「原稿整理の仕方」~今の読者を引きつける原稿整理の技術
本日のお題は、「原稿整理」です。お手元にレジメを用意しましたので、その順番に沿って進めていきたいと思います。
原稿整理とはどんなものか、というところから始めたいと思います。ネットで引いてみると、日本印刷産業連合会というところから記事が出ている。原稿整理とは、「原稿の内容チェックと、文字原稿の句読点、段落、文字使い、用語統一」とあります。その通りなのですが、ぼくの経験では、著者の原稿を魅力的な書籍に昇華させて、読者にお金を払って買ってもらう、そこまで作り込む作業を含めて、原稿整理だと思っています。
出版社とレストランはよく似た業種だと思っていて、例えば著者からあがってきた原稿を「生(なま)原稿」といいますが、「生(なま)」ですからレストランでいえば料理してない素材ということですね。レストランのシェフなら生の素材を料理していきます。出版でいえば、料理することは、編集者が原稿整理することだとぼくは思っています。
シェフならば、包丁さばき、編集者ならば、原稿整理、それがどういうものか、このへんからスタートしていきたいと思います。
原稿整理の基本
原稿整理の基本として、以下の4つをあげたいと思います。
①送りの統一/文字の統一/誤字脱字のチェック
②著者が書かれた原稿の確認
③不適切な表現(差別用語)
④読みやすい原稿にする(リライト)/著者に直してもらう
順を追って説明していきます。
①送りの統一/文字の統一/誤字脱字のチェック
まず、送りの統一・文字の統一ですが、よく混在してしまう例を上げてみました。ご存じのように送りには、許容というのがあります。同じ言葉遣いでありながら、許容されたり、されてなかったりと、混在してしまうことがあります。この辺り校閲の方は、厳しくチェックされているようです。ほんの一例ですが、送りのよくあるパターンをあげておきます。
浮かぶ(浮ぶ)/生まれる(生れる)/起こす(起す)/落とす(落す)/暮らす(暮す)/当たる(当る)/終わる(終る)/変わる(変る)
文字統一ですが、同じ言葉が漢字だったり、ひらがなだったり、混在しやすいものをあげてみました。
~時(~とき)/~の頃(~のころ)/実は(じつは)/確かに(たしかに)/又(また)/当たり前(あたりまえ)/面白い(おもしろい)/私(わたし)
これも、ほんの一部ですが、いっぱいありますので、読んだ時、書き出していって、確認して、校正していくことはよくやりますね。
脱字ですが、ちょっと前に「週刊現代」で面白い記事がありましたので、引用させていただきます。下の例文ですが、なんて書いてあるか読めますか?
こんちには みさなん おんげき ですか?
わしたは げんき です。
この ぶんょしう は みさなん を だます ために
わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす。
にげんん は もじ を にしんき する とき
その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれば
じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よまめす。
どでうす? ちんゃと よゃちめう でしょ? (「週刊現代」5/28発売号)
読めてしまいますね。単語の頭とおしりが同じで、真ん中がぐちゃぐちゃでも、脳が勝手に判断して、読んでしまうのです。じつは、日本語だけでなく、ほかの言語もそうなんですって。脳はすごいですね。こういうふうに頭の中で、自動修正してしまうのです。脳のすごい機能なのですが、脱字がないように、探す仕事からすると、これほど邪魔な機能はないんですね。ふつうに読むと、とばしてしまう。見えないんです。脳が勝手に読んでしまうので。
ぼくも一校、二校、三校までとるのですが、それでも本になると、脱字があるのです。なんでかな、と思うのですが、脳のこうした機能があるということを、校正する時に、頭の片隅に入れておく必要があると思います。
校正のプロの方は、文字を拾いながら読む、とおっしゃいます。拾うように読む、とはどういうことかと言うと、「こ・ん・ち・に・は」というふうに校閲の方は読んでいるんですね。だから、皆さんも、プロの校正の方のように文字を拾うように読んで、誤字・脱字がないようにしていかれるといいかなと思います。
②著者が書かれた原稿の確認
編集者が著者に原稿を依頼するわけですから、当然、著者は編集者に原稿を見せます。そして、編集者が初めての読者になるわけです。
初めての読者になるとはどういうことか、というと、自分で原稿を書いた時の心理を思い出してほしい。
原稿を書く時って、集中しますよね。次にどういう展開にしようか考えて、その原稿に没頭していかないと、原稿はやはり書けないんです。
原稿に集中していると何が起こるか、というと、「客観性」を失います。
ぼくも実際、原稿を書きますが、すごく乗っている時、頭に浮かんだ言葉を拾っていくのが精一杯で、なかなか冷静な判断では、見られないのです。
だから、著者の原稿を冷静な目で、初めて見るのは誰か。それが編集者なのです。
では生原稿を著者から送ってもらった時、編集者は、どういうスタンスで読めばいいのか?
