株式会社リコー 社会環境本部 環境コミュニケーション推進室 スペシャリスト。1998年より社会貢献を担当の後、2008年より現職。生物多様性保全の社員教育・啓発に取り組んでいる。 |
今や企業のCSR活動情報を発信するのに欠かせない環境サイト。例年、環境省主催の環境コミュニケーション大賞に名を連ねるなど、世界一の環境経営をめざす株式会社リコーには、ひときわ異彩を放つ環境サイトがある。その名も『ガイアイア』。
『ガイアイア』は、本来は社員の環境活動をブログ形式で掲載している社員向けのサイトだが社外に向けても広く開放されている。その狙いと主旨を生みの親でもある社会環境本部 環境コミュニケーション推進室 スペシャリストの伏見聡子氏に聞いた。
御社の環境コミュニケーションサイトは、オフィシャルサイトに『環境経営』のコンテンツがあるのに、それとは別に独立したサイトとして『ガイアイア』もあります。一般的には企業のオフィシャルサイトでの情報発信をする企業が多いなか、御社はなぜ『ガイアイア』を制作されたのでしょうか?
『ガイアイア』は、リコーグループの社員のための教育・啓発といった視点がきっかけで制作することになりました。
リコーグループはPlanet、People、Plofitのの3つのバランスがとれた持続可能な社会をめざす「環境経営*1」をすすめています。そのなかで社員の行動規範として「環境との調和」を掲げ、理想的な社員の定義として「環境意識が高く、環境保全のために自発的に行動し、持続可能な社会を実現するための『環』を広げられる人間」と定めています。
要するに、持続可能な社会を実現するためのビジネスマインドとボランティアマインドを持つというのが理想的な社員なのですが、環境意識調査を社員に行ったところ、その結果、現状では両方のバランスを保つというのはなかなか難しいということがわかりました。
弊社は、従来より社員向けに環境の教育を行ってきましたが、教育プログラムを受けただけで満足してしまい行動に移さない社員がいる一方で、ボランティアリーダーとして活動している社員が534名(2010年12月末現在)ほどおり、彼らは持続的に活動を続けています。そんな風に社員の環境意識が二極化してしまっているという現状を打破したい、社員の環境意識をもっともっと高めていきたいということで『ガイアイア』が生まれたんです。
今、「社員のための……」というお話しがありましたが、出発点は「社内報」的なサイトだったということでしょうか?
このサイトの目的は社員の環境意識を変えていくという社内向けサイトではあるのですが、「持続可能な社会」をめざすためには、環境保全の「環」を社外にも広げていかなければいけません。
今までボランティアというと、余った時間のなかで活動するというふうになりがちでした。だから、仕事が忙しければ活動する余裕はない、という程度の取り組みだったと思うんですね。でも、これからの時代は自分の人生をデザインしていくうえで、リコーグループの社員であるならば、仕事も余暇も常に「環境」という視点を持って生活してほしい。そうでないと、自発的、かつ継続的な活動になるわけがない。ましてや他者に働きかけることもできるわけがない。
だから、『ガイアイア』を見て、一緒に持続可能な社会を実現しようと考えてくれる人が増えると嬉しい。また、そう考えて行動してくれる人たちが、新たな「環」を広げてくれる、というように広げていきたい。『ガイアイア』はそのためのポータルサイトなんです。社内報的なサイトですが、外に向けて開放することで、社内だけではなく、社外の人も巻き込んでいきたい。
ボランティアリーダーの活動が『ガイアイア』に載れば、家族にも自分の活動状況を見せることができるし、一緒に活動している人にも見せることができる。そしてNGOにも見てもらえる。それが、今まで活動していなかった社員や、社外の人の行動のきっかけになり、活動の「環」が広がっていけばいいと考えています。
弊社は森林の生態系保全を支援する活動を行っているのですが、それも結局、地域の信頼を獲得しながらやっていかなければ成功しないので、そういう意味でも『ガイアイア』のようなサイトがあると、理解を得られやすい。そうした活動の積み重ねが掲げている負荷削減の目標数値につながっていくと思っています。
