今回は、普段、接することが少ない印刷・製本の基礎技術を紹介。同時に、クライアント、クリエイティブ、製造の各分野の実技者間での「カラーコミュニケーション」の基礎技術、光源環境の重要性について、実演を交えて解説していただきました。
青野友寿氏は、大日本印刷株式会社で23年以上も出版印刷に携わってきた大ベテランです。印刷のお話は、専門用語が多く混じり、なかなか一般素人では理解できないお話ですが、色の話、分解の話、紙の話、3種類の印刷方式の話、そして製本のお話など、本が出来るまでの一連の流れの中でのポイントについて、わかりやすく説明していただきました。
そのお話のなかでのポイントをいくつか紹介します。
色の話について
「色ってなんだろうと思いますか? 印刷物は光りませんね、色は光なんです。では光らない印刷物はどうやって色を出すのでしょうか。それは、太陽光などの光を反射して色を出すのです。基本的に黄、赤、藍の3つの色があると、すべての色は再現出来ます。黄は補色がブルー、赤の補色がグリーン、藍の補色はレッド、ということで、シアン(藍)、マゼンダ(赤)、イエロー(黄)が印刷の3原色になります。なぜ補色(反対色)かというと、印刷物は光らないで、受けた光を跳ね返すので、ちょうど補色関係にあるのが原色になる、ということです。ただ印刷ではメリハリを出したいので、押さえとして、スミ(墨)を入れます。だから、印刷は4原色という言い方をします。
また、色の濃淡は、アミ点の大小で表現します。ちょっと難しいですが、アミ点の集合で濃淡を表しますから、点の配列が破綻しますとシマシマが出てしまうということになるのです」
紙の重要性について
「紙になぜこだわるかといいますと、紙によって色は相当思いっきり変わってくるからです。コート紙などのテカテカする紙のほうが、色の制限範囲が広いから、鮮やかな色が出せます。濁ったものから鮮やかな色は作れないですが、鮮やかに出来るものを濁らすには簡単です。反対色を入れてしまえばよいのですから。いちばんきれいに色として、たくさん再現できるのはコート紙系の紙です。そのほかは紙が縮んだりして色が影響を受けやすいようです。黄色は影響を受けにくいですが、赤や緑は特に影響を受けやすいです」
3種類の印刷方式―活版・オフセット・グラビア印刷
「出っ張ったところにインクをつけるのが、活版。
それに対してオフセット印刷は、平たいところ(インクが乗りやすいところとインクをはじくところ)に、あらかじめインクがついては嫌なところに水を塗って、それからインクを載せてすぐ印刷するのです。これがオフセット印刷です。
またそんなところにインクを載せて、すぐ紙にぐっと押し付けるのがグラビア印刷です。
グラビア印刷は、へこんでいるところにインクを盛って印刷するといった違いがあります。特徴を比べると、活版印刷はカラー物は基本的には扱いません。グラビア印刷は、へこんでいるところにたくさんインクを載せられるので、画像のインパクトを出しやすいですが、細かい再現などは不得手なので、オフセット印刷が向いています。また、いろいろな紙を使えるという点もオフセット印刷が向いていますね」
「最近はオフセット印刷がフルカラーの主流なので、もう少し詳しく話しますと、4色オフセットの場合、スミ、アイ、アカ、キの順で刷るのが普通です。逆刷りといわれています。グラビア印刷だとその逆で、キ、アカ、アイ、スミとなり、正刷りといわれています。なぜその順番かというと、インクのノリが少ない順に刷るのがオフセット。なぜかというとインクは紙の上だとのりやすい。半分ぬれているところにインクをつけると100パーセントはつかないので、なるべく紙が露出しているところから刷ってしまおうというのが、オフセットの刷り順を決めた理由といわれています」
製本のお話
「雑誌の話で言いますと、無線綴じと中綴じという二つの方法があります。書籍なら、かがり綴じとか上製本などがありますが、大きく分けるとホチキスでとまっているものと、背が平らなものと二つに分けられると思います。中綴じの場合、刷り本の真ん中のページからどんどん重ねて置いていき、最後に表紙を載せてホチキスでとめるわけです。無線綴じは、背が平らなもので厚いものが多いです。これは、端っこのページの先頭か、もしくは本の後ろから重ねていく。重ね終わったら、表紙を持ってきてくっつけ、ここにノリをつけるわけです。そしてたたんで、余計なところを切り落として出来上がります」
光源環境の重要性
「印刷物は自分では光りません、光の影響を受けて色が変わりますとお話ししましたが、だから元の照明がすごく重要になるのです。一番理想的なのは、太陽の光、昼間の光ですね。ところが普段、色校正をするとたいていが蛍光灯の下で校正することになります。光源が印刷所と校正する場所で違っていたら、正しい意思の疎通が行われませんね。特にみなさんが多くの場所で使っている蛍光灯は三波長蛍光灯といいますが、これはプロの目からいうと最悪の光源になります。白色灯等も、赤いところが見えなくなり適しません。ですので、ひとつの色を決めようとしたら、たとえば印刷会社さんと出版社さんとの間では同じ土俵で語るということをしていかないと、精密な議論が出来ないということになりますね。ルールを決めて色校正をすることが大事になってくるのです」
〈実験観察〉
最後に、光源によって、印刷物などがどういう見え方をするか、実験によって確かめてみました。受講者が10名ずつになって、光源とその当たり具合によって印刷物がどんな風に見えるか実験してみました。
実際に実験に参加して見ると、同じような蛍光灯の元でもこんなにも色の見え方が違うのかとはっきりわかり、みんなびっくり!
印刷の奥の深さを少し垣間見ることが出来た講演でした。
(平成29年2月23日(木)AJEC編集講座での講演より)