・読者の目となって、原稿を読むのが編集者
・頭の半分が著者側、もう半分はビジネスマンとして
ここは大事なところで、強調しておきたい。「読者の目となって」というのは、お金を出して買ってもらう読者の目となって読むということです。「頭の半分が著者側」というのは、先生が一人よがりになっていないか、この行からこの行へいくのにもう少し説明が必要です、とか、です。ぼくたちは書籍という商品、売り物を作っている。この原稿はお金を出して買ってもらえるのかどうか、どうしたら、お金を払って買ってもらうように仕上げていくか。もしくは、どういうプロモーションだったらいいのか。そうしたビジネスマンとしてのスタンスを持って、原稿を読んでいく。クリエイティブな頭とビジネスマンとしての頭の両方を、編集者は持っていなければならないと思います。
・著者は知識が豊富であるがゆえに、書籍のコンセプトを逸脱してしまう可能性がある
僕の失敗例をお話します。1年くらい前ですが、このところ熟年離婚が話題になっていて、まったく料理していない60代のお父さんがいきなり一人暮らしになる。料理ができない、という人のために、60代の人に向けた『お父さんのための日本一やさしい料理本』という本を作りました。栄養士で料理家の青木敦子さんに依頼して、コンセプトの説明をしました。「超やさしいレシピ」にしてほしい、と「超」を何度も強調して、「わかりました」と了解を得ました。
しかし、上がってきたレシピが、僕にとっては全然やさしくないんです。青木さんは、プロの料理家で、頭の中には5000から6000のレシピが入っている。彼女が思う「超やさしい」と僕が求めているのと、レベルが違うのです。具体的にいうと、彼女の「やさしい」というところの中には、合わせ調味料を作るのはふつう、なんですね。でも、料理をまったく作ったことのないお父さんには、ハードル高いですよね。それで30レシピくらい、全部やり直ししてもらった経験があります。
同じ言葉を使っているのに、同じ了解をしているのに、上がってきたレシピは望んでいたものではなかった。この結果は、ぼくのミスなんですが、コンセプトの説明の仕方を誤ると、著者に大きな負担をかけてしまいます。
ついでですが、著者に修正をお願いする時についてです。
「まず、いいところをほめて、その後に修正箇所を指摘する」
これは大事なんです。著者も人間ですから。ぼくはこの30年間、徹底してやっています。「いいですね、これ。気づきませんでした」「こんなにいいのに、ここは、もうちょっと何とかなりませんか?」というふうに。
原稿書く時は、すごく集中して書いている、それが編集者に渡した時、「全然使えませんよ」と編集者にいわれたら、普通、めげます。やる気なくなってしまいますよね。
やはり、その著者に頼む意味があるわけですから、ちゃんと、その著者のいいところを引き出してやり、ほめてあげて、それを書き直しのほうに誘導する。いいところをほめてから、修正箇所を指摘する――著者に原稿修正をお願いする時の、大事なポイントだと思います。
著者はAIじゃありません。人間ですから、いきなり頭からガツンとやられると、ふてくされてしまう。これは、著者との関係だけではなく、いろいろな局面で当てはまると思いますので、頭の片隅に入れて修正をお願いするといいかなと思います。
③不適切な表現(差別語)
商業出版では、避けて通れない問題です。ただ、歴史にかかわる話でもあり、要点だけに絞って、お話したいと思います。出版社という企業が発信するコンテンツなので、個人が行うSNSなら炎上しても個人の責任ですが、商業出版の場合は、当然、多くの人に迷惑がかかります。著者、上司、会社対応としては広報、販売の人、大きく誤ると本の回収になります。差別にかかわる問題は、知らなかったという訳にはいきません。歴史の問題がからんでいますから、時間のある時にはぜひ勉強なさっておくのも大事かなと思います。
個人的な体験ですが、20年以上前、品川の食肉センターを見学させてもらったことがあります。その後、中で働いている30代男性の職人さん2人と一緒にご飯を食べたりしたのですが、何が困っているかというと、お嫁さんがこない。すごくいい感じになっても、結局、動物を殺している、ということを言われてしまい、結婚のネックになっている、というんです。お話をお聞きした感想は、差別されている側の人は、僕らが思っている以上に、言葉には非常に敏感だということです。当事者と話してみて、よく分かりました。
ですから、言葉を使う時には、かなり注意が必要だと思います。では、使わなければいいのでは? 削ってしまって、とこうなりがちですが、著者が十分、言葉を吟味して、あえて、その言葉を使ってくる場合もあります。
著者が、言葉を吟味して使っていますから、それを安易に編集者が消そうとしたら、信用問題になって、大きなトラブルに発展します。どうすればいいか、というと、大事なポイントは、言葉を単体としてみるのではなく、全体から見て差別しているのか、いないのか、「大事なのは、文脈」なんですね。
