ヤマモト 強力にディレクションしちゃうのかと思っていたのですけれど、違うのですね。
池田 私は、正直自分のセンスに自信がないし、そこは装丁家さんの仕事だと思うので、ここにこうやって、やってくださいということは一切言わないようにしています。あまりセンスがよくないので。
ヤマモト ありがとうございます。
池田 大丈夫ですか。
ヤマモト はい。
山本 ありがとうございました。ほかにはいらっしゃいませんか。大丈夫ですか。ご質問のある方は。
私は、話の順序をしっかり立ててAを言ってBを言ってと、たいがいCぐらいから言って、Aを言って、Bを言わなかったりするので、話が全然伝わらなくていつも困っているので。ここに立っても本当にまな板の上の鯉みたいなもので、何話しているかよく分からないのですけれども。池田先生はスラスラとお話しになって、皆さまいかかでしたでしょうか。
池田 めっちゃ緊張しますね。
山本 全然緊張しているようには見えなかったのですけれども。しっかりレジュメを作っていただいて、池田さまのノウハウをしっかり語っていただきました。本当にどうもありがとうございました。
皆さまきょうのレジュメを持ち帰っていただいて、また思い出していただいて、池田さまがお作りになられた、編集された本がたくさんありますので、ぜひ手に取ってご購入いただいたらいいと思います。私もその『コーヒーが冷めないうちに』を以前に読ませていただきました。皆さまぜひお手に取って読んでください。
まとまらないのです、これが何を言っているかよく分からないところで。すみません。それでは、ご質問は大丈夫ですか。90分みっちり語っていただきました。どうも池田さまありがとうございました。
池田 ありがとうございました。(拍手)
(2019年6月20日(木)AJEC編集講座での講演より)