社員の意識を変える、というところから『ガイアイア』はつくられて、社外を巻き込む環境のポータルサイトになっている。だから、企業情報を発信というよりは、社員一人ひとりの環境活動がクローズアップされているんですね。
『ガイアイア』は人を惹きつけるサイトにしたかったので、社員一人ひとりの「物語性」を大切にしています。オフィシャルホームページの環境ページはやはり理念やデータなどが主体になってきますので、『ガイアイア』は記憶に残るアプローチを重視して、たとえば社員一人ひとりのボランティア活動日誌は読み物として、共感を得られるようにしています。
活動報告を書くとなると「何月何日、何をした」とビジネス的になりがちですが、「どこどこに行って、こんなことが大変だった、苦労した、こんなことを感じた」という伝え方をしたほうが、読んだ人の記憶に残る。
現場で実際にかかわった人の声が載せられていることが大切で、言葉にその人の「想い」が乗っているから、読んだ人が「この活動を自分も本当はやりたかったんだけど、こういうふうにやれば出来るんだ」という気づきになると思っています。また、読んだ人が、自分で体験してみて、納得する。その地道な繰り返しが環境保全の「環」の広がりにつながっていけばと願ってます。
確かに『ガイアイア』は、環境ボランティアのレポートはもとより、御社の「環境経営」に絡んだコラムや「環境節約技」といったコンテンツが掲載されているなど、読み物としても多様性に富んでいます。
ありがとうございます。弊社は「環境経営」を実行するにあたり、社員が現場でさまざまな取り組みを行っています。それは『環境経営報告書』のなかでも、もちろん紹介しています。ただ、環境報告書だと、どうしても、結果の報告になりがちです。
たとえば、弊社では2010年6月にニューヨークのタイムズスクエアに、初のソーラーパワー100%の「エコ看板」を掲げたのですが、その「事実」は環境報告書のなかでも紹介をしているんですね。ただ、その企画を起ち上げて、実現に至るまでの現地の担当者の「汗」や「苦労」といったものは描かれていないので、ガイアイアでは、そういったドラマにもフォーカスしていこうということです。
あとは、「環境節約技」という日々の生活で役立つ知恵を載せるコンテンツや、専門家が「生物多様性」のコラムを載せていたりと、コンテンツ自体も進化し続けるサイトになっています。「我楽多様性」というコンテンツでは、私たち社会環境本部がブログを書いたり、お付き合いのあるNGOの啓発イベントの紹介をしたり、リコーの社員が旅行に行ってきて、感じた自然の報告だとか、とにかく多様性が得られるようにしています。
「環境節約技」なんか、なんで企業のサイトにこんなものが載っているんだとよく言われるんですが、社員もビジネスパーソンである前に、一人の生活者であるし、仕事でも営業先でお客さまとの話題づくりに使っているという声もあります。だからなるべく、制約をつくらず誰がやっているものでも、どんなことでも「環境」にかかわるものはすべて載せて、その時、すぐに役に立たなくても、「あそこに行けば、環境のことがわかる」と思い出してもらえるサイトをめざしています。
すごくいい効果だと思ったのは、ボランティアリーダーの社員が、『ガイアイア』に載ることで、活動の状況を社内外の人に共有できるんですね。地域の人や職場の人に「こんなことをやっているんだ」と見せやすくなった、と。見てもらうことで、また次の活動のレベルも上がっていくので、その好循環ができています。
それによって、環境保全のためだけではなく、社員一人ひとりの人生の質が上がる、そのことが企業を強くし、そしてそれを社会に還元することで持続可能な社会につながっていくのではないか、というふうに考えています。
2009年に開設して1年経ったところで、「環境goo大賞」「生物多様性部門賞」*2を受賞して社内外で注目を浴び、今はアクセス数も安定しています。
- *1 環境経営
- 企業の事業活動によって発生する環境への影響を減らすことと、企業が利益を上げることを同時に実現していく企業経営のこと。環境関連の規制だけではなく、幅広い環境活動が求められる。リコーの環境経営についてはこちら。
- *2 「環境goo大賞」「生物多様性部門賞」
- 環境情報の総合サイト「環境goo」が年1回、優れた環境コミュニケーションを行っている企業、団体等を表彰する。「ガイアイア」は2009年度「大賞」と「生物多様性部門賞」を受賞した。