ここをきっちり押さえて、これは、個別の対応しかないと思います。その言葉をどういうイメージで、どう使っているのかをしっかり吟味して、そして、この言葉は使っていいのか、削るべきか、個別に判断していくしかありません。原稿整理でそうたくさんあるわけではないですが、中には問題をはらむ場合がありますので、その時は、安易な対応をしないことはすごく大事だと思います。
読みやすい原稿にするとは
読みやすい原稿とはどんな原稿なのか? 逆に「読みにくい原稿とは何か」を考えることによって、明確になってきます。
「ビジュアル」(見た目)と「内容」に分けて考える
○読みづらい原稿①「ビジュアル」
・A 段落がない
・B 読点が多すぎる、読点がない
・C ひらがなだけで書かれている
・D カタカナだけで書かれている
CとDは付け加えてみました。あまりないですが、ひらがなを多用した小説というのがありましたね。実験的な小説で、『abさんご』という黒田夏子さんの作品で芥川賞を取りました。あれはひらがな、とくに読点を非常に厳密に使っていましたね。
A段落がない例
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私たちは、日常的に賭けをしながら、生活しているといえます。大学を選ぶのも、また、就職するのも、一つの賭けです。先行き、絶対にうまくいくとは限らない。一流大学や大企業に入れたからといって、すべてうまくいくとは限りません。そのことは、シニアになって退職した人なら、実感としてわかっているはずです。せっかく一流企業に入ったのに、トップにまで上り詰める人もいる。でもその結果については就職する時点では、全く白紙だったはずです。マスコミがよく使う言葉で言えば、先行き不透明というやつです。不透明だけれど、どちらかに決めなければならない。「あれか、これか」の選択をしながら生きているのです。仕事上のことにしてもそうでしょう。仕事上、何かの決定をしなければならないことは、数多くあったはずです。その時、あなたはどうしたでしょう。よりリスクの少ない方に賭けたはずです。それがうまくいったから、今の地位を保つことができたのだろうし、その後も、リスクを避けながら生きてきたからこそ、いい退職ができたのだと思う。もしも、リスクが少ないと考えて選択したことが、うまくいかなかったら、あなたはその時点で失敗し、失敗が大きかったなら会社を辞めるはめになっていたかもしれないのです。このように人生振り返ってみると、私たちはあらゆる時点で、どちらかに賭けながら生きています。まさにタイト・ロープな人生だったのです。ただ若い時には、そのことにあまり気づかないものなのです。リスクの大きな賭け、それが人生だったのです。うまくいく時には、トップにまでなれるけれども、失敗すれば、ホームレスにさえなりかねない。これが私たちの実人生です。
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どうですか? 読む気しますか? これ。何か上から目線で「読んでみろよ」という気がしますよね。これが、段落がない文章なんですね。でもこれ、昔の本にはよくありました。
A 段落がつくと
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私たちは、日常的に賭けをしながら、生活しているといえます。大学を選ぶのも、また、就職するのも、一つの賭けです。先行き、絶対にうまくいくとは限らない。一流大学や大企業に入れたからといって、すべてうまくいくとは限りません。そのことは、シニアになって退職した人なら、実感としてわかっているはずです。
せっかく一流企業に入ったのに、トップにまで上り詰める人もいる。でもその結果については 就職する時点では、全く白紙だったはずです。マスコミがよく使う言葉で言えば、先行き不透明というやつです。不透明だけれど、どちらかに決めなければならない。「あれか、これか」の選択をしながら生きているのです。
仕事上のことにしてもそうでしょう。仕事上、何かの決定をしなければならないことは、数多くあったはずです。その時、あなたはどうしたでしょう。よりリスクの少ない方に賭けたはずです。それがうまくいったから、今の地位を保つことができたのだろうし、その後も、リスクを避けながら生きてきたからこそ、いい退職ができたのだと思う。
もしも、リスクが少ないと考えて選択したことが、うまくいかなかったら、あなたはその時点で失敗し、失敗が大きかったなら、会社を辞めるはめになっていたかもしれないのです。このように人生振り返ってみると、私たちはあらゆる時点で、どちらかにかけながら生きています。まさにタイト・ロープな人生だったのです。
