PROFILE
2009年に代表ミタヒツヒト(シナリオ担当)と斑(イラスト担当)の2人で結成。当初は同人誌即売会、通称コミックマーケット(略称:コミケ)でデジタルノベルを発売するが鳴かず飛ばず。2010年、山本すずめ(イラストデザイン担当)が加入。2011年にミタが質の高い文章能力を持つ佐々木ケイをスカウトした。この4人の総力戦で作り上げたのが、スマートフォン向けのアプリ『ヴァンパイアハンターHIROSHI ~Around the Clock Show!~』。2011年にリリースして昨年一気にブレイク。途中、メンバーの増減はあるものの、現在はミタと山本がメインで活動を行っている。ちなみに超水道という名前には、「日本は水の豊かな国であり、インフラそのものである水道をさらに強いものにしたいという想いから名付けた」というもっともらしい由来も用意されているが、本当のところはただ悪ノリで名付けただけという。 |
若干21歳の4人メンバーから構成される大学生クリエーター集団「超水道」。彼らが制作するノベルアプリは大学サークルのレベルを越えたプロ顔負けのクオリティで脚光を浴びている。書籍・ゲーム・映画・アニメ・音楽といった、どのジャンルにもとらわれない自由な発想と「自分たちが面白いと思うものをつくる」という創作スタンスで、代表作『森川空のルール』は10万ダウンロード、『ヴァンパイアハンターHIROSHI~Around the Clock Show!~』は12万ダウンロードに迫っている。現在リリースしている作品は、どれも好評のレビューがずらりと並ぶ。彼らは一体何者なのか。その素顔に迫った。
——本日は、超水道の代表ミタヒツヒトさんと山本すずめさんのおふたりからお話を伺いますが、超水道を知らない方も多いと思いますので簡単にご紹介をお願いします。
ミタヒツヒト(以下ミタ):僕らは、基本僕とすずめ君のふたりで活動をしていて、あと斑(ぶち)君と佐々木ケイ君にも協力してもらってノベルアプリをつくっています。全員1992年生まれの21歳の大学生で、僕が制作全般からシナリオを担当し、すずめ君と斑君がデザインを、ケイ君が文章を担当しています。ケイ君以外の3人は幼なじみで、ケイ君は僕が大学でスカウトして協力してもらっています。
——超水道さんがリリースしているノベルアプリを体感させていただきましたが、紙で活字を読みなれている世代にとっては、このジャンルを何と表現したらよいのか。ただ物語を活字で読ませるだけでなく、液晶画面をタップする(指先で突くこと)と文字が流れる仕掛けになっていて、所々にサウンドが挿入される。一見90年代に人気を博したスーパーファミコン用ゲーム『かまいたちの夜』のようですが、ゲーム性はありませんよね。自分たちでは作品群をどう位置けているんですか?
ミタ:一般的にはデジタルノベルとかサウンドノベルとか言われているんですけれど、定義自体が人によって微妙に異なるので一概には言えないんです。僕たちは“デンシノベル” って造語をつくってよんでいます。
——ノベルアプリをリリースして、こんなに反響があると想像していましたか?
山本すずめ(以下すずめ):全く想像していませんでした。これまでは同人誌即売会というコミックマーケット(以下コミケ)で、デジタルノベルを発表していたのですが、ほとんど注目されなかった。だから、僕ら自身も驚いています。
——なぜ、ノベルアプリで注目されるようになったのでしょうか?
ミタ:理由はふたつあって、ひとつには僕らの作品が一般の人に受け入れやすかったことと、もうひとつには初めからユーザーのことを意識してつくったことがあると思います。たとえば、コミケ市場では萌えやエロ系が強くて二次創作※1ものが売れるんですけど、僕らの作品はそういった要素はない。だから、コア層向けの作品ではなかったんです。
——ユーザーを意識したとは、具体的にはどういうことですか?
ミタ:デジタルノベルやノベルゲームを全く知らない人にも読んでほしかったので、一般の人でも操作できるように、操作説明(チュートリアル)をつけました。自分の母親でもわかるようにと。けれど、コミケにくるコア層向けの作品にはこうした操作説明ってほとんどないんですね。「なんで操作説明をつける必要があるの?」と言われるぐらい、コア層にとってはなくて当たり前のものだったんです。
——私もあって助かりました。
すずめ:よかった(笑)。あとは携帯で読むものなので、片手で操作できるようにこだわりました。たとえば、電車のなかでつり革をつかんでいても読めるようにと。だから、普通のサラリーマンの方が電車のなかで読んでくれています。エロ要素もないので周囲を気にせずに車内で読むことができるので、友だちに薦めやすかったんじゃないでしょうか。
——実際読者の反応はいかがでしたでしょうか。
すずめ:手触りがいいってよく言われます。手に馴染むと。一般的な電子書籍は、ただ捲って読むだけの味気のないものが多いと思うんですけど、それに比べて僕らのノベルアプリは文字がスーって出てきて、タップして次のページにいくみたいな手触りの良さがあるらしく一般の電子書籍とはちょっと違うみたいです。あとは「へんなノベルゲーム」とも言われています。
——へんなノベルゲーム?
ミタ:つまり、今までノベルゲームっていうのを知らない人にとってはともかく未知だし、ノベルゲームを知っている人にとっても似て非なるもの。奇異の目で見られている気がします。
——その反応は、新しいジャンルであることの証でもありますね。
すずめ:結構、手放しで新しい電子書籍だと褒めてくれる方がいらっしゃいますが、僕らがつくる作品は書籍よりもアニメや映画に近いと思っている。絵も物語も音楽もあるし、そこにアプリを操作するという体験が入ってくるので。
ミタ:タップって呼吸だよね。
すずめ:うん、呼吸だね。
ミタ:ゲームにはプレイボタンがあるじゃないですか。プレイって遊ぶって意味ですよね。デンシノベルをプレイするのはレコードの針を落とすみたいな感じに近いんです。僕らにとってタップはアナログなんですよ。だから呼吸をするような感覚で操作できるよう、操作機能にこだわった。
——なるほど、超水道さんの世代ならではの発想ですね。ちなみにはじめからデジタルで創作をされていたんでしょうか。紙という選択肢はなかった?
すずめ:そうですね。僕の場合は、自宅に自作パソコンがある環境で育ったので、パソコンゲームにハマっていましたし、小学校の頃は個人サイトがブームで、ゲームのコミュニティサイトを自分でつくって運営していた。だからデジタルという流れに違和感はありませんでした。
——根っからのパソコンゲーム世代だったんですね。ミタさんも?
ミタ:僕もそうですね。小中高とずっとやっていました。とくに絵と音楽と文章で構成されたノベルゲームは90年台後半には登場していたので、僕らにとって何も珍しい存在ではなかった。だから、僕らはノベルゲームにちょっとした憧れがあって、ノベルアプリを創作することは、僕らにとってあまりにも自然なことだったんです。あとは、そもそも紙の場合、個人で出そうとするとお金がかかりますよね。デジタルであれば、最悪CD-Rに焼けばいいだけなのでお金がかからない。CD-Rは一枚100円もしませんから。
- ※1:二次創作
- 二次創作とは一次著作物のキャラクターに別の物語を与えられて展開されるパロディのひとつ。同人誌やネットなどを中心に展開されている。