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幸森軍也氏 幸森軍也 IKUYA KOUMORI 
株式会社ディーアーク 取締役
1961年 12月21日、兵庫県賀生まれ。 1989年 株式会社ダイナミックプロダクションに入社。 1992年 『げんまん』(野性時代/角川書店)で小説家デビュー。現在、株式会社ダイナミックプロダクション部長。専修大学文学部講師。電子書籍の配信サイトを運営。
電子配信サイトだけでは儲からない

 私がここに呼んでいただいたのはダイナミック・アークという電子書籍の配信サイトを運営しているからだと思います。ほとんどの方がご存じないと思いますので、少しだけ紹介させていただきます。

 ダイナミック・アークは絶版になった小説を著者の方から許諾を直接いただいて、インターネット上で配信しています。先行する電子書籍配信サイトとしましては有名なのがパピレスさんがありますし、電子文庫パプリさんがあります。私たちがパピレスさんとちがうのは、著者の方と直接交渉して作品を提供していただいている点です。パピレスさんなどは出版社と提携して配信しているんです。著者の方とひとつひとつ交渉ですから、手間がかかるといえばかかります。けれども私はそれ以上のメリットがあると考えています。

 実は、古い作品について出版社は電子配信の権利を著者から預かっているのか、私は疑問に思っていますし、別の会社にサブライセンスしている点も怪しいと考えています。契約書でそんな契約を本当にしているのか? かなり疑問です。出版社は本質的には出版権しか持っていません。電子配信は公衆送信権、送信可能化権、複製権というのが、著作権法上の考え方です。ちゃんと契約していないと著者から訴えられたときに対抗できません。ですから、私は著者と直接交渉しているのです。現在のところダイナミック・アークはPC配信だけです。けれども今年にはiPhoneやiPadにも対応していく予定で、iPhone用は試作品もできています。こういうことは著者との直接交渉だからできるんです。

 ここ一年くらいの間、電子書籍のブームなんだそうです。実感としてはウソですけど、さきほど申し上げましたiPadが日本でももうすぐ発売されますし、アマゾンのKindleに対抗してソニーや松下の読書端末も発売されるとか。電子書籍を閲覧する環境が整ってきてはいます。けれども、じゃあ自分の回りに「読書は電子だ」などといって買っている人を見たことはありませんし、たぶん若い人でもそんなことはない。

 実際私が運営しているサイトでも月に何十冊と売れているわけではありません。それは私の能力が欠如しているから、ともいえますけれどもダイナミック・アークをはじめて間もなくソニーが運営していた「TimeBook Town」が閉鎖されたところを見ると、まぁ、売れ行きに関しては五十歩百歩なのではないかと思います。マンガでいえば最大のマンガ配信サイトはイーブックです。ヤフーなんかもありますけど。イーブックも単年黒字になったのが一昨年と聞いています。つまり、電子配信は多くが儲かっていません。

絶版本を復活させ、著者を救済する

 そもそもダイナミック・アークをはじめるきっかけは、会社から新規事業を考えろとの命令によるものです。

 ここ数年は出版不況といわれており、これが好転するようにも思いません。マンガももちろん特に小説の不振はひどいものです。このような状況の中で出版社に頼らず、自らできることは何かを考えた時、将来に向けては電子配信がいいのではないかと思いました。

 というのは、実は出版社は正面切って電子配信できないんです。時流に遅れていないという姿勢を見せるために一応はそれらしいことはしています。けれども本格的に、力を入れて、紙の本をなくし、電子書籍で会社を維持していこうなんて、出版社の経営者はまったく思っていません。それは電子配信が儲からないからではなくて、社会の構造上あり得ないのです。

 紙の出版物は、出版社が印刷・製本してトーハンや日販などの取次を経て日本全国の書店に並ぶわけです。今、日本全国で書店の数が一万数千軒です。出版社にとって書店がなくなると本を売ってもらえなくなるわけですから必死に保護しています。またトーハンや日販の大株主は出版社です。どっちも講談社、小学館が上位二位に来ていて、文春や新潮社、集英社、秋田書店、学研などが株主です。ですから取次を潰すこともできません。つまり、現在の紙の本の流通システムを崩すと関連企業も潰れ、出版社自身の収益にも大きな影響がでるわけです。もちろん紙屋さん、製版屋さん、印刷所なんかも仕事がなくなります。ですから、この仕組みを維持しなくてはならず、これが出版社が本気で電子書籍配信をしない理由です。とはいいながらも、アマゾンで本を注文したりと、従来とは違う流通が芽生えてきてはいます。もっともアマゾンに入っている取次はトーハンですけれども。

 このような中で現代は未曾有の出版点数があります。これが何を意味しているかというと、一点あたりの発行部数が減少している分を、発行点数で補っているのです。出版社が売上を維持するためには出版点数を増やし、総発行部数を維持しているわけです。もうひとつは製造原価を抑えること。最もしわ寄せが来ているのが編集費と著者印税でしょう。このことによる弊害はいろいろありますけれど、絶版のサイクルが早くなったともいえます。出版点数が多いと生産されては捨てられていく。次から次へと新しい本が出版され、古く売れない本はあっという間に消えていくわけです。そこには営業成績でしか判断基準はありません。本は文化財ではなく、消費財になってしまったわけです。

 しかし、著者などの制作者は、どの本も血を流して一生懸命書いています。こういうものをちゃんと保存しておかないのは大変不幸なことだと思います。そういうわけでダイナミック・アークで絶版書籍を扱おうと考えたわけです。出版社がどう考えようと、私は書籍は文化財だと思っていますから。

 それから、電子配信は小資本でも実現可能だという点も特徴です。極端なことを言えばパソコンが一台あればできます。もちろん〝売り物〟にするにはそれなりの技術とノウハウが必要ですけれども、出版社を興すことに比べればたいしたことはありません。

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