ただ若い時には、そのことにあまり気づかないものなのです。リスクの大きな賭け、それが人生だったのです。うまくいく時には、トップにまでなれるけれども、失敗すれば、ホームレスにさえなりかねない。これが私たちの実人生です。
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段落なしより読む気がしますよね。当然読みやすくなります。これだと、6ブロック読めばいいんだ、となります。
最近は、段落を多くつけるようになってきています。2行とか3行とか。とくに実用書に多いですよね。
時代の流れが早いですから、早く読みたい、というのがあって、段落を多くする、という傾向があるように思います。段落は、読むスピードを加速する働きがあるのです。
B 読点が多すぎる。読点がない
『大辞林』を引くと読点とは、意味の切れ目を示すため、文中に施す「、」符号、となっています。下記は読点が多すぎる例。読んでみると先に進みたいのに、無理やりとめられてしまう感じをもちます。しかし、見方をかえると力強い印象を受けます。
B 読点が多すぎる例
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このように、人生を、振り返ってみると、私たちは、あらゆる時点で、どちらかに、かけながら、生きています。まさに、タイト・ロープな、人生だったのです。ただ、若い時には、 そのことに、あまり、気づかないものなのです。リスクの大きな賭け、それが、人生だったのです。うまくいく時には、トップまで、なれるけれども、失敗すれば、ホームレスにさえ、なりかねない。これが、私たちの、実人生です。
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B 読点がない例
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このように人生を振り返ってみると私たちはあらゆる時点でどちらかにかけながら生きています。まさにタイトロープな人生だったのです。ただ若い時にはそのことにあまり気づかないものなのです。リスクの大きな賭けそれが人生だったのです。うまくいくときにはトップまでなれるけれども失敗すればホームレスにさえなりかねない。これが私たちの実人生です
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読点がないと、 どこで息継ぎをするのだろう、と思ってしまいますね。ちょっと息継ぎが苦しいです。極端な二つの例を読んでみるとおわかりだと思いますが、「読点は、文章のリズムを作っている」ということなんです
リズムというのは、文章の中ではすごく大事な要素です。その要素の中の一つに、読点がある、ということだと思ってください。
文章のリズムの話になったので、ちょっと余談です。僕は映画が好きでよく見るのですが、2000年の映画、今から18年前になりますが「小説家を見つけたら」という映画がありました。大好きなガス・ヴァン・サント監督の作品なんですが、どういう映画かというと、ショーン・コネリー主演で、この人は1960年代の「007」に出演していた人です。ウィリアム・フォレスターという作家の役で、彼は一作だけ傑作を書き、それから隠遁生活をしてしまうんです。そこに黒人の16歳の天才少年が、フォレスターさんの家に泥棒に入り見つかってしまうんですが、あわてて逃げる時、リュックサックを忘れてしまう。フォレスターさんが家の窓の下で少年がバスケットしているのを見つけて、そのリュックサックを投げて返してやる。少年がリュックサックを開けてみると、自分がずっと書き留めていた小説の構想ノート10冊が真っ赤に添削されていた。その辺りから作家と天才少年の出会いがあって、師弟関係になります。
ここからが問題で、フォレスターさんが少年に文章の書き方を教えるシーンがあります。僕はずっと、「スピードよく書け。後は推敲をしっかりしろ」と覚えていたんですが、本日の講演の前にもう一度見直しましたら、こういうセリフだったんです。
いい文章の書き方は、「考えずに、ハートで書け。リライトは頭を使う」。
映像は、フォレスターさんがタイピング、めちゃめちゃ早く打っているところでした。
ちょっと変化して覚えちゃったんですけど、やはり一番初めに原稿を書く時にはスピードが大事と思います。思いついた言葉をキーボードに打ち込んで、その後にゆっくりと推敲する。これは原稿を書くときの基本だな、と僕は思っていて、そういうふうにしています。
