末井さんのTwitterを拝読していると、書店まわりを精力的になされていますが、末井さん御自身、編集者時代によくされていたことなんですか?
いえいえ、まったくしていませんでした。僕は雑誌編集者だったので、書店との接点はなかったんです。雑誌の場合は、取次ぎに雑誌を納めたら、自動的に書店に配本されるので書店とつながりはありませんでした。それに僕は営業でもありませんでしたしね。だから、書店まわりをしたのは『自殺』が初めてです。雑誌をつくっていた頃は書店に対する意識ってそれほど高くなかった。書籍と違って雑誌は書店に置いてある期間が短いでしょ。週刊誌だったら五日間ぐらい。月刊誌でも三週間が限度ですから。僕が書店をまわろうと思ったのは、朝日出版社で『自殺』が出る前にゲラを希望してくれた書店に送って、コメントを書いてもらったんです。そのコメントを見た時からですね。そのコメントを集めて販促用にチラシをつくったんです。コメントを読んでみると、僕が思っていた以上に応援してくれている書店員さんが多くて、その人たちに会いに行きたいと思ったのが書店まわりのきっかけですね。「この本が浸透することで、日本の自殺者数は、リアルに減少させられる。つまり本屋で人の命を救うことができる。これほどやりがいのある仕事は、なかなかないですよ!」という書店員さんの言葉を聞いた時は涙が出ましたね。これまで約30軒の書店をまわっています。
書店まわりをする時はどのようにしていましたか?
基本は営業担当の人が事前に書店に連絡してくれて、編集者の鈴木さんと営業担当者と三人で行くんです。手書きPOPと色紙、そしてサイン本をセットという形で。基本は平積みをしている書店を中心にまわりました。サイン本は書店でつくるんですが、中にはこんなにサインして大丈夫なの?という書店もありましたね。というのは、サインした本は返品できませんので、こっちが心配になっちゃって。あと、Twitter上に「何時に○○書店に行きます」と告知すると、読者の方が本を持って待っていてくれることがあるんですよ。そういった読者との交流も楽しかった。こうした人との交流がこの歳になってできたことは良かったなと思います。本当に手渡しで売っているような感覚がありましたから。中には吉祥寺にあるブックス・ルーエさんのように、「末井昭選書フェアをしましょう」という申し出をしてくれる書店もありました。プロモーションが広がっていくのを目の当たりにするのは本当にうれしいですね。
書店側からのフェアの依頼だったんですね。
そうなんです。これがフェアの時に配った冊子なんですが、「末井さんが大事にしている『自殺』に寄り添う11冊」と題して僕が選んだ11冊と、『自殺』を一緒に並べてコーナーをつくってくれました。そのブックス・ルーエさんのフェアをきっかけに営業の方がこの選書11冊をパッケージとして、各書店に働きかけてくれたんです。それを見た取次ぎのトーハンさんも選書フェアを仕掛けてくれて、結果、30軒くらいの書店さんがやってくれているんですよ。そうなると、できればネット書店で内容も見ないで買うより、書店で手に取って見てから買って欲しいと思うようになりましたね。
これからも書店まわりは続けますか?
はい、その予定です。名古屋よりも西の書店をまわれていないので、これからは関西、九州地方もまわりたいですね。
最後にひとつ、ご自身も編集者だった末井さんだからこそお伺いしたいのですが、今の若い編集者に言いたいことはありますか?
う~ん。言いたいことは山ほどあるんですが、一番言いたいのは、人と会うことを大切にしてほしいということ。最近は、人と直接会わずにメールのやりとりで済ましてしまう編集者もいますが、それでは面白いことは出ません。アイデアは何気ないムダ話から出てくることが多いから、人と会って話した方がいいです。僕は人見知りなので人と会うのは苦手だったんですが、編集者は会いたい人に会える仕事なんだから、その機会を生かさないわけにはいかないと思ってどんどん会いに行きました。チャンスを逃したらもったいないですよね。メールのやりとりはビジネスみたいな感じですけど、会えばその人の性格もわかるし面白いところも見えてきます。ぜひ、人と会うことを厭わないでほしいですね。
●全国展開の選書フェアのPOP/全国展開の選書フェア冊子
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●『自殺』発行:朝日出版社母親にダイナマイト心中された経験を持つ末井さんが、世の中が目をそむけたくなる自殺というテーマにあえて挑んだ痛快エッセイ集。本書には著者自身の不倫や借金ネタなど、これまた笑えないはずのどん底ネタが飄々とした文章で綴られている。読者をクスっと笑わせるユーモア溢れる一冊だ。 1,728円(本体1,600円+税) |