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株式会社 イースト・プレス マトグロッソ編集部 編集長 浅井 愛 氏 さまざまな価値観を世に送り出す。それが編集者の使命
浅井 愛 氏

大学卒業後、太田出版、ポプラコミュニケーションズにて書籍や雑誌の編集を経験。その後、子ども向けノンフィクションシリーズ『よりみちパン!セ』(理論社)編集部を経て、イースト・プレスに入社し、『マトグロッソ』を企画提案し、編集長に就任。

アマゾンからしかアクセスできないWeb文芸誌がある。
2010 年5月に創刊、森見登美彦、伊坂幸太郎といった豪華執筆陣が名を連ねるイースト・プレスの『マトグロッソ』だ。すべて無料で閲覧でき、読者参加企画の『[日本版]ナショナル・ストーリー・プロジェクト』などいままでにない文芸誌として注目を浴びている。
編集長の浅井愛氏は「いまの自分にはわからない、得体の知れない価値観に触れることができる場所をずっとつくりたいと思っていました」と言う。内田樹氏が命名したポルトガル語で「深い森」を意味する『マトグロッソ』の魅力を聞いた。

人生の血肉となる読書体験を

昨年創刊されて、従来にはない文芸誌として注目を集めている『マトグロッソ』ですが、発想の発端はどんなところからきているのですか?

私自身、小説の読書体験を通して自分のなかにしみじみと染み入っているものたちに生かされているという実感があり、もっと文芸に気軽に触れることができる場所をつくりたいとずっと思っていました。
いま、世の中は即効性や効用を謳うものばかりが多くて、書籍もそういう傾向のものが数多く書店に並んでいます。
一方で小説は、「これを読んだらすぐ元気になりますよ」と約束できるものではありません。でも、読者が受け止めてくれて血肉とし、その人の人生のなかで長い時間をかけて息づかせていくというような役割があると思うんです。
『マトグロッソ』はそういうものを生み出す場所でありたいと思っています。
そもそも『マトグロッソ』という名前は、「深い森」という意味を持つ言葉であり、ポルトガルの地名でもあります。名付け親は内田樹先生で、先生は以前からよく「マトグロッソに住むインディオ」の例を出し、「彼らは、森でみつけた“自分には理解できないもの”を、そのうち役に立つかもしれないと持ち帰る」という逸話を紹介しておられました。つまり、いまの自分にはない価値観と、それと知らずに出会う場所としての『マトグロッソ』。「あ、ぴったりだ!」と思いました。
そこには、読む前の、いまの自分には捉え切れないものが詰まっている。
なかにはもちろん、求めているものの形が明確で、その通りのものが欲しいと考える人もいるかもしれません。たとえば「叱咤激励されたい」とか「慰められたい」とか、そんな気分のときもあるかもしれない。そういうときだってあっていいけど、そんなふうに整理できない欲望や、さみしさを持て余してるときこそ、『マトグロッソ』に来てほしいなと思います。
直接的に人に会うことで満たされる部分や、育まれる価値観もある。それは間違いないけれど、活字を通して流れ込んできたものは、自分の頭で考え、自分の足で立つための、いわば、基礎体力になるんじゃないかなと私自身は感じています。
「活字は役に立つ」。これはこれで、効能を謳っているのと一緒でしょうか。でも実際のところ、『マトグロッソ』に掲載させてもらっている作品、それからそれを生み出して下さっている作家の方々と向き合っていると、そりゃあ役に立つはずだ、とつくづく思います。
だって書き手は、いま生きている自分と同じ時代の空気を吸って、同じような怒りや違和感や閉塞感を抱いて苦しんでいる人たちに「どうか届いてくれ」と、心の底から思っていますから。ここに手がかりがないわけがないです。

「深い森」の入口にAmazonを選んだ理由

しかしなぜ、アマゾンのバナーからしか入れず、しかも無料という形態にしたのですか?

きわめてシンプルな理由です。読者に届けたくてつくっているのに、人知れず存在している場所では意味がない。「こういう場所がある」と、読者の方々に気づいてもらえるところでやろうと考えました。それにはと思いをめぐらせて、一番ぴったりきたのが「アマゾン」さんだったわけです。それでこちらから打診をし、連携させてもらうことにしました。
「入口をひとつに絞る(アマゾンからしか行けない)」というのは先方からのリクエストで、それについては当初すごく戸惑いました。なにしろWebでの動線においては、個々の記事が雑誌のように一箇所に集っている必要がありませんから、読者にとって違和感があるだろうと思って。でも、それも個性かなと。
それに編集する側としてはやはり、目当ての作品のその隣の作品も読んでほしいし、場所全体を編集したいという気持ちもある。最終的には、全部ひっくるめて「深い森」というコンセプトに合っているんじゃないかと、現在の形でいくことを決めました。

電子マガジンというとその特性である音や動きをつけたりとか、アクセス解析によってマーケティングに繋げるといった方法がありますが、そのあたりを、あまり意識されていないつくりになっているのも、そうした考え方によるものでしょうか?

小説とか、活字の作品に関しては特に、想像力が入り込む余地を極限まで残したいという思いが強くて、技術的にできるからといって「音」や「映像」を組み合わせたいという気持ちは正直あまりわいてきません。
でも、Webマガジンだから、電子書籍だから、という理由ではなく、このテーマだったら映像があってこそ、音があってこそ、という作品を考えるならぜひやってみたいです。いまでも、“そのまま”がもっとも魅力的な方のインタビューとか、「間」や「表情」からこそ関係性が見えてくる方同士の対談のときなど、「ああ、いまこの風景を動画で見せたい!」と思います。
アマゾンは世界最大の書店であると同時に“総合オンラインストア”ですから、その企画に合った「形」を考え、売っていけるようになったらいいなあと、そういうことはいつも妄想しています。
ただ、くれぐれも順番は間違えないようにしたい。「何か新しいものを」と声高に言われているときこそ要注意で、自分自身を被験者としたときに、実感としてそういう形を伴っているほうが魅力的だと思うかどうか。そこは正直に、シンプルに考えていきたいです。

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