推敲の仕方なんですが、漬物と同じで、書き上がった原稿は、必ず一晩寝かせる。すごく大事で、書いている時って頭がヒートしているんです。客観性を失っている。頭に浮かんだ言葉を拾うように書いているんです。ストーリーが弱かったり、どこか飛んでいたりするんです。書くことに集中しているので。一晩寝かすと脳みそがスーッと冷えて、昨日自分が書いた原稿が客観的に見えてくる。同じことを言っているとか、早く書いて、一晩寝かせて、ゆっくり推敲する。フォレスターさんも言っているので、間違いないと思います。ちょっと前に電通のコピーライターの人が出した本でも、全く同じことを書いていました。やはり脳の機能からみても、このやり方は、当たっているなと思います。僕は今でもやっていることです。
C ひらがなだけで書かれている例
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わたしたちは、にちじょうてきにかけをしながら、せいかつしているといえます。だいがくをえらぶのも、また、しゅうしょくするのも、ひとつのかけです。さきゆき、うまくいくとはかぎらない。いちりゅうだいがくやだいきぎょうにはいれたからといって、すべてがうまくいくとはかぎりません。
そのことはシニアになってたいしょくした人なら、じっかんとしてわかっているはずです。せっかくいちりゅうきぎょうにはいったのに、そのご、おちめのじんせいをすごすひともいれば とっぷにまでのぼりつめる人もいる。でもそのけっかについては、しゅうしょくするじてんでは まったくはくしだったはずです。
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元々ひらがなというのは、昔、漢字は男性が使うもので、女性は漢字を使えなかったということから、漢字が女性が使うように変化して、ひらがなになっていったという、そういうことらしいです。確かにひらがなは柔らかい感じがあります。
D カタカナだけで書かれている例
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ワタシタチハ、ニチジョウテキニカケヲシナガラ、セイカツシテイルトイエマス。ダイガクヲエラブノモ、マタ、シュウショクスルノモ、ヒトツノカケデス。サキユキ、ウマクイクトハカギラナイ。イチリュウダイガクヤダイキギョウニハイレタカラトイッテ、スベテガウマクイクトハカギリマセン。
ソノコトハ、シニアニナッテタイショクシタヒトナラ、ジッカントシテワカッテイルハズデス。セッカクイチリュウキギョウニハイッタノニ、ソノゴ、オチメノジンセイヲスゴスヒトモイレバ トップニマデノボリツメルヒトモイル。デモソノケッカニツイテハ、シュウショクスルジテンデハ マッタクハクシダッタハズデス。
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ハングル文字のような感じがしますよね。不思議に思うかもしれないけれども、英語とか韓国の言葉とかほとんどの国というのが、単一の文字なんです。日本のように、漢字があって、ひらがながあって、カタカナが入って、中には数字も入ってくる、三つの言葉が混在している言語というのはたぶん日本だけ。非常に複雑な言葉だと思います。漢字にも音読みがあったり訓読みがあったりします。たまに外国人がペラペラと日本語を喋っているのを見るとびっくりしますね。すごいなと思います。では、外国語と比べて、日本語の大きな特性は何かというと、
「日本語はどの国の言語よりも文字のビジュアル表現が豊かである!」
これはカバーや帯を作る時の すごい武器になるんです。この効力を最大限に使えるのがカバーや帯の原稿であり、デザインなんです。洋書とか見たことあるでしょうか。すごくシンプルですよね。
改めて日本語の特性というものを考えて、ビジュアル的にカバーや帯を考えてみると、面白いものができると思います。
○読みやすい原稿②「内容」
「ビジュアル」の次として、「内容」から読みづらい原稿とは何かを見てみます。
・E コンセプトに関係のない記述が多い
・F 言い回しが回りくどく、わかりづらい
・G メリハリがなく、面白みが伝わりづらい
E コンセプトに関係ない記述が多い
著者は知識を持っていますから、発注の仕方、頼み方を間違えると、こちらが求めているものではない引き出しから、どんどん、いろんな知識が出てくるということが起こります。もし、そういう原稿があった時には、直す時すごく大変です。修正をお願いするのも大変だし、非常にリライトに苦労します。何が原因でこうなったかというと、これだと思います。
「企画趣旨が曖昧なまま著者に原稿を発注しない!」
何か面白いものを書いてくださいよ、という頼み方だと、こういうことになりかねない。頼む時は、しっかりと企画趣旨を明確にした方がよいでしょう。
どうすれば明確になるかということですが、サンマーク出版の黒川精一さんという方のやり方が参考になると思います。何冊もミリオンセラーを出されていて、代表作に『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』、『どんなに体が硬い人でもベターッと開脚できるようになる』などがありますね。長いタイトルですが、こういう本がベストセラーになっています。
