——そもそも超水道さんはいつ頃から活動されていたんでしょうか。
すずめ:大学生の創作サークルというと大学生から始めたように思われるんですが、ミタ君と斑君は習作時代が長いんです。
ミタ:僕と斑君とすずめ君は同じ中学校に通っていて、僕たちは埼玉にほど近い、東京の下町で育つんですが、そういう所の中学生ってヤンキーが多いじゃないですか。だから、外を歩いていると辛くなることがあって、放課後は斑君とサイゼリアにこもっていました。その頃は、まだ僕はすずめ君を知らなかった。
——すずめさんはどうしてふたりに合流したのでしょうか?
ミタ:斑君が「知り合いに絵がうまくて、学年3番目くらいに頭が良くて何でもできちゃうやつがいるんだ」って興奮して話すんです。当時の僕は中二病をこじらせていて、絶対そんなやつは性格が悪いはずだから、ギャフンと言わせようと思って斑君に紹介してもらった。それが彼なんです。そしたら思っていた以上に彼は何でもできたし実際に性格も良かったんで、初めて僕は他人を認めるということを知りました。
——笑。なるほど、強力なメンバーすずめさんが加わったんですね。今からちょうど7年前の話ですね。
ミタ:そうです。そして、放課後3人でサイゼリアに集まって描きもしない漫画の構想とか練っていた。その頃から自分たちのオリジナル作品をつくりたいっていう気持ちはありましたね。それから3人とも別々の高校に入るんですけど、高校2年で斑君とふたりでオリジナルのデジタルノベルをつくり始めました。当時はコミケがクローズアップされていて、斑君に「今同人活動がアツイらしいから、なんかふたりでやろう」と電話したのが超水道の始まりですね。
——そこから本格始動した。
ミタ:その頃から斑君が絵を描いて、僕が文章を書いてという役割ができ始めた。初めてコミケに出展した時は一枚も売れなかったので、今度はお年玉貯金の10万円つぎ込んで海外の業者にDVD200枚をつくってもらいました。けれど、それが届くのがコミケの次の日という大失態をやっちゃいまして(笑)。高校生で8万円の借金を背負ったんです。だから「絶対赤字を取り戻すまでやめないぞ」という意地が生まれて、受験勉強もせずにノベルづくりに燃えていました。
すずめ:それでもふたりはかろうじて大学生になるんですが、僕は美大に落ちちゃって1年間浪人生活を送るのですが、そんな僕を自由なふたりが「絵を描いて」って誘惑するわけですよ(笑)。
——つい最近のことですよね。アプリ制作はそれからですか。
ミタ:はい。アプリ制作をし始めたのは2011年ですね。ちょっと意識高い系の大学の授業で「これからはスマホくるよ」という話を聞いて「じゃあ、アプリをつくろう」ということになり、早速斑君が「iPod touch」を買ってきた。それがアプリとの最初の出会いでしたね。だから、僕らは携帯世代というわけではない。で、今度こそ売れるんじゃないかと思って、3人でマックに入って12時間かけて構想を練った作品が『ヴァンパイアハンターHIROSHI ~Around the Clock Show!~』なんです。これは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と『ブレイド』っていう映画を混ぜたような話をつくりたいねっていう話から始まりました。
——確かにHIROSHIは映画みたいなつくりでした。今映画の話がでてきましたが、おふたりが影響を受けた映画とか本とか、人物とかいらっしゃるんですか?
すずめ:決定的なものはないんですけど、絵の影響を受けたのはジブリですね。ゲームとかジブリの影響が大きかったと思うんですけど、本や雑誌や漫画はあまり読んでいません。だから、何でノベルをつくっているのか、正直自分でもよくわからない。別に本に憧れがあったわけでもなかったので。
ミタ:僕の場合も特になくて、それよりもつくるほうが好きだった。誰かに「すごいね」って言われたいというのが先にありました。ネット小説とかゲームには興味がありましたけど、紙の書籍はここ一年買ってないですね。けれど、ネットで活字は読んでいますよ。活字を読むのは好き。大好き。
——本は読まないけれども、物語をつくるのは好きなんですね。
ミタ:そうですね。僕らの創作スタンスは、目先の利益にとらわれず、自分たちが好きな物語を全力で世の中にアピールしていくことなので、コミケのコア層に媚びなかった。たとえば、ノベルゲームとかデジタルノベルには「ノベルサイコー」みたいな信仰があるんですが、紙の本にもありますよね?「紙の本サイコー」っていうの。電子書籍も「これからの時代は電子書籍だ。電子書籍サイコー」というのがあるじゃないですか。流れというか派閥として。僕らはどちらでもないんですよ。手段であって目的ではない。
——あくまでも現場主義でやっていて、アプリという手段を用いただけだと。
ミタ:そうです。ただ伸びのある分野に合わせただけで。そんな経緯で今の僕らがあるんですけど、最近出版の人に「ノベルって何?」と聞かれる機会が多くて……。「ノベルってものがあるんだね」って言われること自体に僕らは驚いているんです。
——お互いカルチャーショックを受けている(笑)。
ミタ:価値観はかなり違いますね。僕らは、2ちゃんねるなどのまとめブログから情報や小説を読むという世代なんで、有料のものはバカバカしいし、ネットだとリアルタイムな情報が得られるわけで。そういった意味で今後の出版業界は大変だろうなと感じています。
——今、無料と有料というお話がでてきましたが、ビジネスという視点ではどう考えていますか?
すずめ:まだ模索中ですが、僕らも一作品をのぞいて全部無料配信をしているのですが、今後もその基本姿勢は変わらないと思います。けれど、少なくとも一人分の生活費はまかなえるように黒字にしていきたい。高いクオリティのものをつくりつづけていけば、いずれファンがついて「DVDを買おう、グッズを買おう」といった具合にアニメのようなビジネスが可能なはずなんです。だから、いい作品をつくること。お金はあとからついてくると思っています。
——ビジネスはこれからなんですね。最後になりますが、今後の活動を教えてください。
ミタ:まずは、アプリという手段で食っていけるかを僕らが人体実験をやっていくこと。そして、寝る暇を惜しんで作品をリリースすること。今はゲームや出版、IT業界の人などいろんな業界の人たちが声をかけてくれるので、そうした人たちとのつながりを大切にして業界の垣根を越えた作品をつくっていきたいですね。今までは小粒の作品が多いんで、今度は大粒の作品を狙っていきます。
BOOK |
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●あらすじ
舞台は近未来。普通のハイスクール生のひろしがひょんなことからヴァンパイアハンターに任命され、オカマのハンターとともに“New!トーキョーシティ” を救う学園物語。 ●解説 代表ミタがプロットを、佐々木ケイが文章を、山本すずめと斑がイラストを担当し、4名のサウンドクリエーターを起用している。所々に挿入されているアメコミ調イラストが独特な雰囲気を醸し出しており、読者を惹きつける。本作品が人気の理由には、魅力的なキャラクター設定がある。活字のみの小説の場合は文脈が重要であるが、デジタルノベルの場合は登場人物がビジュアル化されているため、キャラクターの存在感が作品の良し悪しを左右する。そういった意味で、本作品は、絵・ストーリー・サウンド・キャラクターが有機的に結びついたバランスの良い作品に仕上がっている。 |