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デジタル教材は未来を変える 慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授 デジタル教科書教材協議会 副会長 中村 伊知哉 氏
中村 伊知哉 慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授、デジタル教科書教材協議会 副会長。1984年、郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当する。1998年よりMITメディアラボ客員教授、2002年よりスタンフォード日本センター研究所長を務める。2006年より慶應義塾大学教授。デジタル教科書教材協議会 副会長を務めるほか、政府・官庁・民間の各方面で教育やデジタルを中心に幅広く活動を行っている。

デジタル化の波は、今や書籍や雑誌だけに押し寄せているのではない。教材も徐々にデジタル化され、実際に導入している学校も増えてきている。政府も教育のデジタル化に関し、「2020年までに1人1台の情報端末を」という閣議決定を下した。子供たちの豊かな可能性を引き出すため、我々はどのようなデジタル教材を作っていくべきなのか?慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授であり、デジタル教科書教材協議会(DiTT)副会長を務める中村伊知哉氏に、日本でのデジタル教材の現況と展望を伺った。

日本は教育情報化の後進国

まずはデジタル教材について、現在の日本の状況、また海外の状況を教えていただけますか?

日本の教育情報化の議論は20年くらい前からあったのですが、2010年に急速に動き始めました。この年は出版の方では「電子書籍元年」といわれてる年ですけれども、教育の方でも「デジタル教科書元年」などと呼ばれ、政府で「2020年には1人1台の情報端末とデジタル教科書が使える環境を整備する」とやっと閣議決定したんです。ですが、韓国は来年か再来年にはそれを実現すると言っていますし、シンガポールもだいたいそのくらいのスピードで取り組んでいますので、欧米はもちろんアジア諸国から見ても日本は6~7年ほど後れをとっているということが言えます。本格的に動きつつあるとはいえ、国際的に見るとまだまだこれからというところですね。

日本が立ち後れた原因は何でしょうか。

原因はいくつかあると思います。たとえば、韓国やシンガポールと比べると、そもそも政府が教育情報化に対して熱心ではなかった。日本は民間企業レベルでは高度な情報化が進められているのですが、こと教育に関しては極端に遅れているんです。それは政府が政策的に進めることができなかったためだといわれています。では、なぜ教育分野の情報化政策が進まなかったのか。私は、その最大の原因は、日本の教育が「成功していたから」だと思うんです。 これまでは日本の教育が海外諸国にとって一つのモデルになっていました。明治以降の急速な近代化や戦後の驚異的な復興があったのは、そのベースにきちんとした日本の教育があったからなんだという海外からの評価があり、日本国内でもそういう受け止め方をしていた。国際的な学力の調査を行っても日本の学力がすごく高い時期が続いていて、だから変える必要がなかったというのがおそらく根底にあると思いますね。 それがOECD(経済協力開発機構)の学力調査で10年くらい前から急に日本の学力が落ちているという現実が突き付けられた。同時に産業界も国際競争力を失って疲弊しはじめ、どんどん国力が衰退していく。そのような状況の中で、改めてわが国の教育のあり方を振り返って見たときに、諸外国に比べて明らかに教育の情報化が遅れているんだということが、やっと認知されたということだと思います。

しかし、日本の教育情報化への動きはやはりまだ緩やかなようですが、何か障害となっていることがあるのでしょうか?

教育現場にデジタルを導入するメリットとデメリットに関する議論が一本化されていないからです。実は、今時「デジタル化すべきか否か」というような議論をしてるのは日本だけなんです。各国とも教育現場ではその段階をもうすでに通り越えて、どのように、いつまでに、どういうふうに使うかというところに到達しているのに、まだ日本はその手前で止まっている。 デジタル技術というのは道具に過ぎないわけで、その使い方は無限です。想像力教育にも使えるし、コミュニケーション教育にも使えるし、学力向上のための効率化にも使える。導入しようとする人によって重点の置き方が違ってくるので、なかなか議論が一本化しない。一方、導入に反対している人たちは、デジタル=電卓というようなとらえ方をしている。「教育現場に電卓を持ち込んでいいのか」というような議論ですね。ですから、なかなか実像がはっきりしなくて、「ではこうしましょう」という方向にまだドライブがかからないというのが、一つの原因だと思います。

デジタル技術が広げる日本の子供たちのクリエイティビティ

中村先生が教育の情報化に力を入れられるきっかけは何だったのでしょうか?