この人がどういうふうに著者に企画を発注するのか、レポートで書いてあったんですが、まず最初に、著者に会って結構、時間をかけて話をします、というふうに言っていました。その後、どのようにするかですが、彼は、原稿を発注する前(!)に、カバーラフを出すんですって。こういうふうにやりたいな、と。こういう感じだったらサイズはAB判かなとか、タイトルはこんな感じかな、著者の写真が入るかな、イラストでいいのかな、というふうに、ビジュアルラフを作るんですって。本当にそんな感じでいいのか、自分の中で検証して、発注していくのだそうです。
僕も考えがまとまらず、あやふやな部分がある時、ラフコンテを書いたりします。そうすると、詰まっていないところが見えてきます。結構、曖昧なところが見えてきます。鉛筆のラフを起こして形に起こそうとした時に、起こせないものが出てくるんですが、たぶんそれが詰まってないところ。自分の考えをまとめる上で、一つの方法かなと思います。一度、実践なさってみるといいと思います。
F 言い回しが回りくどく分かりづらい
たまに長い原稿を書いていると、途中で一休みしたりして、著者の方も忘れちゃったりするんですね。Aの話を書いて→Bの話になって→Aの話になって→Cの話になる。
Aの話だけひとつにまとめましょう、とか著者に伝えます。
G メリハリが少なく 面白みが伝わりづらい
・小見出しを入れる
・キーワードを太文字にして強調する
・大事なフレーズの前後を1ラインずつ開ける
小見出しは最終的には目次になりますので、結構大事な要素になります。
こうしたテクニックで、メリハリをつけると、読みやすくなります。
いい原稿を書くためには
読みやすい原稿にするためのアプローチとして、読みづらい原稿についてお話してきました。次は、いい原稿を書くためにはどうすればいいか、です。
みなさんも自分で原稿を書くと思います。いい原稿を書くマニュアルがあれば苦労はないわけで、どうしたら、原稿がうまくなっていくのか、このへんは、僕の体験になりますが、かつて、「週刊SPA!」に入った時、タイトルが大事で、ハードルが高かった。そして雑誌では、必ず太い文字で小リードという150~200の文字が入ります。当時、入社したばかりで、かつ雑誌を作った経験がなく、タイトルはもちろん、小リードの書き方もわからなくて、短い原稿なのに3~4時間かかるんですね。苦労して書き上げたタイトルと小リードを編集長に持っていくと、10分くらいで赤を入れて返してくる。それが悔しいのですが、よくなっている。「ああ、こういうことか、こういう言葉を使えばいいんだ」と。それがすごく勉強になりましたね。何を言いたいかと言うと、一番の近道は、
「自分より文章がうまい人に添削してもらう」
こういう人に巡りあえたら、僥倖だと思います。自分の職場に、この人は文章うまいなあ、という人がいたら、ぜひ、部署が違っても近づいて添削してもらうといいと思います。
まだそういう人はちょっといないな、という場合は、これも黒川さんを参考にさせてもらいましたが、彼は、これを実践しました。
「いい原稿を、写し取る」
大阪に藤本義一さんという、すでに亡くなられた作家がいらして、彼が作家のたまごの時、何をしていたかというと、ただひたすら、いい原稿を、原稿用紙に写し取っていた、というんですね。ワープロもない時代で、万年筆で原稿用紙に書くという時代でした。
文章を勉強するうえでは、すごく役に立つと、ぼくも思います。
黒川さんですが、彼がどんなものを参考にしていたか、というと、レポートに書かれていて、感心したのですが、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」が大好きだということで、その仕事の流儀のナレーションを書き起こしたりするんですって。どんなものなのかをご紹介します。東京メトロの筋屋さんの話でしたが、その前に、筋屋さんというのを説明しますと、日本の鉄道ってすごく緻密にできているんですね。なぜ、筋屋さんかというと、ダイヤを紙に鉛筆で線を引いて、いろいろな線の運行時間を見渡して、もっとも効率よく各電車が駅に入るようにエンピツで発着時間を書き込んでいく、そういう仕事らしいんです。紙に線を引くので筋屋さんという。そういう人を取り上げたわけです。
普通に言うと、「東京メトロの筋屋さんがテーマの話です」となって、「ああそうですか」となります。ところが、番組のイントロに、すごいナレーションを出すんです。これは、たしかに書き写したくなります。
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「彼はここ2年の東西線のダイヤ改正の際、朝ラッシュ時間帯の全ての電車に乗り、全ての駅の状況を把握し。現場の実際を克明に記録し、それに合わせて各列車の駅での停車時間を5秒単位で振り分けし直したのだ。その結果、朝ラッシュ時間帯の慢性的な遅延は半分以下になり、遅れに対する客の苦情も十分の一に減った。彼のダイヤはこうした徹底した現場主義から生まれた」
