株式会社ヤッパ 代表取締役社長 伊藤 正裕 MASAHIRO ITO 1983年東京生まれ。16歳の時にiモードを使ったマーケティングの手法を開発し、自ら営業を始める。17歳でヤッパを設立。イスラエルの3Di社と提携(その後買収)し、3D画像の制作で事業を軌道に乗せる。2004年に第29回経済界大賞「青年経営者賞」を受賞。2008年、産経新聞iPhone版を開発し、話題を呼ぶ。以降、電子出版を語るには欠かせないキーマンとして業界内外から注目を集める若手経営者である。 |
さて、電子出版元年、「すわ、黒船来襲!」ということで、出版界は蜂の巣を突いたような騒ぎになっていますが、そこで行われているのは、紙はなくなるのかとか、出版社は、取次は、書店はどうなるんだ、はては編集プロダクションはどうなるんだというような表層的な議論ばかりです。今大切なのは、そうした枝葉末節の議論ではなく、新たなデバイスの登場によってもたらされるコンテンツ表現の可能性についての議論であり、編集の本質とは何なのかというような議論だろうと思うのですが、そのあたりはいかがですか?
それを考えるためには、まず一歩引いて、メディアの現状を俯瞰してみることが大切です。そうした視点に立ってみると、現在は、情報そのものが供給過剰状態だということがわかります。一つのニュースがTV、新聞、雑誌、ブログ、ツイッター、それからミクシィを初めとしたSNSやWebサイトを経由して流されているわけですが、それらの情報経路がストリームライン化していくというのが正しいと思います。
iPadの登場で紙が減るということは否定できませんが、なくなるということは絶対ないですし、同時に紙に対する変化と同じくらいの変化がほかのメディア、Webサイトやブログに起こります。
要するに、供給のプラットフォームが一つ増えていても、1日24時間は変わらないわけですから、人は何かしら見なくなっていくんですね。
もう一つ、この紙という垣根が取り払われることによって、今までにはないメディアの統合が起こると思います。これはテレビ業界の変化のほうが大きいと思います。要するに同じ情報を伝えるには、映像や音声、また活字という切り口を今まではインフラによって、使い分けていました。しかし、紙の電子化で出版社は伝える手段が増えるわけです。ですから、我々が考えるには、新聞、雑誌、テレビ、ラジオがグワーッと電子出版に、混ざっていくんではないかと思います。それが2、3年、あるいは5年くらいかかるかもしれません。でも、その元年が今年であるのは間違いありません。
電子出版に既存のメディアが混ざっていくとおっしゃいましたが、紙媒体が電子化されるにあたって、一番重要なことはなんだとお考えですか?
そのインターフェースをつくっている私たちヤッパとしては、「紙の良いところを引き継ぐ」ということが、ものすごく重要だと考えています。紙メディアにしかない、大きな特長というのがあって、それは何かというと「編集力」なんです。ユーザーの評価が高いのは、編集期限や情報の格差のある新聞や雑誌ですね。
今、我々がお手伝いしている、電通さんとの「マガストア」だったり、「産経新聞」の電子版、楽天ブックスなども共通して、ウケが良いものというのは、そうした「編集力」があるものです。
インターネットは垂れ流しの情報しかないので、いつ見ても最新です。これは、良いことでもあるんですが、でも、ユーザーは必ずしもそれを求めてはいない。ユーザーは編集された雑誌や、新聞の一面のような、みんなが知っているニュースのように、情報の格差を求めているんです。
たとえば、我々がお手伝いしている産経新聞でいうと、ただ、紙面がそのまま出てくるだけで、編集者からすれば工夫はしてないといわれるかもしれませんが、そこに価値があるんですね。新聞は締め切りがあって、その日に集められたニュースのなかで一番大事なニュースは「コレ」と、格差をつけているんです。一番大事なニュースが一面に登場して、重要度が低いものが、二〇面に掲載されたりします。その情報の格差を利用者は求めているんだと思います。雑誌も同じですよね。一カ月のなかで、この巻頭特集が一番大事であるというのは変わらないんですね。一方で、インターネットでは今日の一面というものが、存在しません。
ですから、電子出版のインターフェースは紙の良さと、インターネットや映像メディアの良さを引き継いで、それをマッシュアップ*1していくことが、私たちヤッパの価値(使命)だと思っております。
*1マッシュアップ
もともとは音楽用語。クラブでDJがいくつかの曲を交ぜて新しい曲をつくり上げることを意味する。それが、IT用語にもつかわれ、複数のアプリケーションを組み合わせて新しいサービスをつくるという意味になっている。