10年ほど前にアメリカのマサチューセッツ工科大学で客員教授を務めていたのですが、そこでメディアと子供の研究所をつくろうという運動をしていました。そこではいろいろな新しいデジタル技術を使いながら、子供たちがアニメや音楽、ゲームやロボットをつくるという活動をしていたんですけど、それをやりながら、「あ、これだったら日本の方が面白いな」と思ったんですよ。日本の子供たちの方がクリエイティビティが高いしコミュニケーション能力もあると思ったので、日本に戻って「NPO法人CANVAS」をつくりました。これまでに2,000件くらい子供たちの創作ワークショップをやりながら、年に1回は慶應のキャンパスを使ってワークショップコレクションという子供の創作イベントを行っているのですが、今年の2月に開催したときには1日に5万人以上の子供たちが集まりました。

5万人ですか!

はい、たぶん世界最大の子供創作イベントです。日本はそういう新しい技術を使って何かを創造するという活動が実はもの凄い先進的なんです。私は世界のメッカだと思っています。ただそれはこれまで学校現場じゃない別の場所、たとえば商業施設だとか学童クラブだとかそういうところでしかできなかったので、これはやはり学校でやらせたいよね、ということをずっと言っていて、だったら教育の情報化から入るしかないんじゃないか、というのがDiTT発足の一つのきっかけでもあったんですよ。

日本の子供たちの方が面白いと思われた理由は何だったのでしょうか?

アメリカは社会的なコミュニケーションのあり方が日本とは結構違っていて、たとえば子供同士の諍いごとがあったりするとそこに両方の親が出てきて、徹底的にお互いの言い分を主張しあって、最終的に先生にジャッジを求めてそれに従う。日本の場合だと、まだ自分たちで解決しようとしますよね。そのようにコミュニケートしてものを解決していく力は、おそらく日本の方が高いんじゃないかということを常々思っていて、そこにデジタルという道具が入ってきたらどう使うんだろうかっていう関心があったんですよ。アメリカの東海岸にも西海岸にもいましたのでいろいろ見ていたのですが、自由にヘンテコなものをつくったり、それで表現して人を笑わせたりする能力は日本の子の方がよっぽど高いなと思ったんですね。アニメなんかをつくらせると如実に表れますね。日本の子ってギャグを入れたりして「僕の面白いでしょう」っていうのをつくるんですけど、アメリカやヨーロッパ、他のいろいろな国でやってみても、だいたい美しい、親が喜びそうな綺麗な作品に仕上げてくるんですよ。だから、デジタルという道具を教育現場に入れるということにしても、使い方は各国のコミュニティによってだいぶ差が出るんじゃないかという気はしますね。

今先生がおっしゃったようにコミュニケーションのあり方が国によって異なることで、デジタルに対する価値感もまた異なってくるということなのでしょうね。

この間韓国に行って驚いたのは、日本の場合だと、先に「何社製のどういう端末を入れていくのか」というのが議論になるんですが、韓国はもうその議論を止めたって言うんですね。どんな機械を使っていてもいいと。極端に言うと、同じ教室でWindowsを使っている子もいれば、Macを使っている子もいてもいい。どうせ最終的には自分で買うでしょ、っていうところまで来てるんです。大事なのは、どんな教材、どんな教科書でも、あらゆる端末で見られるようにすること。だって、現実の社会はそうなんですからね。だから標準化が一番大事だと韓国は言っていて、もうパソコンとインターネットの教育ではなく、端末はマルチデバイスで、教材は全部クラウドに載ってる。“クラウドで”というのが前提なんですね。どんなデバイスでもクラウドの教材がちゃんと使える、見られるようにする標準化が大事だということを言っていて、それは日本の議論よりかなり先にいってる。日本もやるんだったらもうそこのレベルからいかないと駄目なんじゃないかなという感じはしますね。

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