スポンサーが自衛隊だからこそ、型破りな広報誌が成立したんですね。普通じゃなかなか難しい。
本当にそう思います。実際、「MAMOR」に類似した企画依頼が何件かありましたが、なかなか成立できていませんから。従来の型を破ろうと思ったら何があってもぶれない信念と、批判を引き受ける覚悟が必要です。そういう意味で彼らには強い信念と覚悟がある。だから信頼しているんです。
特にカスタム出版はスポンサーとの信頼関係が重要ですよね。そのために工夫されていることはありますか?
一般雑誌の場合もタイアップ記事とかはあるわけで、カスタム出版だからという特別な線引きがあるわけではありませんが、30年以上雑誌編集をやってきて感じるのは、編集者には二つのタイプがあるということ。純粋に編集しかできない人と、広告や広報宣伝まで含めた編集制作業務ができる人がいて、僕は後者の能力のほうがあったんだと思います。一般雑誌の場合は書店の売上げ部数と広告収入の両輪で成立しているんで、編集者は著作者を守り、スポンサーを守るのは広告営業部という関係がある。だから、両者は、時に喧嘩になることもありますよね。けれどもカスタム出版の場合はスポンサー対応も自分でやらなきゃならないので、その一人二役を僕の頭の中でやっている感じですね。常に葛藤ですよ。おこがましいですけど、そういう意味ではある程度経験値がある人じゃないとカスタム出版はできないんじゃないかな。
確かにどちらの立場もわかってないと二役を演じ分けられないですよね。
そうですね。たとえば、記事の書き手がとてもユニークな着眼点で、鋭い切り口のレポートを書いてきたとします。だけど、これはもしかしたら問題発言に該当すると思われるかも知れない。法的には問題表現じゃなくても、読者にそう思われたらスポンサーのイメージに傷がつく。そういう時の掲載可否の判断にマニュアルはない。その時々でいろいろな壁にぶつかり、経験を積み重ねていくことでしか的確な判断が下せるようにはならないんです。そのためには、常に頭の中で二人の自分を闘わせる訓練が必要です。まぁ、そうは言っても僕はやっぱり編集者なんで作品を守りたい。だから、ギリギリのラインまで考えて考え抜いて、これなら大丈夫だろうというのをひたすらやっているという感じですね。
なるほど。「MAMOR」が話題になる理由がよくわかりました。最後に長年編集をやってこられた高久さんだからこそ伺いたいんですが、編集者に必要な資質って何だと思われますか?
僕は主婦向けから「週刊SPA!」みたいな若い男性の雑誌や専門誌、ファッション誌などを30年弱経験してきたんですが、会社員だから当然異動もあって、正直言うと自分の趣味ではない雑誌もありました。だけど、どんなことでも好きになれる資質が自分の中にあるのでどこに行っても楽しかったし、面白かった。どんなことでも好きになれるってことが大事なんじゃないかな。あとは自分が作ったものを客観的に見る読者目線が大事。たとえば「MAMOR」をやればやるほど、僕は自衛隊が好きになっていくんだけれど、あまり入れ込んでしまうと読者目線から離れてしまう。だから、時々立ち止まって離れてみる。男女の関係で言うと、あんまりのめり込んじゃうと相手が見えなくなっちゃうじゃないですか。編集者はどんな人でも好きなところを見つけて相手に惚れ抜かないといけないんだけれど、それだけではダメで、惚れ抜くんだけど客観的に冷静に見る視点も必要。これは雑誌の編集だけじゃなくて、クリエイティブな世界はすべて同じじゃないかな。特にカスタム出版の場合は、客観的に見る視点が大事だよね。自分の好きな部分も引かなきゃいけないかもしれないし、時には相手に引かせなきゃいけないこともある。そういう意味では大人の恋愛に近いかな(笑)。