東洋経済オンラインが多くの読者を集る理由
少しでも現場の皆さんのお役にたてるような話をできたらと思います。
「週刊東洋経済」「月刊金融ビジネス」など雑誌の記者・編集者を長くやってきました。とくにIT担当が長かったのです。2000年には『孫正義の将来』というのを書きました。
2014年春から東洋経済オンラインの編集長をやっていて5年弱です。その間に月間3000万PV、これでも非常に高いPVではあったのですがそれが2億を超えるレベルに成長しました。グラフで見るとこのようになっています。
東洋経済オンラインの特徴は多くのメディアと提携していることです。ロイター、日本テレビ、各出版社の書籍プロモーションなどを掲載しています。これは、意外に他メディアがやっていないことです。「外交」と言っているのですが、ネットメディアにとって重要なのは、外交力だと考えています。
自分たちだけで100%ものを作ろうとすると、限界があります。読者が読みたいと思うであろう記事を自分たちでキュレーションすることを重視しています。
皆様の編集プロダクションのサイトを作る時に、考えていただけるとよいと思います。編集者としてのこだわりは、「来てくれた人に価値のある情報を届けたい」ということだと思います。その時にはオリジナルの自分たちの記事という制約条件に従う必要はなくて、何か面白いものがあったら、うちと組みませんか、とやってコンテンツを充実させるとよいと思います。
なぜ編集者の重要性が高まっているか
記事を書いてくれる人は、ものすごく増えているように思います。けれども実際に読まれる形にしたり、何がファクトとして必要か、どこに問い合わせをしなければダメか、など要点を抑えた取り回しをできる人、工夫をできる人が求められています。
工夫をするということは紙もウェブも同じ。紙の書籍でも上手に売ることができる方は、そういう工夫をしていたと思うのです。うまく吹き出しを入れるとか、イラストを上手に使うとか、図表を的確に入れるとか、うまくグラビアを絡ませるとか、その本の雰囲気によって装丁を工夫するとか、総合プロデューサーだと思うのです。
そういった工夫がウェブでも求められます。写真1枚で激変しますし、タイトル1つによっても激変してしまう。そこが編集者の重要性です。
ウェブの編集者はそのうえ、「売る力」も求められます。
かつて紙の書籍では、役割分担は明確で、作るまで編集者がやって、後はプロフェッショナルである営業に任せることによって、売れなかったら営業のせいに出来る、という大変な特権が編集者にありました。
営業の方は影で「あの編集者は能力が高くない」などとお互いに責任をなすりつければいいということがあったんですが、今は営業マンがいないので、編集者が作ったら、読まれなかったら、その編集者の能力不足になります。
紙の書籍でも優秀な編集者は自分で売っていたと思いますが、ウェブでは誰のせいにもできない。すべて編集者の責任ということになります。
つまり読んでもらうところまで編集者が面倒をみなくてはならない。Facebookにぴったり合う記事、Twitter でものすごく拡散する記事など、テーマごとに特徴があります。
もうひとつウェブの記事の特徴はタイトルがものすごく重要ということ。全体を読んだらふんわり分かるという記事は、オンラインには向いていません。まずタイトルをみて、クリックをしてもらう必要がある。そのうえで、「冒頭に結論があって、読むに値するかどうか、1秒か2秒で判断できる」ようにする必要があります。
文章の長さについて。
よく「東洋経済ラインの記事長いですね」とか、長い場合は上中下にわけたほうがいいですよね、とかいわれるんですが、上中下は絶対やめたほうがいいです。上中下を読むことで全部わかるというのは、多くの人は読みません。面倒くさいと思われて。
ですが、わけた時に、たまたま、文章が断絶しているのではなくて、よくやるんですが、1万字の原稿があります、というときに、よく読むと、2つのテーマが分かれているんじゃないかと。5千字ずつに2つにカットすると、ちょっと書き足しをして、2つの読み切りの記事ができることであれば、それを2分割して別タイトルの記事として掲載する工夫をします。同じタイトルで上下というのは、極力、使わないことにしています。
長く読まれる記事のために。
編集者たるもの、速報ニュースではないのであれば、なるべくロングセラーになってほしいと思うと思います。
書籍でも大事だと思うのですが、来年になったら古く見えてしまう表現はなるべくなくした方がいい。つまり、「今月」とか「先月」といった書き出しは絶対にやめたほうがいいです。常に読まれる、長く読まれるエバグリーン(常緑)の記事、ロングセラーの記事にすることを狙うのであれば、「今の首相は誰誰で」、ということを書くのはよくありません。首相が変わってしまうとすごく古く感じられるので、そういったものは使わないほうがいい。「今年出た iPhone が人気です」と言う表現も、来年になったらどの機種なのかがわからなくなります。そういった古さが表れる表現には気を付けたほうがいいです。
読者本位の徹底
読者本位の徹底も必要になると思います。いかに読者の立場になって記事を作るか。読者本位の逆の言葉がプロデューサー本意とか、著者本位に当たります。なぜ今、配信する意味があるのか、ということを意外に考えない編集者が多い。「昨日、原稿をもらったから」「たまたま編集が終わったから」みたいに考えてしまうのが、プロデューサー本位です。
しかし、読者本位を徹底していますということでいくと、例えばJリーグの記事があれば配信するのにふさわしいのは、Jリーグが開幕した日かもしれないし、開幕して数日後なのかもしれない。
読者本位に徹底すると、編集者にとってとてもよいことがあります。
「すぐに配信をしてください」と強く主張してくる著者がいたとしても、「この記事はすぐ配信をするのではなく、〇月〇日が最適です。これは編集者のわがままで言っているのではなくて、ウェブの世界では読者は大変移り気で、なかなか先生の思うようにはいきません。あくまでも読者のためを考えて言っているのでご理解ください」と言い返せます。
読者が求めているきわめて重要な要素は「タイムリーさ」です。知りたいタイミングで知りたいことを教えてほしいわけです。これはすごく重要で、時機がずれてしまえば、驚くほど読まれません。
読者本位の徹底を図るためのツールとして、東洋経済オンラインでは、読者が自由に書き込めるコメント欄を設けております。そのコメントの中にはこういった誤植がある、という指摘もあれば、こういった書き方はおかしいんではないか、とう書き込みなどさまざまな投稿があります。この読者の声は本当に重要です。
コメントがたくさん書き込まれると編集者としてもすごくうれしい。一番さみしいのはコメントがゼロの記事。読者が書き込んだコメントを著者も編集者も気にする。それがとてもいい指摘であれば、次に活かそうと言うことになりますし、それを活かすことによって読者が喜ぶことに繋がるわけです。そういう意味で、コメント欄は読者本位を徹底するための大切なツールになっています。(了)
(平成30年10月25日(木)AJEC編集講座での講演より)