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杉並区立和田中学校前校長 東京学芸大学客員教授 藤原和博 【よのなか】科と教育の未来
藤原和博 1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。08年、橋下大阪府知事ならびに府教委の教育政策特別顧問に。著書は『人生の教科書[よのなかのルール]』『人生の教科書[人間関係]』(ちくま文庫)など人生の教科書シリーズ、『校長先生になろう!』(日経BP)、ビジネスマンの問題解決に必須の情報編集力を解説した『つなげる力』(文芸春秋社)等多数。現在、デジタル教科書に関する課題整理、実証実験、普及啓発、政策提言等を行うDiTT*1(デジタル教科書教材協議会)の副会長も務める。

この12月、2009年実施のPISA型学力のテスト*2の結果が発表され、日本の子どもたちの学力、特に読解力の低下には歯止めがかかったと言われている。しかし、フィンランド、そして中国といった新興国の著しい教育熱に、日本はこのまま対抗できるのかーー
教科書や授業の電子化が議論されるなか、日本の子どもたちの学びはどう変わっていくべきなのか。公立中学校で民間初の校長となり、公教育の改革を唱える藤原和博氏に、電子教材を交えた授業の発展性について聞いた。

情報編集力を磨く【よのなか】科

藤原先生は杉並区和田中で民間から初めて中学校校長に就任され、そのときに生み出した新しい総合授業のスタイル【よのなか】科は、今、全国に広がりつつあります。
そもそも、なぜ【よのなか】科のようなコミュニケーションスキルを磨く授業が生まれ、必要とされているのだと思いますか?

日本はバブル終焉後、高度成長の時代が終わり、98年から成熟社会に突入したといわれています。「成長社会」から「成熟社会」への移行があったわけですね。それなのに、教育方法は「成長社会」の教育方法をひきずったままでした。そのひずみが04年の「PISAショック*3」に表れて、【よのなか】科が注目され、広まっていったのだと思います。
成長社会の時代は、みんなが一緒に同じ方向を向いていくために、正解が一つであることが多かった。サラリーマンなら、出世して、郊外にマイホームを持つといった「一般解」があったわけです。学校教育においても、テストでは「『走れメロス』の帰り道の主人公の気持ちを以下から選べ」というような、必ず正解があり、その正答率が評価される「情報処理力」の高さが求められたわけです。
しかし、成熟社会はすべてのものごとや人が多様化、複雑化して、変化も同時に激しい。正解は一つではなく、一般解が見つけにくい時代です。教育においても、正解がわからなかったら発言しないのではなく、まず自分の考えを発言し、それから他者の意見を聞いて、自分の意見を修正していく、「納得解」を得る力「情報編集力」が求められています。欧米の国語の授業というのはディベートやプレゼンテーションをして、「情報編集力」、いわゆるPISAが定義する「読解リテラシー」を学ぶわけです。日本では、この能力を育てる授業が【よのなか】科というわけです。
【よのなか】科は「クリティカルシンキング*4」を身につける授業スタイルで、子どもと大人が一緒に学びます。生徒たちの身近で正解が一つではないテーマ、たとえば「ハンバーガー店をどこに出店すれば儲かるか」とか、「タイヤに付加価値をつけたら?」といったものや、さらには社会問題に踏み込んだ「赤ちゃんポストは必要か」や「自殺の是非」といったテーマを取り上げて、討論します。
【よのなか】科はこうしたテーマをもとに、アイディア出しのブレーンストーミング、ディベート、プレゼンテーションを繰り返しながら、子どもたちにクリティカルシンキングで考えるクセを身につけさせます。

任天堂DSによる反復学習に効果

その【よのなか】科でも、電子端末を使った授業が展開されていると伺いました。藤原先生はDiTT(デジタル教科書教材協議会)の副会長も務めていらっしゃいますが、そもそもなぜ、これだけ電子教科書の推進が叫ばれているのでしょうか。

電子教科書を推進することの本質には、現在の教員のゆがんだ年代構成があります。今、日本の教員は50代と20代でほぼ構成されていて、30代、40代の層が薄いのです。ワイングラス型と言われていますが、これはどういうことかというと、あと10年経つと50代のベテランの先生たちがいなくなるということです。このままいくと、学習指導や生活指導という、学校教育の基本ノウハウが上手く継承されなくなるのは明らかです。
板書やノート作成の細かいノウハウ、一人ひとりへの学習フォローの仕方、複雑化する家庭の事情を背景にした親や地域との付き合い方、軽度発達障害への対応、イジメや事件など多様な局面での生活指導の機微など、ベテランから若手に引き継がれるべきノウハウはたくさんあります。しかも、ベテランが退職したら若手がやるべきことは、これらの校務分掌を含めて、今よりもっと膨れ上がることになります。
そうなった時に、20代、30代の教員たちが効率よく子どもたちに教えていくためには、人間が指導しなくてもいい部分は、どんどん電子端末に移行していったほうがいいわけですよ。
僕が和田中で校長をやっていたときに、任天堂のDSを使って計算や漢字などをやらせたら、効果が出たんですね。お隣の和田小では、軽度発達障害の子にも一定の効果が出たということで、正規の授業のモジュール学習*5でやっています。だから、計算処理力や記憶力を高める「反復学習」はモバイル端末を持たせて、早めにデジタル教材に移行したほうがいいと思っています。
もちろん先生は計算をするオリエンテーションや、学習することの動機付け、進捗状況による宿題の追加、ほめることなどはしなければなりません。早く反復学習を、デジタルツールに移行しないと、それ以外の蓄積してきた教育ノウハウがあと10年で途絶えてしまうわけですよ。そういった近々の問題があります。


*1 デジタル教科書教材協議会(略称DiTT)
全ての小中学生がデジタル教科書教材を持つという環境を実現するため、2010年7月に設立。教科書会社はじめ、出版社、放送局、ゲーム会社、端末メーカー、広告会社、シンクタンクなど110社(2010年12月時点)の団体が参加。総務省や文科省などの官庁、学校現場、教育学を専門とする有識者らと連携し活動を展開中。
*2 PISA型学力のテスト
OECD加盟国で義務教育終了の段階にある15歳の生徒を対象におこなわれる国際的な学習到達度テスト。読解リテラシー、数学的リテラシー、科学的リテラシー、問題解決能力を調査する。12月7日に昨年のPISAテストの結果が発表され、数学的リテラシー9位、読解力8位、科学的リテラシー5位と、04年以来の教育政策のテコ入れによって、一定の成果がみえたとされている。
*3 PISAショック
04年に発表されたPISA型学力テストの結果は日本が読解力が14位に落ち、「ゆとり教育」から学力重視路線への修正を余儀なくされた。
*4 クリティカルシンキング
複眼思考の技術。情報を鵜呑みにせず、あらゆる面から「柔らかアタマ」で思考すること。「上手に疑う知恵」のようなもの。
*5 モジュール学習
読み書き計算などの基礎学力の向上と学習習慣を定着させるために、15分といった短時間で反復学習を毎日取り組む。
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