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すごいと思います。わくわくして、チャンネル変えたりしないですよね。なんでこんなに魅力的なのか。内容が短く、具体的な数字があり、文章に無駄がなく、かつリズムがシャープ。映像が浮かんでくるんです。こういうのが書けたら、一人前だと思います。
この文章を読むと、筋屋さんが真剣な顔をして、鉛筆とメモ用紙を持って満員電車を走り回っている映像が浮かんできます。いい文章だと思います。
これは番組のナレーションの文章です。すごいところは、結果だけしか書いていないんです。例えば、苦情が十分の一になったとか、こういう展開がありましたとしか書いてないんです。ではどうしてこういうことができたのか、ということは、どうぞ番組を見てくださいというふうになっているのです。うまいですよね。これがイントロダクションです。
ここから本の話になってくるんですが、この Introduction にあたるものが、じつは本で言うフロント部分になるんです。このフロント部分がすごく大事で、本にとって、とても大事な要素になってきます。
「本のフロント部分で、書籍のイメージは全く違ったものになる」
本のフロント部分というのはどこを指すか、ですが、僕はこう思っています。
「書籍のイメージを決めるフロント部分とは、カバーと帯・目次・はじめに」
この出来、不出来で、ガラッと違ってしまいます。
本を買う時に必ずぼくはここを見ます。ぼくはまず本を手に取ったら、目次を見ますね。なぜかと言うと、先ほどの話に戻りますが、小見出しが重要だと言いましたが、目次は小出しの集合体なんですね。
章タイトルがあって、見出しがあって、1章、2章、3章……と本の流れが、目次を見れば一目瞭然です。この本の内容がつかめるし、面白いかな、どうかな、というのがなんとなく匂います。その匂いを醸し出すのが小見出しだと思っています。
「はじめに」、というところも読みますが、著者も気を使って書いているところです。著者がこの本をどういう気持ちで書いたのか、誰に向かって書いたのか、が書かれているんです。これを読むと、自分に合っている本かどうか分かります。
目次を形作る小見出しは非常に重要です。
僕も本を作る時は小見出しに関しては、かなり集中して作ります。内容を分かってもらうために、長くなってしまったりするんですが、かなり神経を使う部分です。
タイトルと帯の大切さ
タイトルと帯に関して、なぜいちばん最後に持ってきたかというと、今まで、原稿整理の話をしてきましたが、その知識を総動員して作っていくものだと思うからです。
「タイトルと帯こそ、原稿整理の知識を総動員して作るもの」
タイトル&帯をつくるポイントは、以下の三点だと思います。
①本のコンセプトを的確に表現する
どのジャンルで、どのような趣旨なのか、ということがはっきりしないと、本屋さんで困ります。一応、書籍を分類するCコードというのがありますが、はっきりしてないところもあるので、タイトルをみて、この本はどういう本なのか、どの棚に置かれるのか、明確に示すタイトルがいいかなと思います。たまにこの本はどの棚に置かれるの? と販売に聞かれて、言えない時があります。漫画なのか、エッセイなのか、とか。大体こういう本は売れないですね。本屋さんが置き場所に混乱するようなタイトルの本は。また、販売部から置き場所がわからないという意見が出たタイトルは、やはり避けた方がいいと思います。
②日本語特有のビジュアルを駆使する
ほとんどの国は、日本語ではカタカナだったりひらがなだったりする表音文字でできています。漢字、カタカナ、ローマ字、数字など混在している日本語は、これを使わない手はないと思います。カバーとか帯とかの出来で、売れ行きが変わるところがありますから、先ほど申し上げたビジュアルというのは、その効果というか、使い方を効果的に使ったらよろしいかなと思います。
③わかりやすく、インパクトある言葉の選択
皆さん、本屋さんに行くとわかると思いますが、本を探す時、歩きながら本を見ます。一冊に目が止まる時間はどのくらいだと思いますか? ぼくは1秒だと思います。ぼくらがあれだけ一生懸命作って、読者の目に留まる時間はわずか1秒、しかし、人間の脳ってすごくて、1秒でも引っかかるものがあると止まるんです。たった1秒でも、たった1秒間で、脳に信号を送らせる言葉、ビジュアルが大事なのです。勝負は1秒です。1秒の時間の中にピンと引っかかる言葉遣い、言葉が大事かなと思います。もちろん書評とかアマゾンとか見て、指名買いをしてくれるお客さんもいますけれど、やはり書店の中で目に留まって買ってくれるのは大事です。短ければいいのではなくて、インパクトがある言葉です。タイトルとカバーと帯の役割ですね。
