もう一つのサービス「manaba course」 では、どのような授業ができるのでしょうか?
「manaba course」では掲示板をメインにご活用いただくことが多いのですが、この掲示板だけでも、さまざまな使われ方がされています。
ある大学の先生が発明した使い方ですが、「manaba course」の掲示板に、名前を伏せた上で「出来の悪いレポート」を掲載したそうです。するとそれを見た学生たちは「こういうレポートを出しちゃだめなのか」と感じて、それ以降、全体のレポートのクオリティが上がったそうです。
また、「いつでもどこでも利用できる」というICTのメリットを活かした使い方もあります。ある大学のフィールドワークの授業では、現地の写真を撮って、その場で「manaba course」の掲示板にアップするような使い方をされています。各地に赴いている学生のフィールドワークの様子が、掲示板で一望できるようになるわけです。
学校や国境を越えた活用もあります。都内のある女子高では、掲示板で台湾やイギリスの学生と、環境問題などさまざまなトピックについて英語で議論をしています。このような学校の垣根を越えた取り組みは、クラウド*4という特徴を活かしているのではないかと思います。
そのほかに「コンテンツ」という機能があり、先生は 「manaba course」の中に教科書をつくることができます。ブログのように手軽にテキストを書いたり、さまざまなファイルや動画も貼り付けられます。ページごとに閲覧記録も管理しているので、先生は誰がいつ見たか、誰が見ていないか、わかるようになっています。つまり先生は、学生たちが予習・復習をしているか確認ができるのです。単に教科書を電子化するだけでなく、このような閲覧記録を残すことで、強力なツールになります。
紙の教科書を使っていた一斉授業に加え、網目状の教育ができていく感じですね。
そうですね。教科書というものが、単純に情報を載せるだけのメディアなんだという考え方に囚われていては、変化は起こらないと思います。話題の電子書籍も、情報を載せるだけだったら、そんなに価値は変わらないでしょう。メディアを電子化するだけでなく、クラウドで共有し、関連した情報や記録が残ることでイノベーションが起こるんだと思います。
基本的に今までの紙媒体による教育は、ある科目で試験をやると、結局その答案を持っているのがその先生だけで、同じ授業をとっている学生同士もどんなものを提出しているかわからないというのが一般的でした。それが 「manaba」のようなICTツールを導入することで、学生間で共有と交流ができ、そこに新しい「学び」が発生する。掲示板も、学生からの質問に先生が答える前に、学生同士で教え合う「学び合い」の場になっているとも聞いています。
従来の典型的な大学の授業は、教室での90分だけで完結していたのが、「manaba」を利用することで、家からレポートを作成して提出したり、授業に出る前にコンテンツを読んで予習したりと、教室以外の場所での学びが促進されるんですね。先生側にもメリットがあって、授業では「今日はここまでしか触れられないけど、続きの議論はmanabaで」とか「教科書ではここまでしか紹介していないけど、それ以外の知識はmanabaで公開」というようなことができるので、結果的に教室外の授業の場として活用できるのではないかと思っています。
今後は、中学校・高等学校向けというのも考えていますか?
はい。現在、「中高用 manaba folio(仮)」を開発中です。大学向けのものとは違って、どちらかというと先生同士の情報共有ツールの意味合いが強いです。中学、高校ではクラス替えがあると、担任の先生は、クラスの生徒がどんな子なのかを知るのに、一学期間かかるらしいんです。生徒個人の情報を、前の担任の先生や部活の先生、保健室の先生に聞いてまわるしか方法がないんですね。そこで、生徒に関する情報を電子化して、先生同士で共有できるシステムとして 「manaba folio」を使ってもらおうと考えています。
「manaba folio」には、生徒一人ひとりに教員や職員だけが書き込める「マネジメント」と呼ばれるページがあります。面談の記録や、指導メモ、特記事項を書き残せる、カルテのような仕組みです。この機能が中学、高校で非常に活用できると考えています。たとえば保健室の先生が、「Aさんが○○日に保健室に相談に来ました」とAさんのマネジメントページに記入する。記入と同時に、先生方にもメールにて連絡が届く。今度は部活の担任の先生が「実はAさんは、こういうことを友人と相談していた」とコメントをつける。今までは、先生同士で実際に会って会話するしか情報の共有ができなかったのですが、「manaba folio」を使うことで、ネット上でどんどん記録・共有されていくようになるのです。
「中高用 manaba folio(仮)」の特徴的な機能としては、試験の成績や出欠記録をすべて電子ポートフォリオ化する機能を準備しています。1年生からの中間テスト、学期末テストのデータの積み重ねであったり、授業の中で行われた小テストの点数、出席日数をすべてポートフォリオ化することで、その生徒の学びのプロセスを可視化できます。「中高用 manaba folio(仮)」は、先生が生徒に対してよりきめ細かな指導やケアを行うためのサポートツールになってほしいと思っています。
「manaba」の将来についてはどうお考えですか?
究極的には、小、中、高校から大学までの全ての学習の成果物を 「manaba folio」 に貯めることができたら、すごいことになると思います。大学卒業後もアクセスできれば、自分の学業生活の集大成をいつでも振り返ることができるようになるのですから。
最近は大学でiPadを学生に配付する等、一部の小中学校でも「一人一端末」という「ICT教育」*4が現実的になってきています。私たちは「manabaで教育にイノベーションを」と言っているのですが、インターネットの環境が整い、またPCや携帯電話、iPadのような情報機器の進化・普及した今だからこそ、初めて実現できる新しい教育方法が「manaba」から生まれていくと考えています。
「manaba」を通じて、教育を担う学校の先生方のお役に立てればと思っています。
*4 クラウド
クラウドコンピューティングの意味。ハードウェアやソフトウェアなどを購入する必要がなく、インターネットに接続するだけでサービスを受けることができ、大幅なコスト削減ができる。
*5 ICT教育
ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用した教育。