デザインの話になりますが、人間の特性の話をすると、
「人間の目は、二つを同時に見ることはできない」
例えばカバーの場合、ちょっと想像してもらいたいのですが、タイトルと帯の文字が同じ大きさ、同じポイントの時に、どっちを見ますか? 迷いますね。迷ったら読者は、面倒くさいなあと思ってしまいます。面倒くさいなあと思われたら、もう1秒は過ぎています。
1秒、2秒の世界の中で、必ずここを見て欲しい、その次はここを見て、と、見るものをちゃんと順番付けてレイアウトして見させなければならない。二つのものを同時に見られないからです。迷った瞬間、面倒くさくなって時間は3秒経っているんです。もうその本は頭に残らない。必ず迷わずにちゃんと目を止めさせる作りというのは大事だし、今でもデザイナーと打ち合わせする時、必ずそこを基点にしています。
どういうタイトルがいいのか、これは苦労します。24時間考えますが、その中で、気を付けていることがあり、ここに向かって作っています。
「自分のためにこの本がある、と読者に思わせる」
これを、結構タイトルをつける時、いつも考えます。これは自分のために書かれた本ではないか、と思わせるタイトルを気にして作っています。
では、そう思わせるタイトルはどういうものかと言うと、参考までに黒川さんが作られたタイトルを出してみました。
「専門医が教える ふくらはぎ健康法」
「長生きしたけりゃ ふくらはぎをもみなさい」
どっちのタイトルがいいですか? そう、下のタイトルですね。
誰に読ませたいのかというのと、どうすればいいのか、というのがタイトルの中に入っています。すばらしいです。長生きしたい人は、ピンときますよね。どうすればいいのかというのは、「もめばいいんだ」とわかる。
先ほどの黒川さんですが、ここまでたどり着くのに、どれだけ苦労したか、発注する前に、ラフコンテを作って、その段階からどういうタイトルにするか準備していたということですね。原稿ができてからタイトルを作るのは、もう遅いんですね。
そこまでしないと、これだけのいいタイトルが浮かんでこないと思います。作り方としてはタイトルに関しては、こういうものにしたいというものが頭の中にあって、それがあるからこそ、最終的にこういうタイトルに持ってこれたんだと思います。すごく大事なこと。
本を発注する段階からこういうものにしたいというビジョンが、主旨が明確にあるから、最終的に集約されていくのだと思います。
しかし、こういうふうにうまく行く場合と当然うまくいかない場合もあります。では、どうやっていいタイトルを作っていくのかなんですけれど、
「数は力」
これは、珠玉の1本を考えるのではなくて、ダサいなぁと思えるものでも30本、50本、タイトル案を出します。似たようなタイトルを数いっぱい出します。
すると、その中で引っかかってくる言葉が出てきます。数をたくさん出してくる本、共通して引っかかる言葉が浮かんできます.こことここ、引っかかるなと。それをつなぎ合わせていくスタイルを、僕はとっています。いいタイトルを1本だけひねりだそうと思わないで、とにかく数を出す。すると、死んでいくものと生き残っていくものが出てきます。これかな、というものに集約されていく。
「数は力」ということですが、タイトルだけに限らず全てに言えることで、ずっと話をしてきました原稿整理するための、読みやすい原稿を書くテクニックも大事なのですが、じつは自分の体の中に、いろんなコンテンツを蓄えていくことが、すごく大事であると思います。
いろいろなコンテンツを蓄えるというのはどういうことかと言うと、昔から言われていることですが、いっぱい本を読むとか、映画を見るとか、いっぱいお芝居を見るとか、音楽をいっぱい聞くとか、制作者は物を作るのにすごく苦労しますね。制作者が苦労して作ったコンテンツを自分の嗜好に合ったもので、映画が面白いな、音楽がいいな、お芝居面白いな、これをいっぱい体の中に蓄えていくことが大事だと思います。
これは長い蓄積の中でのことで、お芝居10本見たから本を100冊読んだから、どうとかいうことではない。日々の変化など分かりません。ただ5年10年続いていくと、知らないうちに自分の中に蓄積されていくんですね。見たり聞いたりしたものが、「数の力」でいっぱいそういうものを体の中に吸収していくことが、じつはいい原稿を書くとか、いい原稿整理をするとか、すごく大事な、ベーシックなものになってくると思います。テクニックも大事ですが、その裏にあるいろんなコンテンツを自分の体の中に入れ込んでいる、吸収していることは、いろんなところで、最後は助けてくれる、というふうに僕は思っています。
いろいろお話してきましたが、僕の経験が何か皆さんに一つでも引っ掛かれば 本作りにお役に立てればいいなと思います(了)。
(平成30年6月28日(木)AJEC編集講座での講演より)